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リアクション
第13章 臆病な想い
「アディ、あのジェットコースターに乗りたい」
綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)が早く行こうと、アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の手を掴む。
「あの・・・っ。そんなに走ると・・・転んでしまいますわよ」
彼女に引っ張られて連れて行かれたアデリーヌは、列に並びジェットコースターに乗り込む。
「コースタの見た目は可愛いですわね」
とすんと椅子に座り安全ベルトを締める。
「こういうのって、ゆっくりスタートするよね?」
「たぶんそうだと思いますけど・・・」
「説教系は欧米チックなところがあるって、ガイドブックに書いてあったから・・・。ちょっとドキドキするね」
「もうすぐスタートしそうですわね」
“Satz jgari”
ゴトン・・・ガタンッ。
「サッツ、ジカリ・・・英語じゃないんですのね・・・」
「わわっ、動き出したよ」
アナウンスが流れると、ジェットコースターがスタート地点へゆっくりと動き出した。
アデリーヌの隣に座り最前列にいるさゆみは、ドキドキとしながら手摺をぎゅっと掴んだ。
「えっ、もうスタートするの!?う、うそぉおおお!!?」
シグナルが点灯し始めたかと思うと、それは1秒未満で灯りがつき、弾丸のようなスピードで発進した。
「いやっ、何・・・これっ。ありない・・・っ」
彼女の方は恐ろしいスピードに表情が凍りつき、叫ぶどころではない状態だ。
トルネード回転しながら直角に急上昇し、ユー字型にきりもみ状態で急降下していく。
「アディッ、怖いよーーーーっ。アディーーッ、ひきゃぁあぁああ!!」
恐怖で石像のように固まって動けなくなっている彼女の名を呼び、ぎゅぅうっと手摺を握り締めてさゆみは大絶叫する。
「―・・・ぐすんっ」
終着点につくとさゆみの瞳からぽとりと涙が一粒流れた。
「次は大人しいところに行ってみよう・・・」
ありえないスピードを体感したさゆみは連続で絶叫にチャレンジしたら、心が砕け散ると思いソリットビジョンの小人たちがお菓子を作る館に行ってみることにした。
「ちっちゃくって可愛いねっ」
泣き顔からすっかり元気になった彼女は、2時間待って館に入った。
「手の平サイズなの・・・?」
「指がすりぬけちゃう。やっぱり触れられないのね」
小人のソリッドビジョンをつんと突っつくとさゆみの指が通り抜けた。
「でも不思議。美味しそうな香りとか、お菓子をオーブンで作ってる暖かさが伝わってくる」
どれも本物ではないのにと不思議そうに眺める。
小さな小人たちが粉をふるったり、バターを溶かしケーキなどを作っている。
「柱とか飴みたいに見えるけど、食べられないのよね」
ピンクとホワイトのストライプ柄の柱を撫でてみる。
「あ、そろそろ夕食の時間ね。混んで来ちゃうそうだから早く行かなきゃ」
彼女たちは客が並ぶ前にと園内のレストランへ行く。
「ザクセン風・牛肉のローストにしようかな。パンとライスが選べるのね、私はライスにしようかな。アディはどうするの?」
「―・・・じゃあ、わたくしも同じやつに・・・」
「分かった注文するね。えーっと、10番のメニュー2つと、両方ともライスでお願い」
注文し終わりパタンッとメニューを閉じ、壁側に立てかける。
料理を20分ほど待っていると、デミグラスソースに似た少し甘い香りが彼女たちの鼻をくすぐる。
「いい香りね。お肉が柔らかくて美味しい」
端っこをナイフで切りフォークに刺して食べ、2切れ目はライスと一緒に食べてみる。
「これは・・・、ジャガイモなの?」
アデリーヌはナイフを使ってクヌーデルを4つに切り分け、赤いキャベルを添えて口の中へ運ぶ。
「お腹いっぱいになったね」
まだ少し休んでいようとさゆみは食後に運ばれてきた紅茶を飲んだ。
「今日1日じゃ全部回れなかったよね、また一緒にここへこようね」
小さく頷くアデリーヌに無邪気な笑顔を向け、ソファーの背に手をかけて窓側へ視線を移した。
窓の向こうにはクリーム色に輝く大きな観覧車や、飴で作られていそうな艶やか色合いの灯りを眺める。
「ねえ、アディ、すごくキレイ!」
彼女にも景色を見てもらおうと外を指差す。
「本当に・・・とてもキレイ・・・」
お菓子の国に入り込んだかのように、アデリーヌも思わず見入ってしまう。
「(ちょうど、さゆみのような子だった・・・・・・)」
無邪気なさゆみをいつの間にか愛おしく想い、彼女のことを愛してしまったと気づいてるが、その想いを愛しい人に言葉で伝えることが出来ない。
「これ、アディに似合うと思ったから、どう?」
さゆみはカバンから園内で買っておいた椿のアクセサリーを取り出し、彼女の手の平に置いた。
「・・・・・・ありがとう」
受け取った彼女は、嬉しさのあまり涙が零れてしまいそうになったが、その表情を隠すように顔を俯かせる。
「(わたくしは、さゆみのこと・・・。どう・・・思っているの)」
自分が失った恋人の代用の存在としてさゆみを見てしまっているのかもしれない、そう考えてしまう自分自身を責めて自己嫌悪に陥る。
そんなふうに思い悩んでいると、最悪の状況が頭の中でぐるぐると駆け巡る。
「最後に、観覧車に乗ってから帰ろう」
アデリーヌが心の中で悩んでいることに気づかない彼女は、いつもと変わらない普段の笑顔のまま誘う。
「えぇ・・・」
言葉に出せないまま頷き、さゆみと一緒に観覧車に乗る。
今ここで自分の気持ちをさゆみに伝えてしまったら、彼女がどう反応するのか。
それは突き放される拒絶だったらと思うと、怖くて想いを表現することが出来ない。
この幸せをまだ失いたくない。
「(聞きたい・・・。でも、まだこのままがいい。やっぱり答えが怖いから・・・)」
窓の向こうの景色を見下ろす彼女をじっと見つめる。
想いを伝えて返事を聞いてみたい気持ちはあるが、それはまだ先のことにしておくことにした。
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