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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【征く者達】




 各方面が死力をつくしている間、アールキング内部へと突入する者達もまた、その行動を開始していた。

『ポイント確認、進路設定完了。輸送艦、発進します』
 先行し、偵察に出ている源 鉄心(みなもと・てっしん)ティー・ティー(てぃー・てぃー)の乗る{ICN0005651#マルコキアス?}からの情報を受け、アールキングの核の元まで向かうべく、その内部へ向けて輸送艦が発進したのと同時。契約者達が操縦する護衛艦隊もまた、発進した。
 輸送艦を取り囲むようにして、まずは前方を葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)伊勢が。次に左方をローザマリア・クライツァール(ろーざまりあ・くらいつぁーる)ホレーショ・ネルソン(ほれーしょ・ねるそん)HMS・テメレーア。右方を柚木 桂輔(ゆずき・けいすけ)アルマ・ライラック(あるま・らいらっく)ウィスタリア、そして最後、後方に湊川 亮一(みなとがわ・りょういち)高嶋 梓(たかしま・あずさ)アルバート・ハウゼン(あるばーと・はうぜん)ソフィア・グロリア(そふぃあ・ぐろりあ)の乗る土佐がそれぞれ輪形陣の配置についたのを確認して、ローザマリアは輸送艦へと通信を入れた。
「全艦配置完了。護衛任務に入ります――貴艦においては、現間隔を維持しての航行をお願いできますか?」
『善処します』
「ありがとうございます」
 返答に礼を返すと、続けてローザマリアは四隻の艦長へ向けて回線を開き、それぞれの艦の管制室が応じてそれぞれの情報を一本化させていく。
「戦術データリンクを形成。全艦、リンク異常なし」
 言って、振り仰いだローザマリアの視線を受けて、ネルソンは頷いた。
「狼藉を働く輩は門前払いで外へ叩き出すのがエスコートたる我々の務めぞ。各艦が最大限、義務を果たさん事を私は期待する!」
 そんなネルソンのそれぞれの艦で作戦は開始された。




 後方――『土佐』。

「さて、久しぶりの艦隊戦だ。派手にやるとしようか」

 亮一は、眼前のアールキング、そして待ち受ける樹化イコンや樹化虚無霊たちの姿に、不敵に口元を軽く引き上げた。
 彼の乗る戦艦、土佐の戦闘指揮所では亮一の指揮の下、梓と共に、ベテラン航海士、航海科分隊、砲雷科分隊、通信科分隊が。そして機関室には機関科分隊、イコンデッキではアルバート、ソフィアの手伝いとして甲板科分隊、整備分隊が忙しなく動いている。
「戦術データリンク、構築完了。リンク異常なし……広域マップ、モニターに出します」
 梓が表示させたマップに、自分達の艦隊と、レーダーや探知に引っ掛かった敵影とが表示されていく中、その到達目標のアールキングを示す数値と規模に、思わず亮一の口元に苦笑が漏れた。
「でかいな……骨が折れそうだ」
 呟いて、亮一はイコンデッキへと通信を入れた。
「そちらはどうだ?」
 それを受けて、アルバートは「整備は完了してます」と応じた。
 整備分隊やソフィアの的確な動きで、部下イコンたちのスタンバイは完了しているようだ。
「カタパルト接続完了。いつでも出せますわよ」
 艦橋に入ったソフィアの連絡を受けて「了解」と亮一は応じる。
「出撃と同時に、側面並走を維持。接近して来る樹化イコン、並びに樹化虚無霊へ対応しろ」
 了解と応じる二機の部下イコンのパイロットに「カタパルト接続完了確認。進路クリア」と、梓からの通信が告げる。
「発進どうぞ! 頑張って下さいね」 
 発進シークエンスに入った部下達は、既に出撃の援護として、進路へ発射された要塞砲の残滓が消えていくのを待って、その声に背中を押されるようにして、戦場へと飛び出して行ったのだった。


 同じく、前方――『伊勢』。

 殿を受け持つ土佐に比べれば、こちらは前方からやって来る敵の壁の位置だ。
 輸送艦の護衛として、最初に接敵するその艦のモニターには既に、待ち受ける樹化イコンや樹化虚無霊たちの敵影が、もう相手の攻撃範囲に入る距離まで迫ってきているのを示していた。
「歓迎会にしては派手でありますね」
 そんな吹雪の呟きに、オペレーターのコルセアが吹雪を振り返った。
「システムリンク異常無し、統制射撃準備完了」
「了解。イコン部隊発進。全機、配置につくであります」
 吹雪の指示を受けて、部下イコンやエンペラー・オブ・エイコーンのイコン部隊が次々と発進し、前方からの敵の接近から伊勢を守る壁となるように散開する。
 とは言え、最優先事項は伊勢ではなく、核を破壊に向かう校長と、契約者達の乗る輸送艦を守ることだ。それを念押しすると、吹雪はモニターに次々と、戦闘区域には行って来たと示す赤く点滅する敵影マークと睨めっこしながら、手持ちの武器や、部下達の射線、配置、そして交戦の指示等、その全てを一旦完了して、吹雪はモニター越しのアールキングへ向けて睨み据えた。
「ここは通さないであります!」

 そうして、前方後方の両艦と、右方のウィスタリアからも、迎撃と交戦の準備が完了したとの連絡を受けて、左方にして旗艦『HMS・テメレーア』でも、
「さて――無粋な招かざる客には御引取り願おうか?」
 艦長のネルソンは、その口角を、僅かではあるが不敵に引き上げた。
「作戦開始。各艦、荷電粒子砲発射準備」
「了解」
『荷電粒子砲発射準備開始。エネルギーライン全段直結、チャージ開始……』
 ローザマリアがチャージを開始したのから、幾らかをあけてアルマが応じ、他の艦も荷電粒子砲を発射するために、順次、準備に移っていく。
 威力の大きな砲だけに、その最大限の威力を発揮するためには、かかる時間も多いのだ。その間のこうぼうの殆どは、各艦の有するイコン部隊や、味方機に戦場を預けることになるため、ほんの僅かではあるが、生まれる余裕で、味方同士の通信の間に、雑談が混じる。
 実際、アールキングの動機はなんだったのか、とか、樹化虚無霊は巨大な蛇やムカデみたいなのばかりで気持ちが悪い、であるとかそんな話題の中「どっちにしても、ここが正念場なんは間違いないやろ」と明るく言ったのはシーニー・ポータートル(しーにー・ぽーたーとる)だ。
「この戦いが終ったら、皆で飲みに行こうで」
 それは、仕事終ったら飲みにいこう、と言うような軽い調子だったが「だだだ、駄目であります!」と声を裏返したのは吹雪だ。
「フラグであります! そういうセリフはフラグでありますッ!」
 そのセリフに、一同の間に笑いが漏れたが、本人は至って真剣だった。
 いや、何人かは笑ってはみたものの、不安が過ぎった者もいたかもしれないが。
「おしゃべりはそこまでよ。”イコン部隊全機、射線上より退避されたし”」
 そんな彼女等の会話に、ローザマリアの硬い声が割り込んだ。
 途端に、空気を再び緊迫したものへと変わる。
 了解の合図と共に、各艦の掩護機達が一旦後方へ下がる間に、ローザマリは艦隊外の契約者達へも一斉に声を投げた。
「友軍に通達、送信のポイントより退避願います」
 それを受けて、素早くポイントから味方機がいなくなったことを確認して、ローザマリアは手元の計器へと集中し「砲撃用意よし」と声を上げた。
「照準合わせ。誤差修正、マイナス1.3」
 いけます、と、ローザマリアの視線が告げるのに、ネルソンは慣れた手つきでその手を正面――アールキングの根の、その中心へ目掛けるようにして振り下ろした。
「オープン・ファイアリング」
 瞬間、轟音と共にテレメーアが微震する。
 空気を震わせた荷電粒子砲は、正面を走り抜け、偵察していた鉄心より送られてきたアールキングの根の核に至る道のなかでも、密集の最も薄い部分を抉っていった。
 各艦内が、抉られた映像と、表示されたダメージの大きさに沸いたが、ネルソンはそれにぴくりとも動かさない。ローザマリアは得たりと自分の役割を再開する。
「着弾確認。発射角修正。エネルギー再充填開始……ウィスタリア、貴艦の状況は」
『フィールドシェル安定、エネルギーバレル生成。チェンバー内、正常加圧中。エネルギーチャージ発射可能レベルへ到達……』
 ローザマリアの通信に、アルマが応じ、カウントダウンが始まる。
『総員、指定ポイントより退避お願いします――……荷電粒子砲、発射します!』
 わずかと言うほど短くもないが、時間が経ったというほども空かない間を挟み。二発目の荷電粒子砲が、空を裂いて抉られた根を更に深く抉っていく。
 再生しかかった部分へ喰らったためか、引き千切られた根がぼとぼとと落下していくのが見えた。
「よし……効果はあるようだな」
 その結果に満足げにネルソンは頷き、それぞれ間を空けて第三、第四と、土佐、伊勢の荷電粒子砲が続く。轟音と共に、確実に開かれていく道行きに、艦内の空気は明るかった。

 そうして、互いの再充填時間を補うようにして、各艦が荷電粒子砲のローテーションを行いながら、アールキングの深部へ向けて進攻を開始したのだった。