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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

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【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第2回/全3回)

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 森にはたちが先に入っている。
 は魔鎧に加えて『アジュールアロトゥロウプ(粘体のフラワシ)』と『鉄のフラワシ』を纏う事で物理的な耐性を高めている。身葉が破裂するのは仕方なしという前提で森を抜けようとしているようだ。
「姉さま」
「はぃな」
 『曙光銃エルドリッジ』の銃口が輝く。進行方向正面を見据えて今宵は『朱の飛沫』を放った。
 弾丸が貫き抜け、実は炎に包まれた―――直後に破裂した。
 飛び散る鋭葉をセレナの『ファイアストーム』が焼き払った。しかし八方へ飛弾する鋭葉の全てを焼くことは叶わず、別の実に鋭葉が刺さるとまたそこで破裂が起こった。
「姉さまっ!!」
 セレナの青い髪がバサリと切れた。間一髪で避けたセレナだったが、その顔面に更なる鋭葉が迫っていた。
「くっ!!」
 どうにか風天の『疾風突き』が間に合った。しかし今度はその疾走がツルを揺らしてしまい―――
「うっ」
「あっ」
「おぉう」
 風天今宵セレナが見守る中、ユラユラユラユラユラユラとツルが揺れて実が揺れて、どうにか止まった。
「ふぅ〜」と安堵のため息が3つ、雫れた。
「やはり燃やしてしまうのは危険なようですね」
 火村 加夜(ひむら・かや)は思い返しながらに呟いた。これにキュー・ディスティン(きゅー・でぃすてぃん)が同意した。
「見た目よりも多くの空気が含まれている、という事だろうな」
 地に刺さった身葉をゆっくりと引き抜いた。その根本は強く潰れている。
「急激に温度が上がっても破裂を起こす。衝撃を与えても同じ、となれば」
「凍らせる、ですね?」
「その通り」
 意見が一致した。頷きを交わし跳びだそうとした時だった―――加夜がそれを瞳に捉えた。
「ド…… ドラゴンが……」
 ツルが形取るカーテンの先、森の奥に揺れる巨体が近寄ってくる。50m近く離れているというのに唸り声がはっきりと聞こえてきた。
「あれって…… まだ吼えてない、のよね?」
 シルフィスティ・ロスヴァイセ(しるふぃすてぃ・ろすう゛ぁいせ)ジバルラに問いた。
「あぁ。今日はまだ機嫌が良いみたいだな」
 どこがよ! と言ってやりたかった。いや、言ってやろうかしら、でも一度逃したタイミングでツッコムのって……。
 ――違う違う! 訊きたい事はこんな事じゃない!
 ブンブンと頭を振ってからシルフィスティは改めた。
「いまさらなんだけど、鞭の力を受け入れたら相棒にするって、少し乱暴じゃない?」
「けっ、何言ってやがる」
「相性とか、スタイルとか、価値観とか。相棒になるって、そういうのが大事なんじゃない?」
「違うな」
 怒鳴り口調で返してくるものとばかり思っていたが、彼は抑えた声で言った。
「隣に居れるか居れないか、それだけだ。他は後で削りあえば良い」
 静かな物腰に、言い返せなかった。ただ真剣だという事は過剰な程に伝わってきた。
 地響きにも似た足音が更に大きくなってくる。どうやらこちらに気付いたようだ。
「マズイ!」
 いち早くキューが『アルティマ・トゥーレ』を放った。竜の歩みが地を揺らし、垂れるツルを一斉に揺らしていた。ぶつかり合う実を冷気が包んだ。
 破裂するまでの僅かな時間では実の全てを凍らせる事は出来なかったが、冷気と氷の膜が壁となり、身葉が飛び弾けるのを見事に防いでみせた。
「よし! 思った通りだ! 急ぐぞ!」
「急ぐ?」
 言われた禁書写本 河馬吸虎(きんしょしゃほん・かうますうとら)はすぐにはピンと来なかったが、実の一つ一つに『氷術』を唱えるキューの様を見てようやく気が付いた。
「ってオイ! これ全部にか?」
 河馬吸虎が途方に暮れるという意を荒げた弱音に込めた時だった。
 『龍の咆哮』が響きわたった。
 シャボンの泡が弾けるように、垂れていた実が軽く弾けた。
 次々に起こる爆発、飛び散る身葉、鋭きナイフが宙を埋めてゆく。
「くっ!!」
 大人しくしてろよっ……。河馬吸虎の視界には6つもの実が、2つは既に弾けている、そしてまた2つが大きく揺れていてこのままでは確実に破裂する。
 実の一つは『氷術』を唱えて凍らせた、しかしもう一つは僅かに膨れていて今にも弾け―――
「リカイン!! 何してんだ!!」
 寸前の実をリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が両掌で包み抑えていた。いくら『怪力の籠手』を装備していると言っても無茶が過ぎる。痛みを堪えているのだろう、唇を強く噛みしめていた。
 それでも彼女は真っ直ぐに河馬吸虎を見上げ見た。
「ぬおーっ!!」
 彼女の掌内へ『氷術』を力の限りに唱えた。おかげでどうにか飛散だけは避けられたのだが、リカインはすぐに他の実へ掌をかざした。
「……馬鹿野郎が」
 リカインが実に触れるより前に『氷術』を放った。放っておいたらまた飛弾を手で抑えようとする、リカインの白雪のような手をズタズタになんてさせてたまるか。立ち止まらない、空になるまで空になっても実を凍らせ続けてやる。
「ジバルラさん! こちらへ!!」
 加夜が彼らを導いた。道を成すように『ブリザード』を放っていた、ようやく表両面の松毬だけは凍らせるに成功した。
「今です! 急いで下さい」
 広範囲への凍結が必要だったために、層は決して厚くない。ジバルラや竜と戦う生徒たちが駆けるだけの時間が稼げるならそれで良い。
 少しでも強化しようと『ブリザード』を放つ加夜の背後を、彼らは一気に駆け抜けた。

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