リアクション
○ ○ ○ 「ぜすたん、いけがこおってるよー! スケートみたいにすべってみよー♪」 関谷 未憂(せきや・みゆう)のパートナーで外見5歳児のリンちゃん(リン・リーファ(りん・りーふぁ))が、茶色い髪の吸血鬼の外見5歳児、ゼスタくん(ゼスタ・レイラン(ぜすた・れいらん))の腕を引いて、池にやってきた。 「かまれた手がいてぇー。けっきょく、ごちそういただいてないし。うー……」 ゼスタくんはなにやら不満気だ。 「いくよー」 リンちゃんは、ぐいっとゼスタくんの手を引っ張って、池の上に下りた。 池には、他にも滑って遊んでいる子がいる。 「こんなふうにすべるんのである!」 ヴァルキリーの子供――エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)のパートナーとなった、外見5歳のジュリオくん(ジュリオ・ルリマーレン(じゅりお・るりまーれん))が、遊んでいる子供達に見本を見せている。 偉そうな言葉を使おうとしているのだけれど、なんだか変な言葉使いになっている。 「でこぼこはさけるのであろう」 まったく危なげのない滑りだったが、光の翼で転ばないようコントロールしつつ、滑っているようだ。 「すごいねー!」 リンちゃんも足を踏み出した。 「うわわわわっ、わわわわわっ」 凍った池はつるつるだ。リンちゃんはゼスタくんの腕を離して滑っていく。 「あっ!」 そして、すぐに転んでしまう。 「すべるにきまってんだろー。きょう、オレもつばさないし、まきぞえはごめんだぜー」 ゼスタくんは一人で、岸の方に向かってしまう。 「いたい……いたいよぉ」 リンちゃんはその場にうずくまってしまった。 「うごけないのか? そうかうごけないかー」 にやりんとゼスタくんは笑みを浮かべるとすぃーっと滑って、リンちゃんに近づいた。 「たすけにきてやったぜー」 そういってゼスタくんは手を伸ばした。 「ありがとー……えいっ!」 「うおっ!?」 リンちゃんはゼスタくんの手をぐいっと引っ張って、転ばせる。 「えへへー。ひっかかったー!」 「よくもやったなー。こうしてやるっ!」 ゼスタくんは、リンちゃんの上に覆いかぶさって、わき腹をくすぐる。 「きゃはははは、はははははっ。ゼスタんやめ、やめてーっ」 「よぉし、血をのませてくれたら、やめてやるぜー」 言って、ゼスタくんは口を大きく開けて、リンちゃんの首筋に噛みつこうとする。 途端。 「こっちどうぞ」 リンちゃんは雪をつかんで、ゼスタくんの口の中に入れる。 そして、べちべち叩いて突き飛ばしてちょっと離れた後、立ち上がって腰を手に当てる。 「そーゆーのはおたがいのごういのうえでしないとだめなんだよ」 「つめてぇー」 ゼスタくんは雪を吐き出して、口を押える。ちょっと涙目だ。 「がーるふれんどいっぱいいるんでしょー」 「ここにはいないもん。それにおんなじのばっかりじゃあきるだろ。いろんなあじをたのしみたいんだよー」 「すいーつあいこうかいつくったんでしょ。あじはすいーつでたのしむの! ここにもマシュマロハウスあるし、なかにはおかしたくさんあるんだよ、そっちのほうがおいしいよ」 リンちゃんの言葉に、ゼスタくんは膨れながら首を横に振る。 「きゅーけつきがちをすってなにがわるいんだよー」 「まなーっていうものがあるんだよ」 「まなーなんて、しらねー。はらへった」 「うーん……」 ふて腐れているゼスタくんに、リンちゃんは近づくと彼の頭をなでなでする。 「うんでも、ごめんねー。さきにいたずらしたの、あたしだし。あいてるマシュマロハウスいっか。……はいっ」 そして、手を差し出す。 「うん。あまいものたべる」 「おやつのじかんまでまだちょっとあるけど、こっそりたべちゃおー」 ゼスタくんはリンちゃんの手を握り締めて立ち上がって、一緒によろよろしながら、岸まで滑って行った。 「おーし、たべよーぜ! リンチャンのこともたべるぞー」 「それはだめだけどね!」 「それじゃ、それはまたこんどー。やくそくやくそく」 そして、二人っきりでマシュマロハウスに入って、こっそり中のお菓子を食べていくのだった。 「そこの……えーぬいぐるみ! なんだそのふざけたすべり方は。あぶないであろう」 ジュリオくんがつぅーと凍りの上を仰向けで滑っている小さな着ぐるみ――外見4歳?の キャンディスちゃん(キャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ))を注意する。 キャンディスちゃんのパートナーの 茅ヶ崎 清音(ちがさき・きよね)はもちろんこの場には来ていない。来ていても他人だと言い張るだろう。 「ナ〜ガ〜ノ〜」 立ち上がったものの、すぐにべちゃんと転んで、転んだ姿のまままたキャディスちゃんは滑っていく。 「1998ねんに、にほんでオリンピックがひらかれたのヨ〜」 今度は横向きでついーっと滑っていく。 「ほかの子のじゃまになるであろうが。ちゃんと起き上がってすべ……うっ」 追おうとしたジュリオくんは、でこぼこした氷に足を取られて、べちんと顔から転んでしまう。直ぐに翼で浮き上がって起き上がるが、顔がまっかっかになっていく。 きょろきょろ周りを見回す。誰も見ていないようだった。 いや……。 「すごいすごい、大きなおとがしたとおもったら、ころんでる子いたよ! かおからつっこんでったの、あははは、あははは」 大笑いをしている子が一人。 ヴァルキリーのミルミちゃん(ミルミ・ルリマーレン(みるみ・るりまーれん))だ。 「うぐぐ……」 屈辱でジュリオくんはさらに顔を赤く染める。 「あのむすめはー……」 ミルミちゃんをぎぃっとにらみつけた後、ログハウスの方に目を向ける。 「ううっ。リーアめ、なぜこのようなことを……うぐぐ……」 ジュリオくんは、唇をぎゅっとかみしめる。 でも、自分はここにいる子供達の中では、年上な方だから。 お兄さんとして、しっかりしなきゃだめなんだ、だめなんだぞとジュリオくんは自分に言い聞かせる。 「そこのおまえ! そのようなしせいでは、ころんだときにあたまを打ってしまうであろうだろうよ! ログハウスでぼうしをもらってくるのだ!」 時々不満を呟きながらも、ジュリオくんは子供達に危険がないよう、氷上の見回りと指導を続けていく。 「とーきろくりんピック、アイススケート、ヨロシク〜。ヨーロー♪」 キャンディスちゃんは華麗なジャンプを決めるどころか、起き上がった途端、べちゃんと転ぶ。 そしてそのままの姿勢で滑り、また起き上がってはすぐに転び、転んでは滑り、体を張った演技を続けていく。 転んで滑るぬいぐるみの姿は、子供達に結構好評だった。 そしてキャンディスちゃんのその演技は後に『氷上のマグロ』と名付けられて、語り継がれたという。 冬季ろくりんピックのエキシビジョンで、再び観られるかもしれない……? |
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