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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【終焉の絆】禍つ大樹の歪夢

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【イーダフェルト防衛戦】 3

「むう………………」
 イコンの操縦席にいる及川 翠(おいかわ・みどり)は、ふて腐れたような顔で自身の目の前のコントロールパネルを見ていた。
 そこには――何もない。
 一切合切のパネルもスイッチも排除された操作盤があるだけで、もはやタダの机と同様の体(てい)を晒していた。
 それも致し方なかった。
 というのも、翠はあまりにも好奇心旺盛で、放っておくと何をしでかすか分からないからである。気づけば勝手にスイッチを弄りまくって、イコンそのものの操作が暴走する――なんてことも少なくなかった。
 そのため、スイッチやパネル等を全排除するという処置をとったのである。
 それもこれも、全ては翠の勝手な行動を抑制するためであった。
 が――
「むー。つまんないよー」
 そうとは知っていながらも、やはり退屈なのは否めない翠である。
 それはイコンのメインパイロットであるミリア・アンドレッティ(みりあ・あんどれってぃ)も理解しているところで、彼女には翠をなだめる役目があった。
「仕方ないでしょう? 翠」
 と、ミリアは子供に言い聞かせるような声で言った。
「あなたにスイッチをあげると何をするか分からないんだもの。今回は我慢してちょうだい」
「そんなこと言って、いつもそうじゃん〜」
 ぶーっと文句を垂れる翠。
 そこにフォローの手を入れたのは、同じくイコンに乗っているスノゥ・ホワイトノート(すのぅ・ほわいとのーと)徳永 瑠璃(とくなが・るり)だった。
「まあまあ、翠ちゃん。今回はイーダフェルトの防衛が目的なので、仕方ないのですぅ」
「そ、そうですよ。シリアスな目的なんですから……」
「う〜ん、そりゃそうだけどぉ……」
 二人にまで言われたら翠も納得せざるを得ない。
 そう、目的はシリアスなのだ。イーダフェルトの防衛。その為に、自機イコン{ICN0005593#シルフィード?}にも頑張ってもらわねばならない。
 ミリアは神殿へと接近してくるゴーストイコンや樹化虚無霊へ向けて、砲撃に移った。
 ライフルや荷電粒子砲を使った距離を取った戦い方は、シルフィード?も得意としているところだ。接近戦に持ちこまれぬよう、常に間を置くことを忘れない。シルフィード?はその強烈な砲撃で、次々と敵を撃ち落としていった。
「わー、すごーい!」
 何も出来ない翠は、コクピットの中で無邪気な歓声をあげる。
「ふふっ、翠ちゃんはお気楽ですぅ」
 ライフルや粒子砲にエネルギーを充填するスノゥは、そんな翠を見て笑顔になった。
「で、でも、だから、私たちもすごく、元気が出るんだけどね……」
 瑠璃もまた同じような笑みだ。
 そう。なにも翠は、本当の意味で何も出来ないわけではない。そこにいるだけで皆を元気づける人というのはどこにだっているものだ。彼女はそうした気質を備えていた。
 そしてその心は、ミリアにも届いている――。
(翠、勇気をちょうだい……! 私はこれ以上、彼らをイーダフェルトには近づけさせないから……!)
 ミリアはシルフィード?を加速させる。
 イーダフェルトを守るために。ポムクルさん達にこれからももふもふの良さを分かってもらうために。
「やああぁぁぁッ――――!!」
 気合いの声とともに、シルフィード?は空を駆け抜けた。



 キュウウゥゥン……――ドウウウゥゥゥッ――――!!

 スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)董 蓮華(ただす・れんげ)が操るイコン、紅龍の放ったライフルが、敵の一体を撃ち落とした。
 次いで、スティンガーに従う二機の部下イコン達が、左右に広がってその他のゴーストイコンを叩く。ライフルによる光線。爆破。落下してゆく残骸と――。次々に敵機を落としてゆく。
 紅龍とその部下達は、フォーメーションを守ってイーダフェルトの管制室の守りに従じていた。
「さてと……次は向こうの連中だな、蓮華」
 スティンガーが紅龍のモニタを動かし、近づいてくる別のゴーストイコン部隊を捉えた。
「ええ、そうね。……そろそろ代わるかしら?」
 サブパイロット席に座る蓮華はスティンガーに尋ねた。
 紅龍は複座式のイコンだ。状況に合わせてメインとサブのコントロールシステムを任意に変えることが出来る。つまり、蓮華はスティンガーにメインコントロールの座を譲る気かどうかと尋ねているのであった。
「ご冗談を」
 スティンガーは笑った。
「今はまだ、その時じゃないな。しばらくは俺に任せておけ。武器のエネルギー装填は任せるぞ」
「ええ、分かったわ」
 蓮華はさほど反意を見せることもなく、うなずいた。
 もとより、遠距離や中距離の敵はスティンガーに任せてある。心配して声をかけたが、スティンガーがそのつもりじゃなければ無理強いすることはないのだった。
「よし、行くぞ!」
 気合いの声とともに、スティンガーは部下イコン達を伴って突撃した。
 ソニックブラスターの音波攻撃を放って敵の耐久力を奪うと、すかさずレーザーライフルの嵐を浴びせかける。

 キュウゥン……シュドオォォンッ! シュドオォォンンッ!!

 無数の光線が宙を交い、ゴーストイコンは次々と撃ち落とされていった。
 そして、残り少ない敵機に近づいたところで、
「蓮華!」
「分かったわ!」
 スティンガーは蓮華にメインコントロールの座を譲った。
 すかさずコントロールを担った蓮華は、そのまま加速を落とすことなく敵ゴーストイコンに接近した。その手に握るは機晶ブレードである。イコンの接近用基本武器の一つで、最も使い慣れたものだった。
「ハアアアァァァァァ――――ッ!!」
 裂帛の声の一閃。
 蓮華の放った一撃は一瞬にして敵を叩き斬る。
 爆発するゴーストイコンを背に、紅龍は距離を取って旋回した。
「ふう……。まずまずの出来……――って、きゃっ!」
「なのだ?」
 息をついた蓮華のコクピット横から、もぞもぞと出てくる小さな影があった。
 それはポムクルさんだ。一体どこから潜りこんだのか、いつの間にか一匹のポムクルさんが紛れこんでいて、蓮華の膝の上に乗ってきた。
 ぽてん、と腰を下ろすポムクルさん。
 それを見下ろしながら、蓮華は仕方なさそうにほほ笑んだ。
「まったく、しょうがないわね……」
 今さらポムクルさんを降ろすわけにもいくまい。
 蓮華はそう考えながら、スティンガーにメインコントロールを譲る。再び遠中距離攻撃に移った紅龍のコクピットの中で、蓮華は小さなポムクルさんとともに攻撃目標を定めた。
(砕け散るは震天駭地っ……! 狙い決める……!)
 神殿へと近づく敵へ向けて、紅龍の軌道が動き出した。