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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

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 セオドア・ファルメル(せおどあ・ふぁるめる)は動けない。
 五月葉 終夏(さつきば・おりが)ネルガルに仕官するため、そのための人質となり、そして石化させられた。セオドアは石像となった。
 刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
 刻が止まる、それが石化。でももし今の状況が見えていたなら知っていたならば―――

『やっぱりポーズをとっておいて正解だったよ。やっぱりポーズは大事だよねッ☆
 終夏が心配している? ノンノン、苦しい顔とか悲しい顔はしないでおくれ。
 そんな顔はみんなに伝染してしまう、悲しくもないのにそんな気になってしまう。
 僕はこうして石化ライフを満喫するから、キミもどんな苦況でも笑って見えればいいのさ。
 笑顔は誰かの笑顔を呼ぶ。ほぅら少しだけ軽くなったでしょう☆』

 刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
 だから今のはどれも全てがただの単なる妄想。
 願おうにも叶わない。石像は刻が止まっているのだから。




 西カナンの中央部。
 ネルガルが陣を構える村、その中程の家屋にて彼女たちは遂に行動を起こした。
「お疲れさま。首尾はどうだぃ?」
 外扉の前で五月葉 終夏(さつきば・おりが)が声をかけた。相手は家屋の守衛を務める神官兵だった。問題はない、という答えが返ってきた。
 終夏は「それは良かった」と前置いた上で、、
「実は、実際にこの瞳で様子を見て来いと言われてね。もちろん、ネルガル様にね」
 と切り出した。終夏も、また彼女に帯同した椿 椎名(つばき・しいな)ナギ・ラザフォード(なぎ・らざふぉーど)もパートナーを人質に出してネルガルに仕官した生徒である。この事は今や神官兵の大多数にも知れている事である上に、ネルガルの名を出した事が効いたのだろう、神官兵はあっさりと彼女たちに扉を開けて中へと薦めた。
「ありがとう。すぐに済むから―――あっ、そうだ……」
 終夏が思い出したように、
「状況が変わって、この村に2、3日滞在するなんて事になった時には『石像の保管場所も変えた方が良いかも知れない』とも言われたんだけど、どこか良い場所はないかな?」
 神官兵は首を傾げるばかりだったが、終夏は東や西方を指さしながらに問いを続けた。
 破損が目立つものの、村中のは多くの家屋や建物が残されている。場所を移すとなれば当然それらが候補となるが、隠す事を目的とするならば、それらに限定することもない。砂の積もった広場や埋もれた水路にだって可能になる。
 ――うまくやったな。
 終夏が立ち止まる中、椎名ナギは家屋内へと入っていた。
 仕官しながらも中立の立場を貫くと宣言した終夏であったが、『ネルガルが用いる石化と石像について調べる』という目的が一致した為に2人と行動を共にした。
 彼女が神官兵の注意を引いている隙に椎名たちが石像を調べるという算段だった。
「急ごう」
「はい。では早速」
 先刻に石像にされたジェンド・レイノート(じぇんど・れいのーと)、その石像の元へと歩み寄るとナギは胸部に手のひらを向けて『石を肉に』を唱えた。
 石化を解除する魔法。覚えたてであるという不安はあれど、そんな事は言ってられない。ナギは一心不乱に唱え続けたのだが……。
「ナギ。もういい」
 石像に変化はない。『石を肉に』で解除できるなら既にその兆しが見えているはずである。石像にはそれが欠片も見えなかった。
「やはり特殊な石化なのですね」
「あぁ。魔法がダメとなると、薬を使ってもダメかもしれないな」
 パートナーであるソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)も石化させられている。『石を肉に』の有効性は本来は彼女に唱える事で確かめたかった、そしてあわよくばそのまま脱出という事も考えたのだが。
 椎名は以前に一度だけ、石像の管理を任された事がある。しかしそれ以降は石像の保管場所は変えられてしまい、今や神殿内のどこにソーマが眠っているのかも分からない。加えて最近はネルガルが神殿を離れる際には椎名を含め彼に仕官した生徒は帯同を強要されていた為、探る事もできなかったのだ。
「特殊な石化はイナンナの力を使っている、と言っていたな」
「えぇ。ですが……」
 ネルガルが彼女の力を利用してそれを成しているのなら、例え幼き姿をしていようともイナンナなら解除できる可能性がある。
「彼女は今もマルドゥークの元に身を寄せているはずです。となれば恐らく……」
「いや、それは危険だろうな」
 古代戦艦ルミナスヴァルキリーが不時着した地までこれらの石像を運び、解除可否の是非を問う。言葉にすれば容易に聞こえるが、ソーマを人質を取られている以上、確証のない状況で動くは破滅を招く。今のままでは見返りが少ないばかりか、リスクだけが大きく嵩む。
「石像の在処を探るしかないか」
「えぇ」
 魔法での解除は不可、それが分かっただけでも大きな収穫だ。人質の解放を目指すなら、その方法と居場所を探る必要がある。
 椎名たちが頭を悩ませる今も、人質となった石像たちは神殿内のある場所で一切の意識もなく眠っているのだった。




 ソーマ・クォックス(そーま・くぉっくす)は動けない。
 椿 椎名(つばき・しいな)ネルガルに仕官するため、そのための人質となり、そして石化させられた。ソーマは石像となった。
 刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
 刻が止まる、それが石化。でももし今の状況が見えていたなら知っていたならば―――

『う〜ん、う〜ん、動けない〜。
 こんなにたくさんの人が居るのに、みんながみんな石化してて。
 う〜ん、面白くない〜。
 オルトロスちゃんと―――あっ、間違えた。椎名やナギたちと、いっぱいいっぱい遊びたいよ〜。』

 刻が止まる、それが石化。だから何も感じない、何も見えない、何も思えない。
 だから今のはどれも全てがただの単なる妄想。
 願おうにも叶わない。石像は刻が止まっているのだから。