校長室
【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
リアクション公開中!
■ 冷たい雨の降る路地で ■ レイカ・スオウ(れいか・すおう)がユノウ・ティンバー(ゆのう・てぃんばー)と契約を結んだのは、パートナーの中で一番最近だ。 出会いは去年の冬、12月初め。 あれから半年経った。 悪い子ではないことは確か……だと思うけれど、ユノウに関してはまだまだ分からないことも多い。 振り返る意味でも出会いを過去見で見てみたい、とレイカは龍杜を訪れた。 ■ ■ ■ 冬の空は重い灰色。 時間はまだ昼過ぎなのに、周囲は薄闇に沈んでいる。 買いたいものがあってショッピングモールに行くことにしたのだけれど、風の冷たさとどんよりした天気に、出掛けてきたことをレイカは後悔しつつあった。 「あら……」 天気予報では今日一日、曇りではあるけれど雨は降らずにもつ、という予報だったのに、重い空は水分を抱えることに憂いたようだ。 降り出した雨に、レイカは念のために持ってきていた折りたたみ傘を開いた。 家に帰ってしまおうか。 ふとそんな考えもよぎったけれど、買いたいものは気になるし、ここまで出てきて引き返すのも癪だ。 やはりこのままショッピングモールに行こうと、レイカが再び歩き出した、その時。 何か聞こえたような気がした。 雨に濡れる空京のビル、その合間の路地から聞こえたように思い、レイカはそちらへ曲がってみた。 最初、路地の先にあるものが何なのか、レイカには分からなかった。 白っぽいもの、泥のような色、所々に赤……そして。 それが何だか見分けた時、レイカは息を呑んでいた。 それは泥まみれの人だった。 半袖の白いシャツと膝丈までのズボン。とても真冬に外を歩く恰好だとは思えない。 そして半袖のシャツから出ているべき腕は、両側とも無い……。 袖口から見える肩口はズタズタで、骨や筋組織がむき出しだ。 しとどに濡れた袖からは黒ずんだ血がしたたり落ちて、地面の雨と混ざり合い赤い水たまりを作っている。 ビルの壁にもたれた人影は、またたきもしない死んだような瞳で……けれど確かにレイカを見つめた。 まるで、死に行く運命を丸ごと肯定しているかのような、精気のない瞳で。 レイカは傘を放り出し、慌てて手を差し伸べた。 くらい、くラい、ばショだ 雨が、振っテいる。 冷たイ……痛イ。 ぼく、は……ぼ……ワタシ、は……こコに、いルのに 誰もそレを、知ラない。 誰もワタシに、気付かナイ。 だかラ、死ヌ。 きっと死ヌんだ……。 そう思っテいた、ケれど。 ――誰? 碧色の髪、美シイ顔立ち。 ダ……レ…… 意識を失った彼を、レイカは家まで連れ帰った。 他のパートナーと一緒に処置を施し、彼は一命を取り留めた。 失われた彼の両腕には義手を取り付け、彼は人らしい姿を取り戻した。 「あなたは魔鎧だったんですね」 レイカはそう言って、彼の足首に刻まれた『AA−097』という記号に目をやった。正しくは魔鎧の失敗作、と言うべきか。 失敗作として破棄され、それでも這い上がってきた彼。 なのに、死すら肯定するその雰囲気は今も彼から消えていない。 だからこそ、なのだろうか。 「私と契約しませんか?」 レイカはそう彼に持ちかけていた。 レイカ自身の力への渇望……そして、彼が持たない生気を契約することで取り戻せるのではないか、という少しばかりの願いを込めて。 「契約……」 彼は戸惑った。 何の関わりもない自分を助けてくれただけでも不思議なのに、すぐにでも死んでしまうかもしれない自分と契約しようと言い出したレイカの意図がつかめない。 けれど、自分がレイカに助けられたのは事実だ。 そこに、幾ばくかの恩義を感じることも確か。 (……恩ハ、返さナけレバならない) そうして彼はレイカと契約し、名をもらった。 「Unknown……ユノウ、なんてどうでしょう」 「それデいい……」 初めて与えられた番号ではない自分の名前に、ユノウはゆっくりと頷いた。