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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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第15章 貴方の傍に仕えたい

「うわぁん、こんな時間!遅刻しちゃうかもっ。準備に手間取っちゃうなんて、んもぅルカのおバカさん〜っ」
 恋人とペアルックを着たルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、自分の頭を軽くぽかぽかと叩き、待ち合わせ場所へ必死に走る。
「真一郎さ〜んっ!」
 遊園地の入り口で待っている鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)の元へパタパタと駆け寄る。
「ごめんね、いっぱい待たせちゃったわよね?」
「それほど待っていませんよ」
 実はルカルカが20分ほど遅れてしまっているが、それを口に出すことはなかった。
「皆、腕組とかしてるのね?じゃあ私たちも♪」
 スラックス姿の彼女が彼の腕にぺたっと寄り添う。
「何だか少し恥ずかしいですね」
「フフフッ、でもこいうの好きなの。少しの間だけだから、ね?」
 にんまりと子猫のように微笑むルカルカの笑顔に負けてしまい、そのまま園内を歩く。
「ねぇ、そこにいるって団長じゃないかしら?」
「えぇ確かにそうみたいです」
「ちょっと声をかけて行きましょうか♪」
 礼儀正しく接しようと彼の腕から離れ、金 鋭峰(じん・るいふぉん)に挨拶しようと傍へ寄る。
「団長、こんにちは。ここで警備をしているのですか?」
「あ、あぁ・・・ちょっとな」
「団長をコースターにお見かけしましたのは、少々意外でした」
 忌まわしい過去を乗せて走るジェットコースターを見上げている彼に、クリスマスイブに見かけたことを報告する。
「ほぅ、ルカルカも来ていたのか。絶叫アトラクションに行ったか?」
「はい、私は絶叫系は得意です。団長の元で行ってきた訓練の賜物でしょう。鷹村少尉へのプレゼントを選びに来てたのです」
「―・・・あれは乗り続けると危ないものだ。あまり近づかないほうがいい」
 笑顔で言うルカルカに鋭峰は眉を潜め、真剣な真顔で言う。
「最大時速、280kmほどでしょか?イブに来た時よりも少しバージョンが上がっていますね。次はきっと倍くらいになっているのではないでしょうか?」
「何だと?それ以上、速度が上がってしまうと、生身の人間はかなり負荷がかってしまうな。その時は危険のないように、私から従業員たちに伝えておこう」
「いえ、団長ならそれくらい耐えられるはずです」
「―・・・まぁそうだな」
 さりげに見栄を張ったのか、少し間を空けて言う。
「長い時間、警備していてお疲れではないですか?私の友人がバイトしているレストランへ参りましょう♪」
 ルカルカは鋭峰を誘い、土御門 雲雀(つちみかど・ひばり)が働いているレストランに連れて行く。



「お客さんやぁ、いらっしゃいませー」
 ミニスカメイド姿のはぐれ魔導書 『不滅の雷』(はぐれまどうしょ・ふめつのいかずち)が、お客様を案内しようと声をかける。
「2名様やねぇ?こちらにご案内します〜」
 店にやってきた人たちをテーブルへ案内し接客をする。
「この制服・・・知り合いに見られたくねーな。ちっ、ふとももまで見えるとかどいうことだ!?」
「あ、その服から見えるかもって気にしてるん?大丈夫、どこの角度からも見えない作りになっているんや」
「そういうことねーよっ。このヒラヒラとした格好が気に入らねーんだよ」
「ヒバリったら。グチグチ言って店長に聞かれでもすると、あっさりコレやなぁ」
 カグラは片手に首を当てて、雲雀に少し大人しくするように言う。
「またお客さんやぁ!いらっしゃいませーって、ルカやないの!」
「えへ、来ちゃった♪」
「ルカたちの傍にいるのって団長さんやん!皆、来てくれて嬉しいわぁ〜」
「(だっ、団長!?そ、そそんなぁ、こんな格好見られたら・・・)」
「ヒバリ、どこへ行くんやぁ?」
 スタッフルームに隠れようとした瞬間、サッとカグラに回り込まれた。
「ちょっと忘れ物があってな・・・。あはっ、あはは・・・」
「ほんまにー?」
「あたしが嘘つくとでも思ってるのか!?」
「うん、目が泳いでいるやないの〜?ま、本当に何か取りに行くんやったら、オレが持ってきてあげるけど?―・・・ヒーバーリー!?」
 なかなか忘れ物を言わない彼女を怪しみ嘘だと見抜く。
「早く団長さんたちを席にご案内してくるんやっ」
 とんっとカグラに背を押され、鋭峰たちのところへ行かされる。
「うぅ〜カグラのやつ。後で覚えてやがれ!」
 ニコニコと笑顔を向ける彼女をキッと睨みつける。
「えっと・・・皆さん、自分がこちらの席にご案内するであります・・・っ」
 恥ずかしさのあまり顔を俯かせて小さな声音で言い、アトラクションが見える窓側の席へ案内する。
「こちらでありますっ」
「それじゃあさっそく、お茶にしましょうか」
 ルカルカが持参の飲茶セットを広げる。
「あぁ、ルカさん!持ち込みは困るでありますっ。園内のものならともかく、外からの持ち込みは・・・」
「え、ありゃっ!?やっぱりここもそうなの?」
「飲食店の外のベンチなら大丈夫なのでありますが、店の敷地内では食べてはいけないのであります」
「うぅ、やっぱりどこも厳しいのね」
「(店長に見つかったらまずいやんっ)」
 その緊急事態を見たカグラがすかさず4人の傍に走る。
「ちょっとヒバリ。見つかったらルカたちが追い出されるだけやなくって、オレらも首がスパーンッと飛んでしまうんやないの〜」
「は、マジ!?」
「仕方ないなぁ。オレがお茶とかの接客してるから、飲茶セットが見えないようにヒバリはこの辺から離れんといてなぁ?」
「団長たちのためだ、仕方ねーな・・・」
 それを隠すために陰となって、3人の傍から離れられなくなってしまった。
「(ごめんね、ひばりんっ)」
 ルカルカは拝むように雲雀に謝る。
「(いえ、今回は仕方ないないであります)」
 彼女は片手をヒラヒラとさせて、気にしていないという仕草を取り、温かい烏龍茶が入った茶器をテーブルに置く。
「お茶をどうぞ、団長」
 雲雀に持ってもらったお茶をルカルカが陶器のコップに注ぐ。
「ふむ、気が利くじゃないか」
「どうぞ召し上がってください」
 甘くない味付けにした可愛い金魚餃子や桃饅を勧める。
「美味いじゃないか、ルカルカが作ったのか?」
「いえ、残念ながら作ったのはパートナーです」
「そうか。しかし嫁にいくのであれば料理は出来た方がいいだろうな」
「嫁だなんてそんなっ」
 真一郎の顔をちらりと見てルカルカはぽっと赤面する。
「お茶がなくなってしまいましたね。お注ぎします!」
 話を逸らそうとポットのお茶を注いだ。
「そういえば、2人で出かけている途中だったようだが?」
「えぇ、たまにはルカと2人で遊園地の中を散歩しようと思ったんです」
 お茶の世話をしている彼女に変わり、真一郎が変わりに答える。
「なるほどな。この後、どこか行くのか?」
「ルカの友人が結婚式を挙げるそうなので、そこへ行く予定です」
「そうか・・・この日に結婚とはな・・・」
「あ、団長。ちょっと頼みたいことがあるのですけど、よろしいでしょうか?」
 何かを思いついたようにルカルカが横から口を挟む。
「何だ?言ってみろ」
「教導団のヘリを三機お借りしたいのですが。えっと、式を挙げる友人のために、ちょっとしたサプライズを思いついたのです」
「ほう、一生に1度のことだからな。貸してやろう」
「ありがとうございます、団長!」
 使う許可をもらえたルカルカは笑顔でお礼を言う。
「ひばりん、この席に座って♪」
 食べ終わった飲茶を片付け、雲雀に鋭峰がいる目の前の席に座るように言う。
「あれ、ルカさん?もう行ってしまわれるのでありますか?」
「ひばりん、ずっと立ちっぱなしでじゃないの。少し休憩した方がいいわよ?」
「・・・じ、自分が団長と2人で!?」
「だってそこに座る人、ひばりんの他に誰もいないわ♪」
「―・・・ひばりんとは誰のことだ?」
「じ、自分の愛称でありますっ」
 雲雀は顔を赤面させながら言う。
「チャンスよ。ファイト」
 そう囁くと真一郎と一緒にレストランを出て行った。
「今お客さんそんなおらんし仕事はだいじょぶやって!」
 お茶を置いたカグラが2人だけにさせてあげようと、さっとテーブルから離れる。
「いやでも仕事が、ってカグラまで!!(あーもー顔も見れねーのに話題なんて出せるかちくしょうバカっ!でもこのまんまじゃ何も変わんねーし・・・)」
 このままではいつも変わらない流れで終わってしまうと話題を考える。
「ぁの、団長っ! その・・・えと・・・。・・・・・・お忙しくなければ、少しだけお話、聞いて頂けますか・・・っ」
「何だ、雲雀」
「秘術科に入って、結構経ちますです。入った頃よりは割と魔術の知識も増えましたですよ。ですからその、・・・・・・えっと・・・・・・」
「どうして秘術科なんだ。銃や剣の技術は磨くつもりはないのか?」
「秘術科にいるのには理由があるんです!自分は・・・、・・・あたしはっ、団長の傍にいたく、て・・・!!団長に魔法が足りないならあたしが火や氷になります。笑顔が足りないなら傍で笑ってたいんです」
 彼と視線がうまく合わせられない彼女は、顔を俯かせながら手をもじもじとさせる。
「今はまだ、ルカさんたちに比べたら実力も経験も足りないってわかってます、けど・・・いつか!実力も経験も積んだら!・・・・・・その時は、・・・団長の傍にいさせてください!!」
 自分の想いをぶつけてみるが彼から返事がなかなか返ってこない。
「(自分では・・・相応しくないのでありますか)」
 やっぱり力不足だから、訓練しても傍に置いてもらえないのかと瞳に涙を浮かべる。
「―・・・私は役に立つ者は好きだ。傍にいるというのなら、私の背中を守れるくらい強くなるんだ、雲雀」
「そ、そのお言葉、感謝いたしますでありますっ」
「時に、本名で行動しないこともあるからな。そうな、コードネームはルカルカが言っていたひばりんでどうだ?」
「ひっひばりん!?」
「何だ、嫌なのか?親しそうにそう呼ばれていたようだからな。他の者に分かりやすい名の方がいいだろう。これからもシャンバラ教導団のために全力を尽くすんだぞ」
「あのっ、そういうことではなくて。あぁ、だ、団長!!」
「(何とか一歩、進めたみたいやぁ。それにしてもコードネームが・・・ぷくくっ)」
 その様子を見ていたカグラは、店を出て行く鋭峰から雲雀へ視線を移して可笑しそうに笑った。