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バレンタイン…雪が解け美しき花びら開く…

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リアクション


第20章 2人きり?・・・後ろにいる存在

「まずは教会に行きましょうか♪」
 クリス・ローゼン(くりす・ろーぜん)はバレンタインデートをしようと、神和 綺人(かんなぎ・あやと)の手を引っ張り教会の中へ入る。
「待ってよクリス、そんなに急がなくたって・・・」
「早く入りましょう!―・・・わぁ、素敵ですねっ」
 清楚な感じの中に華やかさのある空間の中を、クリスは踊るようにくるくると回って周囲を見回す。
「あの天井絵、どうやって描いたんでしょうね?」
 丸天井を見上げ、芸術家たちがどうやって描いたのか気になり首を傾げる。
「次は大聖堂の方へ行ってみませんか」
「うん、分かったよ」
「えっとこの辺りですね。えっと、ここです!」
 はしゃぎながらパタンと扉を開けて飛び込むように入っていく。
 大聖堂の中に入ってみると、ランタンや蝋燭がほのかに輝いている。
「まだ昼間ですから少し明るい雰囲気ですけど。暗くなったらもっとキレイに見えるんでしょうか?」
「そうだね、灯りはそれだけみたいだし」
「他にもあるんですよね?どんな雰囲気のところか楽しみです♪」
 クリスはウキウキしながらもう1つのところに行ってみる。
「屋根の方に大きな鐘がありますよ」
「あれは夜明けと夕暮れに鳴るみたいだね」
 観光用のガイドブックを開いた綺人は、いつ鳴るのか調べる。
「そうなんですか・・・」
 今は聞けないのかとクリスが残念そうに見上げる。
「もうこんな時間みたいですね。お昼にしましょうか」
「うん、他のところに行ってる間に終わっちゃいそうだし」
 広場の大時計が12時を示し、2人はランチを食べに行く。
 昼食後、マハトヴォール城へ向かい外庭で散歩をする。
「(今日はアヤと2人きりですね♪フフフッ)」
 庭の様子を眺めながら、クリスは久々に邪魔者がないデートを満喫している。
「今のところ、おかしな変化はありませんね」
 神和 瀬織(かんなぎ・せお)は柱の陰に隠れ、クリスの様子をじっと監視する。
「瀬織・・・どうして尾行なんかしなければいけないんだ?」
「最近暴走気味のクリスが綺人を襲わないと確証を得るまでです」
 眉を潜め言うユーリ・ウィルトゥス(ゆーり・うぃるとぅす)に、彼女でディテクトエビルを発動させる。
「去年のクリスマスのこともあるからな。見つかったらクリスに強制排除されるぞ」
「こうやって距離をとっておけば・・・大丈夫です!」
「いや、隠れ身やカモフラージュのスキルなどなければ、まず見つかると思うが」
 見つかった後、どんな仕打ちが待ち受けているかというふうに言うが、彼女から返事は返ってこない。
「クリスに力で向かってこられたら、どんな目に遭うか分かるだろ?」
 止めようと少し脅しを含めて言ってみるが、それでも瀬織は彼の言葉に聞く耳を持つ様子はない。
「相当楽しみにしていたようだし。それにデートの邪魔をするな、と釘をさされたんだ。考えてもみるんだ、バレンタインだぞ?」
「それがどうかしたんですか?」
 やっと返事が返ってきたかと思うと、特別な日だからといって何か問題があるのかと言い、ついてきて当然のような態度を取る。
「人の恋路を邪魔する者は・・・っとよく聞く話じゃないか。クリスの場合、蹴られるどころじゃないぞ」
「やられる前にやればいいだけです」
「(どうしていつも間に立たされるんだか)」
 殺伐とした雰囲気にユーリは表情を沈ませた。
 まだ瀬織の尾行に気づかない2人は、城の中へ行き絵画を眺めている。
「アヤ、見てください!あの大きな絵、木の葉まで細かく描かれて凄いですねっ」
「完成までどれだけ時間がかかったんだろうね。あ、ねぇ。山の向こうにあるのは雲かな?遠近感の色合いがキレイだよ」
「淡い水色がとでも素敵です・・・」
「これなんて写真みたいに見えない?」
「えぇ、人間の姿がリアルに表現されていますよ」
 石を割っている少年と男性の絵を眺める。
 それは一瞬見ただけで油絵だと分からず、写真と間違えそうなほだ。
「クリス、そろそろカフェの方に行ってみない?出る頃にはちょうど、鐘の音も聞こえると思うからさ」
「そうですね、行きましょうか♪」
 2人は城を出てラングザームビッテへ行く。
「大きなカフェですね!まるでお屋敷みたいです」
 クリームイエローの建物をクリスがうっとりとした顔を見上げる。
 エルフの銅像が立てられている2つ台座の間には入り口の大きな門がある。
 2階のテラスの窓は銀の細工に、星と三日月の柄の金細工をあしらった作りだ。
「どこかの王族が住んでいそうなところですね」
 瀬織も遠くから眺め、思わず息を飲んだ。
「あ、クリスたちがカフェに入ってきますよ」
 2人を追っていく瀬織の姿に、ユーリは疲れたようにため息をつく。
「寒いから2階に行こうか」
「そうですね」
 綺人たちはメイプルカラーの木造の階段を上り、窓側の席に行きとすんと座る。
 大理石の丸いテーブルの上には蝋燭が入った小さなランタンが置かれている。
「ここって貴族の館を改装して作ったみたいだよ?」
 メニューの傍にある小さな本を開いて綺人が読んでみると、カフェになる前のことが書かれていた。
「やっぱりそうなんですね。どうりで一般のカフェと作りが違うわけです」
「何を注文しようか?」
「このケーキは2層に分かれているみたいですよ。私はアイアーシェッケにします」
「僕もそれにするよ。後は紅茶だね」
 ケーキと紅茶を2つずつ注文する。
「(・・・あれ?あの席にいるのって、瀬織とユーリだよね?デートっていう雰囲気でもなさそうだけど)」
 店内の奥の方からずっと見ている視線を感じ、そっと振り返ると2人組みが椅子に座っている。
 瀬織はガイドブックで顔を隠し、2人を尾行してついてきたのだ。
 こっちをじーっと見つめている。
 彼女が見ているのは綺人でなくクリスの方だけだ。
「おや。カフェで綺人に気づかれてしまいましたね。幸い、まだクリスは気づいていないようですけど」
 発見されてしまった瀬織は小さな声音でぽつりと言う。
「仕方ありません。このケーキを食べ終わったら、わたくしたちはマハトヴォール城の舞台演奏に行きましょうか」
 店から出ようと少し急いでケーキを食べきる。
「珍しく、綺人に気づかれた。クリスが気づく前に立ち去るか」
 クリスにまで見つかったらアウトだと思い、ユーリは紅茶を飲み干す。
「あ、そうです。ユーリにバレンタインのチョコです」
 カフェを出ると瀬織はナッツ入りのブラウニーを渡した。
「ありがとう、瀬織。家に帰ってから食べるか」
「では城へ行きましょうか」
 帰ってきたら渡そうと、他の2人の分もちゃんと家に用意してある。
 瀬織とユーリはクラシックのオーケストラの演奏を聞き家へ戻った。
 まだカフェにいる綺人とクリスはケーキを食べて始めている。
「レーズンが入っているんだね?」
 上の生地にあるスライスアーモンドと一緒に食べる。
「チーズケーキとムースの二層になっているみたいです」
「ふぅ、美味しかった」
 紅茶を飲み綺人は満足そうに息をつく。
「これ、バレンタインのプレゼントです」
 チョコパウンドケーキを箱に詰め、ラッピングしたプレゼントを綺人に渡す。
 箱に結んだリボンが少し歪んでしまっているが、中に入っているケーキの味は保証つきだ。
「お返しは・・・アヤがプレゼントしてくれるものでしたら何でも良いです」
「ホワイトデーのお返し、どうしようかなぁ」
「むしろアヤ自身でもかまいませんよ」
「・・・って、僕自身?・・・クリス、また僕に着せ替えさせる気?今度したら、僕も本気で抵抗するよ?」
「・・・冗談です。アヤ、笑顔が怖いです」
 満面の笑顔の裏に隠された本気モードを恐れ、しぶしぶ着せ替えを諦めた。
 ―・・・とか、心の奥底で実は諦めていないとか・・・。
「ケーキも食べたし宮殿の方に行こうか」
 カフェを出た2人は椿のコンテストを見に行き、モーントナハト・タウン内に響き渡る大聖堂の鐘の音を聞いて家に帰った。