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●星降る夜に

 冬の夜空に星が降る。
 神崎 優(かんざき・ゆう)は約束通り、水無月 零(みなずき・れい)と星空を眺めに来ていた。
 小高い丘に人の姿はなく、息がかかるほどに顔を寄せなければ、互いの顔すら見えない。
「寒くないか……?」
 優は彼女に訊いた。彼の手は、彼女の小さな手を握っている。ひやりとした空間のなか、結ばれた手だけはほのかに温かい。伝わるのは熱だけではなかった。絡めた指と指を通して、互いの血液の流れも感じられるような気がした。その感覚は、心地良かった。
「少し……でも」
 零は彼を見上げた。
「優が一緒なら、どこにだって行けるよ。だから大丈夫」
 丘の頂上で、満点の星空を眺める。その場所はかつて、夏の終わりの夏祭りにてたたずんだ場所と同じだ。
 オリオン座が力強くまたたいている。プレアデス星団の輝きは宝石のそれに勝った。
 しばし二人、言葉をなくしたように空を見上げていたが、
「ゴメン。刹那との事で零に辛い思いをさせてしまった」
 と呟き、優は零を抱きしめていた。
「ううん、いいの。私も同じ立場だったら同じ事をしてたと思うから」
 零は瞳を伏せた。長い睫毛に、星の瞬きが反射したように見えたのは気のせいだろうか。それに――と彼女は続けた。
「あの時の優の言葉で、刹那はとても救われたんだよ。だから言葉以上の感謝をしたかったんだと思うの」
 優は無心に、ただ、心に浮かんだ言葉を零に返した。
「ありがとう」
 ほっとした気分になる。あるいは許されたような気分に。優は思った。自分はずっと、この言葉を言いたかったのかもしれない、と。
「でも忘れないでくれ。俺は他の誰よりも零を愛している」
 優は零の両肩に手をかけ、少しだけ零の体を自分から離した。
 二人は見つめ合い、どちらからということもなく口づけをかわした。
 好き、という言葉には限界がある。
 好き、という言葉だけでは、とてもではないが今の優の、零への気持ちを表すには足りない。