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これが私の新春ライフ!

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●空京神社にて――華やかさを、君と

 神社内の人混みに、飲み込まれぬよう進む主従の姿があった。
「さあ、ちゃっちゃと歩きましょうぞ。そのようにいつまでも寝ぼけ眼では、人混みに飲み込まれてしまうでしょうなァ」
 と言ってダークネスト 闇夜(だーくねすと・やみよ)が、アキラ 二号(あきら・にごう)の背中をグイグイと押してきた。結構な力で押してくるものだから、アキラはいやでも足を交互に出さなければならない。アキラは欠伸をかみ殺しつつも従った。
「……わしは 疲れてるんじゃ。もっと優しうせい」
「何を申しますやら、昨日よりずっと寝っぱなしの寝正月でしょうに」
「わしは寝正月で良い」
「いやいや、寝ているより記憶に財産を残すべき、それが正月というもの」
「そうかのう……」
 というわけで彼は、闇夜に連れられてここまで来たのだった。嫌々ながらアキラは拝殿に並び、仕方がないから賽銭を入れ願い事をした。願うのはただひとつ、
(「早く暖かくなりますように」)
 だ。
「ほれ、祈ったぞ。祈ったから休憩させてくれい」
 またひとつ欠伸して、アキラは自動販売機で熱々のコーヒーを買った。缶を両手で包み込むようにして持ち、少しずつ飲む。どうせすぐさま帰ったところで、現在は彼の部屋で、宵闇以外のパートナーが新年会の真っ最中だ。布団を被っても寝るのは難しいだろう。時間つぶしの意味も込めて、アキラは参詣客たちを眺めていた。

(「翡翠ちゃんに、あたしの気持ちが伝わると良いな」)
 たっぷりと祈りを捧げると、榊花梨は賽銭箱の前を離れた。一方でレイス・アデレイドの祈りは、今年の誓いというべきものだった。
(「去年は、翡翠、無茶しすぎて倒れていたからな? 無理させないようにしないとな」)
 花梨とレイス、拝み終わって顔を上げ、ふと視線がぶつかって火花を上げた。
(「レイスちゃん……翡翠ちゃんのことをお祈りしたね……!?」)
(「花梨め……どうせ翡翠との恋愛成就でも願ったのだろう」)
 互いに相手が、神楽坂翡翠のことを考えていると直感的に悟ったのである。
 ところがその翡翠本人が、二人の気持ちにまるで気づいていないのは罪作りなところだ。
「さあ、次は屋台でものぞいてみますか?」 
 屈託のない笑顔で、彼はパートナーたちに告げた。
 途端に花梨は相好を崩した。
「え? 屋台? 良い匂いがする〜♪ どれも美味しそうで、目移りする〜」
 まさしく花が咲いたように笑って、花梨は両手を挙げ翡翠の左手を取ったのである。
「で、目移りして買いすぎると……食べ過ぎても知らんぞ? 俺は」
 レイスもふっと釣られ笑いしていた、苦笑気味に花梨に言葉を投げかけると、彼も翡翠の右側に立った。
「……」
 レイスは、ちらと花梨を見た。しっかりと翡翠と手を繋いでいる。
(「対抗心……ではないぞ、これは」)
 きっちりと自分に言い訳してから、レイスも、
「はぐれたら困るからな。しばらく、こうして歩くとしよう」
 翡翠の空いたほうの手をとって、そっと握った。
「楽しいですね」
 やはり二人の気持ちに気づかず、翡翠は微笑んだ。
 このまま花梨とレイスに引っ張ってもらって歩こうかな、と翡翠は思った。

 アレン・フェリクス(あれん・ふぇりくす)は寒そうに身をすくませていた。冬の外出というだけで億劫なのに、こんなに人のいる空京神社を歩くというのはなんとも嬉しくない。
「オレは家でゆっくりテレビでも観てたいんだけどねぇ。お笑い芸人がせっかく頑張ってるんだし、みてあげないと可愛そうじゃないか……」
 といっても、またたく間に現れては消えるお笑い芸人たちの一発芸の連発にはいくらか食傷気味なのも事実であり、また、どうしても観たいのであればテレビを録画しておけば済むことだとはアレンも判っていた。実際のところ録画もせずホイホイと咲夜 由宇(さくや・ゆう)に付いてきたのは、本当は家に一人にされるのが寂しかったから……かもしれない。
 まあ良いじゃないですか、と由宇は言った。
「晴れの日には賑やかなところに行きたいものですし……」
「ふーん」
 大きな目を半月型にして、アレンはちろりと由宇を見た。由宇の衣装は、今日のために用意したレンタルの振袖だ。紅地に蝶と千代紙を散らした模様、確かに見映えがする。普段から和服の咲夜 瑠璃(さくや・るり)とは違って、たまの和装だからこその物珍しさもあった。
「賑やかなところ、って本当は由宇、ただその振袖を着て人通りの多いところを歩きたかっただけじゃないのかね」
 図星だったらしく、
「そ、そんなことないですよぉ」
 と由宇の声はうわずっていた。
「なんだかんだいって由宇も年頃の娘だからな。似合ってる、とか、可愛い、とか言われたかっただけじゃないのかねぇ〜?」
「ち、違いますって、考えすぎですよ〜!」
 一生懸命否定する由宇のアホ毛(無意味に弾力がある)をいじりながらアレンは言った。
「ま、本当に似合ってるし、可愛いではあるなぁ、それだけは認めてやろう」
 それまで黙っていた瑠璃も心から言った。
「うん、可愛いのだわ。日本文化、素晴らしいのだわ!」
「え? いや、そんな……いやー、あはは……ありがとうございます〜」
 やっぱり嬉しそうな由宇なのだった。顔をぽっぽと赤らめている。
 しかし、意地悪なアレンは一言加えるのを忘れなかった。
「着物のレンタル代だって安くはないからねぇ。借金、今年中に返せればいいけど」
「あぅぅ……それをいわないで下さい……」
 しょんぼり肩を落とす由宇を見て、悪いこと言っちゃったかな、と一瞬――0.5秒くらい――アレンは反省した。