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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【強襲――突破】



 自らを「真の王」と称するような、傲慢で邪悪、そしてそれだけの力のあった、ニルヴァーナより飛来した世界樹アールキング。
 だが同時に、人の心の隙を擽り、大陸の裏から根を伸ばすような性格のこの樹が、正面から堂々と迎え撃つ筈は無い――……その読みの通り、核を守っているかのように根を集合させ、そこへ攻撃を集中させている間。いつの間にか、下方へとゆっくりと長く細く伸ばされていたその根が、槍を突き上げるように、契約者たちの固まる輸送艦、そしてその周囲の艦隊へと向けてその先端を一気に上昇させたのだ。

「直撃されたら、全滅だわ……!」

 奇襲を警戒していたガーディアンヴァルキリーとルドュテが真っ先に応じて、輸送艦に回り込むようにして根を刈りに回った、が。
「ダメです、数が多い!」
「惑わされちゃ駄目だ。要所に直撃するのだけでも、潰す!」
 緊迫したクナイの声に北都が応じる。
 即座に割り出された根の進路、艦との接触ポイント等のデータが共有化されていき、一同の間に緊張が走った。味方がいることにすら念頭に無いと言わんばかりに、剣山のごとく間隙の無い根の上昇に、小回りの効かない戦艦では、ひとつひとつの回避は間に合わない。
「イコン部隊、可能な限り輸送艦への到達を防げ!」
 亮一の指示が飛び、各機は一斉に動いたが、狙い定めた一撃だ。集中攻撃でようやく分断出来るというレベルの相手に、手数と時間が圧倒的に足りない。
「回避は捨て、エンジン全開!全艦衝撃に備えろ!」
 こうなれば、あとは出来るだけ直撃を避けることだ。ネルソンが叫んだ、その時。全艦が速度を上げて少しでも危険域を脱そうとしている中、突然にその速度を失速させて、後方に落下するように下がったのは伊勢だ。輸送艦の速度がそれを上回り、速度と高度を下げた伊勢の機体が、根の到達する直前、丁度輸送艦の真下へと潜り込むように割り込んだ。
「させないよ……ッ!」
「輸送艦は、守るであります!」
 伊勢の周りへ付いていた生駒が、覚醒させたジェファルコン特務仕様を接近する根へと、バスターレールガンを撃ちながら急速接近し、そのエネルギーをありったけこめてデュランダルを振るった。
 先端を抉り、根の側面をズタズタに裂いて伐採しようとするが、一本に応じているだけで手一杯だ。辛うじて、心臓部に直撃するものだけは払えたが、それでも、弱い。だが、最早優先順位を選別して攻撃するような時間も残されてはいなかった。
 手当たり次第に根をへと攻撃を仕掛ける生駒に、ハイコドのシアンも続く。
「イコン格闘技……超空間、無尽パァァァァァァンチ!!」
 腕を犠牲にするのも厭わず繰り出される攻撃にあわせて、伊勢のイコン部隊や、リネンたち空賊団も一斉に襲い掛かり、サビクもまたシリウスと声を合わせた。
「「リアクター、アウェイクン!」」
 声と共に覚醒した機体は伸びてくる根へ直進し、覚醒シールドライフルで薙ぎ払うようにその先端へと打ち込む。抉れ、傷を負うのが見えたが上昇は止まらない。
「なら……ッ!」
 サビクは睨み据えると共に、自らのつけた傷口へ、それが再生されてしまう前にナパームを撃ち込むと、爆発のタイミングに合わせてデュランダルで横薙ぎにふり抜いて、巨大な根をへし折った。
 
 酷く永いような数秒間。
 攻撃が錯綜し、轟音か混じり合う。
 爆煙に視界が埋まり、それぞれのモニターはひっきりなしに赤が踊る。
 そして。
 ゴガンッと言う鈍い音が幾つも響くと同時、伊勢から上がったのは警報と煙だった。
「船底に被弾!損傷率58パーセント!」
 コルセアが、悲鳴のようなアラートを背に声を上げる中、吹雪が真っ先に「輸送艦の損傷は!?」と声を荒げると、輸送艦からは落ち着いた声が返ってきた。
『軽微。装甲板に傷がいった程度ですよ』
 吹雪への礼を込めてか、声は明るい。それを受けて、吹雪はふうっと息をつくと、これ以上航行不可能な自艦の状況に、寧ろ満足げにして、びっと、モニター越しに敬礼を送った。
「自分はここまでのようですね……皆、先へ行くであります!」


 たが、損傷率こそ伊勢より低いものの、各艦も無傷だった訳ではない。
 輸送艦は無事で、残る三隻も航行は可能ではあるが、一機を失ったことで荷電粒子砲のローレーションが崩れていること、何より損傷そのものによる火力の低下は否めない。
 立て直しを図るべきか、どうか。艦内に諮詢が廻ろうとした、その時だ。

「ここで足止め食ってる場合じゃねえだろ!!」

 そんな怒鳴り声と共に、先頭へ踊り出ると同時。アールキングの根の集合地点へ飛び込んだのは、斎賀 昌毅(さいが・まさき)マイア・コロチナ(まいあ・ころちな)の搭乗するフラフナグズだ。
「道が無いなら、ぶち破ればいいんだろ! そういうことなら俺に任せやがれ!!」
 嬉々とした声音と共に、明らかに無理矢理に突っ込む気満々なパートナーに、副操縦席のマイアは深々と溜息を吐き出した。
「今回もまた無茶苦茶な作戦を……と言うのもいい加減飽きましたね」
 とは言うものの、火力至上主義をモットーに改造された機体は、それこそこういった場面でこそ生きるということも理解しているため、それ以上は咎めずに、マイヤは計器へと集中する。
「さて、ただ闇雲に突っ込んでもムダにエネルギーを消費するだけです……ね」
 呟いたマイヤの声にまるで反応したように、アールキングの表面、エリュシオンの騎士団側のニキータから、アールキングの根の弱体部分のポイントが送られてくる。同時に、深部まで偵察に潜っていた鉄心からも、通信が入った。
『先程の攻撃で、中心のエネルギー消耗が激しくなっているようだ。今なら、一点集中で突破できる』
 そう言って、侵入角と方向がマップに表示されていくのに、マイヤが意見を伺うまでもなかった。昌毅はすぐさま舵を切ると、躊躇うことなくそのポイントまで直進する。
「出し惜しみナシだ、キレーな一本道、作ってやるぜ!!」
 言うが否や、荷電粒子砲の一撃を進行方向へと発射させると、そのままリミッターを解除したフラフナグズ推進力をフルに使って、デュランダルによるファイナルイコンソードで、初撃で弱った部分を一気に切り刻んでいく。
 自機の防御も、帰還のエネルギーも全く無視した全力の一撃は、艦隊から受けたダメージの蓄積と、蟲龍から養分を吸われ続けたことでの弱体化、そして自身の最後の罠で消耗していたことが重なって、昌毅のフラフナグズは強引に真っ直ぐに前進していく。
 そして、一点。確かにそこへ道が開いた。

「……っしゃ、いっけえぇえええ!!」

 昌毅の叫びを合図にするように、残る三隻は、チャージ完了もそこそこに、荷電粒子砲をその一箇所へと集中させた。その余波が消えきらないうちに、佐那のザーヴィスチが覚醒と共に飛び込んで更にそれを抉りぬいていく。
 爆音と、轟音。空気を震わして耳を劈き、爆煙が立ち昇る向こうに、開かれたものを疑う者はなく、それが塞がれてしまう前にと、輸送艦はそのまま躊躇いもなく直進していく。

『ご武運を』

 北都の声が、そんな彼等の背中を押す。
 そうして、強引に押し開かれたその「道」へと、輸送艦たちは押し入ったのだった。



 それを見送って、軽い溜息と共に、マイヤは残された艦隊たちへと通信を入れた。

「フラフナグズ、エネルギー残量0.2パーセント……回収、願います」