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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ

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【蒼フロ3周年記念】パートナーとの出会いと別れ
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リアクション

 
 
 
 ■ 空と緑と見えない風と ■
 
 
 
 それはまるで風薫る庭園。
 広々とした敷地は緑に覆われ、花々が咲き乱れる。
 木々の間を飛び回る小鳥の影が緑の大地を横切ってゆく。
 
 リース・エンデルフィア(りーす・えんでるふぃあ)の墓は、そんなイギリスの墓地に作られた。
 周囲にある先祖の墓も、由緒ある家柄を示して立派なものだ。
 一族と緑に囲まれて、リースの墓は静かにまどろんでいるかのようだった。
 
 墓石に刻まれた名前は、リース・エンデルフィア。
 引っ込み思案な上に、好きというのがどういう感じなのか分からないから、とリースは生涯独身で過ごした。
 パートナーたちとも縁が切れたわけではなかったが、皆それぞれやりたいことを見付けて、順に旅立って行ったから、リースの最期は一人暮らしだった。
 けれどそれは、リースにとって寂しいだけの日々ではなく、穏やかな楽しい毎日だった。
 
 小さい頃からリースは、立派なボディガードになることに憧れていた。
 代々優秀な剣士、騎士を輩出しているエンデルフィア家は、今はボディガードを生業としている。父も2人の姉も優秀なボディガードであり、自分もそうなりたいと願い続けていた。
 だからマーガレット・アップルリング(まーがれっと・あっぷるりんぐ)と契約したのを期に、父にイルミンスール魔法学校に入学させられたことは、まるで厄介払いされたかのようで、かなりのショックだった。
 だからこそ、優秀なボディガードとなって父に認めてもらえるようになりたい。そう願ってずっと努力してきたリースだったが、父の心を知り、その目標は変わった。
 魔法の使用に才能があるリースだからこそ、イルミンスール魔法学校でその才能を磨いて欲しい。そんな風に父が考えていてくれたことを知ってからは、リースはイルミンスール大図書館の司書を目指すようになったのだ。
 魔法の才もあり、本も好きなリースは必死に勉強し、見事その職に就いた。
 司書の仕事はやりがいもあったし、休みの日に家で読書をしたり、のんびりとお茶を飲んだりして過ごすこともまた、リースにとっては心安らぐ生活だった。
 
 そして静かに眠るようにその生涯を閉じたリースは、地球のイギリスにある一族の墓に葬られたのだった。
 
 
「ねえリース、今日はすっごく良い天気だよ」
 その墓の前にぺたんと座って、マーガレットは空を見上げた。
 雲1つ無い、どこまでも青い空。
 吹く風に運ばれる緑の香。
 どこかでリースが微笑んでいる、そんな気配を感じる。
「リース、そこにいるの?」
「はい、いますよ」
 そんな返事が聞こえたような気がして、マーガレットは嬉しくなった。リースは死んでしまったけれど、ここはリースから一番近い場所なのだ。
「この間もね、あたし、カナンの遺跡の発掘に行ってきたんだよ。ほとんど埋もれちゃってたけど、石造りのすっごく綺麗な遺跡だったの! 石の種類とかよく分かんないんだけど、淡い白にいろんな色が混じったみたいなので、中にある石像も同じ石で作ってあったんだよ。壁と同じ色だったから、よそ見してたらぶつかっちゃって、しばらく鼻が痛かったよー。昔の人はぶつかったりしなかったのかな。で、石の通路を進んでいったらね、……」
 生きていたリースに話しかけていたときと同じように、マーガレットは大げさなゼスチャー付きでリースの墓に話しかけた。
 自由が好きで1人でいるのも平気なマーガレットは、あちこちを旅して過ごしていたのだが、ちょっと前からはアドベンチャラーとして遺跡の発掘をしている。
 埋もれていたものを掘り出すときの期待感、遺跡を歩くときのドキドキ感がたまらない。
「それでね」
 遺跡の説明をし終えると、マーガレットはちょっと改まった様子でリースの墓石を見つめ。
「あたしが見付けて掘り出した遺跡だから、名前をつけていいって言われたんだよね。だからあたし、『リース遺跡』って名前にしたの。どう? ビックリした?」
 ふふっと楽しげに報告したマーガレットは、こちらにやってくる電動車椅子に気付くとぱっとそちらに駆け出した。
 
「セリーナ!」
 走ってくるマーガレットをセリーナ・ペクテイリス(せりーな・ぺくていりす)は笑顔で迎えた。
「久しぶり!」
「そうだねぇ。でも元気そうで良かったよ〜」
「あたし、押してあげるね」
 マーガレットはセリーナの後ろに回り込むと、リースの墓の前まで車椅子を押していった。
 今日はリースの誕生日。墓参りをしようと申し合わせたのではないけれど、リースを忍ぶには命日よりもっと相応しい。
「リースちゃん、私……ティルナ・ノーグに行ってきたよぉ」
 墓の前まで来ると、セリーナはそこにリースの面影を重ねるように微笑んだ。
「1人で行くのは不安だったから……このエンゲージリングをプレゼントしてくれた人と一緒に行ってきたんだけどねぇ」
 セリーナはエンゲージリングを大切に手で触れながら、その時のことをリースに報告する。
「花妖精として生まれる前の私は、悪戯好きでわがままなのに寂しがり屋さんな性格の子だった、って聞いたわ〜。お優しいお父様とお母様がいてねぇ……」
 セリーナはおっとりした口調で、リースの墓に語りかけた。
「いろいろ分かったんだね。セリーナ、思い切って行って良かったね」
 隣で話を聞いていたマーガレットが言う。
「1人だったら勇気が出なかったかもしれないけど、一緒に行ってくれる人がいたから、ねぇ」
 自分のことが分かったのは、その人がいてくれたお陰、とセリーナは嬉しそうに答えた。
 
「ほう、おぬしらも来ておったか」
 セリーナが語り終える頃にやってきたのは、桐条 隆元(きりじょう・たかもと)だった。
 ぶつかったはずみでリースと交わした契約を破棄する方法を探していた隆元だが、リースがこの世からいなくなったことで、契約の縛りは消えた。
 破棄の方法を求めていたにも関わらず、そうして契約が消えたことを隆元は嬉しく思えなかった。それは彼女たちと共に過ごした日々の所為であっただろうか。
 隆元は手みやげの甘味を墓に供えると、リースに自分の近況を話し始めた。
 リースがいなくなった後、隆元はマホロバへと戻っている。
 マホロバの温泉旅館との約束も終わった為、隆元が『桐条』の苗字を名乗る理由も、マホロバの温泉旅館にいる理由も全て無くなっている。なので今は苗字を『毛利』に戻し、毛利隆元として暮らしている。
「温泉旅館で働いていたときの金は、わしには使い道も使う時間も無かったからな。約束が終わる頃には随分と貯まっておった。それでマホロバに屋敷を建てたのだよ」
 やはり自分の屋敷があるというのは落ち着くことだから、と隆元は言う。
「今は赤川や国司と隠居生活をしておる。おぬしたちとイルミンスールにいた頃から見れば嘘のような穏やかな生活だが、これはこれで良いものだ」
 リースもまた、そんなゆったりとした時間にいるのだろうと、隆元は空中に視線を彷徨わせた。
「……なんだか、リースと目が合ったような……そんなはずがあるまいな」
 ふと笑う隆元に、実は私も、とセリーナが言う。
「まるですぐそこに、リースちゃんがいるような気がするわねぇ」
「そうそう、あたしもずっと思ってたの!」
 墓に来た時からずっとそうだった、とマーガレットは手を打ち合わせた。
「みんながそう感じるなら、きっとここにリースがいるんだよ」
「リースちゃんが……ええ、そうですねぇ。きっと頷きながら私たちのお話を聞いてくれてるわ」
「では案外、わしらの住んでいる辺りまで、ふらふらと様子を見に来ているやも知れないな。魂魄には時間も距離も関係ないのであろう」
 契約が失われている以上、この世にリースがいないことは確かなのに、今でもすぐ近くにいるような気がしてならない。
 
 宙を見上げる3人に、緑の風が吹く。
 リースが恥ずかしげに笑う声のような優しい風が――。