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【創世の絆】超巨大イレイザーを討伐せよ!

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【創世の絆】超巨大イレイザーを討伐せよ!

リアクション



アヴァターラ

 ざわざわと波のように押し寄せてくる質量が周囲を取り囲んできているのが感じられる。
「こんなに多いとは思ってなかったなあ」
「イレイザーの中に敵が進入してくることなどなかっただろうからな。こやつらの楽園ということだ」
 レキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)のつぶやきに、ミア・マハ(みあ・まは)が答える。
「ヘビは楽園から追放されたんじゃなかったっけ?」
「だからこんな場所に潜っているのじゃろう。来るぞ!」
 バネのように身をしならせたヘビが一斉に飛びかかってくる。
「……やれやれ!」
 ミアの魔力が極低温を産み、ヘビを押し戻す。しかし、アヴァターラは生身のヘビほど冷気に弱くはない。吹雪に吹かれた個体の下を潜って、別のアヴァターラが迫る。
「ああもう、多すぎ!」
 ミアの手を取って、もう一方の手でけん制のトリガーを引きながら後ろに下がった。シューシューという呼吸音がさらに迫る。
「……平気!?」
 ガガガガ! と通路を照らす光弾を放ちながら、赤城 静(あかぎ・しずか)が下がる二人に並ぶ。
「本部からの通達! この場の突破は優先しないわ。進行より防衛ラインの確保を!」
「別ルートからの侵入に舞台を優先するってこと?」
 剣を構えた桜花 舞(おうか・まい)がアヴァターラを振り払いながら告げる。首をかしげるレキに、頷いて返した。
「体内の全容が分からない以上、一点突破は危険だわ。各小隊の報告を統合して全体構造を探るつもりみたいよ」
「そういうことなら、仕方ないな!」
 奥に向けて銃弾を吐き出しながら、叫ぶレキ。一向に、アヴァターラの数が減る様子はない。
「……くっ!」
 舞は、自分の実力をよく分かっている。数の多いヘビに飛びかかられないように撤退しながらの戦いを心がけているが、それではひたすら下がることになってしまう。
「……つうっ!」
 思わぬ死角が、この通路にはある。不慣れな地形であることに加えて、壁や天井を這いずるアヴァターラの戦い方によるものだ。
 このときも、舞の頭上から、ヘビがその首を狙っていた。
 ……が。そのアヴァターラの体を、異様な肉塊のようなものが捕らえた。
「さすがに……うまい、とは、言えませんねえ」
 エッツェル・アザトース(えっつぇる・あざとーす)は、ぼそぼそとした口調で呟いた。
「……うわ!?」
 その異様な姿と、生物的な嫌悪感で、舞ののどから声が上がってしまった。
「驚くのも無理はないですが、時間稼ぎが必要なのでしょう?」
 エッツェルの肌が複雑にうごめき、筋繊維らしきものが生物的な異音を立てる。
「手伝ってくれるの?」
 と、聞く静に、エッツェルは異形の口に微笑みを浮かべて答えた。
「仕事ですから」
 そして、強烈な魔力が噴き上がり、低温と化してヘビを凍り尽かせていく。
「こっちも、続けるぞ!」
 ミアも負けじと吹雪を繰り出す。なるほど、低温がアヴァターラに有効なのは確かなようだ。
「とにかく、この戦線を意地だね。よし!」
 気合いを入れるレキの弾丸が、凍り付いたギフトを砕いていく。一方で、舞と静はその実力差にうちひしがれ……てはいなかった。
「ルカさんに連絡をするわ! 静はここに残って援護して!」
 叫んで、舞は駆け出す。静はその場に残って、高く灯りを掲げて通路を照らしながら、時折氷術を放つ。
 魔法が使える静はともかく、剣士である自分が隣で戦うのは危険を増す恐れのほうが強いと考えたのだ。うちひしがれるのは、後でもできる。
「……あまり、明るくない方が私は助かるんですけどね」
 ぽつりと、聞こえないぐらいの声量でエッツェルは漏らしていた。


「ちょっとちょっと、一応、生物の体の中でしょ!?」
 叫びを上げるのは、イリス・クェイン(いりす・くぇいん)。イレイザー内部を駆けている彼女に並んでいるのは、クラウン・フェイス(くらうん・ふぇいす)だ。
「道順が、ちょっと、複雑すぎ……っ!」
「生物の体内って、もうちょっと効率的に作られてるものでしょうが! 何よ、このめちゃくちゃな構造は!」
 他人がいないのをいいことに、口から火を吐きそうな怒りを露わにしている。
「生物としての機能より、要塞としての機能の方を優先してるのかも!」
 時折、死角から飛び出してくるヘビのギフトを切り払い、叫ぶクラウン。
「ちゃんと全体図、把握できてるんでしょうね……」
 と、イリスが呟いた時。
 どぉん!
 と、激しい爆発音が響いた。正確には、彼女らの横の壁が打ち抜かれ、がれきに変じたのだ。
「うひゃ!? なななな、何よ!」
「あ……あら、ごめんなさい。人がいるとは思ってなかったから」
 剣の切れ味と強力に任せて壁を引き裂いたリネン・エルフト(りねん・えるふと)が、こちらも驚いた表情を向けた。
「あ……あらあら、いえ、こちらも少し焦っていて、飛び出しすぎましたわ。でもどうして、壁を切ってらっしゃるんですか?」
 1ミリ秒で猫を被るイリス。
「えーっと……その方が早いかなって」
 超人的な腕力があってこそ可能なことである。それを、リネンは頬をかいて照れてみせるのだった。
「……シンプルな解法ですね」
 という点は、イリスも認めざるを得ない。
「なるほど」
 と、いう声が聞こえた。
「確かに、この状況でじっくりダンジョンアタックってのもまだるっこしいと思ってたんだ」
 ごろごろ……と、移動式の大砲を引き連れた柊 恭也(ひいらぎ・きょうや)が、しっかりと前方を見据えていた。前方と言っても、壁である。
「うわ、そんなの屋内に持ってきていいの?」
「言い訳は後でなんとでもなる!」
 教導団員とは思えない叫びと共に、恭也は腕を振り上げた。
「てぇーっ!」
 どおおん!
 先ほどにも増した轟音がイレイザーの体内に響く。壁をがれきと土埃に代える砲弾に、さすがのアヴァターラもわさわさと逃げ出していく。
「壁が多くて面倒くさいなら、シンプルにすればいいのよ!」
 開き直ったリネンが穴のサイズを通りやすく広げていく。
「……いいのかな?」
 きょとんと、クラウンが首をかしげた。とがめているというよりは、疑問をそのまま口にした、というような雰囲気だ。
「天井が崩れる直前くらいまでは、穴だらけにしたって構わねえだろ」
 それでどう言い訳するつもりなのかは分からないが、すでに恭也は次弾の装填に入っている。
「……確かに、通行は楽になったわね」
 ぽつりとイリスが呟いた。
「そいれじゃあ、私は本隊に報告します! 空けた穴の形、ちゃんと把握しておいてくださいね」
 走り回る必要がなくなったので、いくらか上機嫌になっていた。クラウンも特に異論はないようで、イリスの後を追う。
「小暮はこっちか?」
「コアはどっち!?」
 恭也とリネンの砲撃と剣撃はますます鋭くなっていく。
 少しの後には、このあたりの地図はずいぶんシンプルになっていたという。
 なお、イレイザーは排除対象であるため、おとがめはなかったと記録されている。