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リアクション
14.閑話休題 〜夜〜
シャンバラ荒野の地平線に日が沈みゆく。
そして夜露死苦荘には、静かに夜が訪れるのであった。
では、夜の結果。
■
夕食の席。
管理人室には、料理が色々な意味で出来ない学生達が、賄いを求めて訪れる。
だが、ミネッティ・パーウェイス(みねってぃ・ぱーうぇいす)が夕食の席に着いたのは、賄いが目当てではないようだ。
(わわ! ほ、本当かも!?)
マレーナの傍で、ミネッティは彼女の様子を盗み見た。
マレーナは向かいに座るゲブーの豪快な食べっぷりを、それはぼんやりと眺めている。
(えぇっ、あの変なモヒカン野郎のことっ!?
ありえない! マレーナさん何考えてるのよ!)
ゲブーに熱を上げているという噂は、本当のようだ。
「ま、マレーナさん?」
ミネッティは口をぱくつかせながら、目を点にさせて。
「何か最近、気になる人がいるー? みたいな事を聞いたんだけど……」
出来る限り婉曲に尋ねてみる。
「まぁ、私にとっては、皆さんのことが気になってよ」
(そうじゃなくってねっ!)
意外とボケの才能があるのかもしれない、この人。
ミネッティはどう攻めようかと考えて。
「噂なんだけど。
あたし知らなくて……マレーナさん知ってるの?」
「ええ、ゲブーさんのことでしてよ。
本当のことですわ」
……解決してしまった、あっさりと。
「あの人のっ、何がいいのっ!?」
ミネッティは驚きのあまり、立ち上がる。
いやー…そうじゃなくて、と座って。
「あ、あれはちょっと……難しいんじゃないかな?
他にもいい人きっといるよ?」
「ミネッティさん」
マレーナは、穏やかな笑みを向ける。
「殿方は皆、どなたも可愛い赤子のようなもの。
彼が特別、ということではなくてよ」
「あ、そういうこと!」
一件落着!
そうしてのどかな夕食のひとときは、今少し続くのであった
■
鏡 氷雨(かがみ・ひさめ)は、家でアホの子呼ばわりされた勢いで、本当に勢いだけで、空大受験を決めたのであった。
だが、無計画なために、学習できる場所もない。
一晩の宿さえ……。
「そうだ! そういえば。
自称パラ実生なら、無料で下宿できるところがあったような気が………夜露死苦荘だっけ?
もう入居することに決めちゃったもんね!」
そうしてルクス・ナイフィード(るくす・ないふぃーど)の心配をよそに、2人の下宿生活は始まったのであった。
マレーナ達に挨拶をすませた2人達は、その足で氷雨の部屋に行く。
さて。
氷雨は張り切って、勉学に打ち込む。
「えっと、これがこうなって…こうで……。
うにゃーーっ!!
わかんないー。わかんないー」
ゴロゴロと転がる。
「ねぇねぇールクスーコレどうなるのー?
どうしてこんなに、分からないの?」
「マスター。もう集中力切れたの?」
ルクスは、あーあ、やっぱりと思いつつも、勉強の進度を図る。
ついでに、
「マスター。何で自分なの?
一緒に引っ張ったの?」
「え?
そんなの、あの時一番近くに居たからだよー」
「……そんな理由なんだ……へぇ……」
とてもいい加減な理由に、ルクスのこめかみがヒクつく。
氷雨は、まぁまぁと宥めて。
「ボクとルクスの仲じゃんー」
ひたすら営業用スマイル。
廊下の騒ぎが気になった。
「って。何か廊下騒がしいね……ちょっと見に行ってみよう!」
だぁ――っと、出て行ってしまった。
「って、マスター!勉強どうするの!」
「え? 勉強? それって面白いの?」
その言葉を最後に、氷雨は廊下の彼方へと消えてゆく。
「家出の理由忘れてるし……。
マスターって、やっぱりアホだよね。
いや、むしろバカなんじゃ……」
途中で台詞が切れたのは、氷雨が戻ってきて、ねっと腕を引っ張ったから。
「だから! 何で自分も連れてくの!
行くなら、マスターが一人で行ってよおおおおおおおおおおっ!」
だが、結局憐れなルクスは、氷雨に引っ張られて、下宿中を引きずりまわされるのであった。
彼等の後を、信長のフラワシがこっそりとつけていることも知らずに。
「え? 夜に飲み会あるんだ!
それまで、色々遊んじゃってもいいよね♪」
氷雨は半日以上受験勉強をサボってしまい、「反省室」で強制的に勉強させられることになるのであった。
ただし、夜中の飲み会には、望み通り参加できたそうな。
■
トライブ・ロックスター(とらいぶ・ろっくすたー)が夕条 媛花(せきじょう・ひめか)と(夕条 アイオン(せきじょう・あいおん)つきだったが)夜露死苦荘で同棲生活をはじめたのは、本当に偶然だった。
「うわっ! マズッ!
立ち直れねぇよな! この成績……」
先日の模試の結果を眺めては、ハアッと溜め息をつく。
そこで、「干し首講座」を受けにきた媛花達と出会ったのだった。
「えっ? 私ですか?
……まあ、そうですね。
受けに来たはいいが、確かに宿には困っています……」
泊まれるところがないか、媛花は思い切って尋ねてみた。
「え……ええっ!?
じゃ、じゃあ! 俺のところに来れば!!!」
それはハッキリ言って、下心丸出しな誘い文句だったのだが。
媛花からしてみれば、ここは危険なシャンバラ荒野のただ中。
しかも、夜露死苦荘とくれば、世に名高い「干し首講座」の会場な訳で。
つまり、「安全かもしれない」と判断したのだ。
「いいかい、くれぐれも『天学』とは言わないように。
自称・パラ実生で通すんだ。
え? 何でかって? 『お約束』だからさ」
トライブに念を押されて、媛花達は渋々頷く。
そうして、ひょんなことから「同棲生活」が幕を開けるのであった。
(いや、俺は……媛花ちゃんに借りを返すために、一緒に住むだけなんだ!
けっして、下心があってとかじゃないから!
……でも、アイオンちゃんも一緒なのね。
トホホ……じゃないよ! りょ、両手に花なんだからさ!
俺はパラミタ一の、幸せもんだああああああああっ!)
炊事、掃除、家事、洗濯……総てが終わったところで。
「なぜ、そんなに鼻息が荒いのです? トライブ」
講座から帰ってきた媛花が、ニヤけきったトライブをのぞき込んだ。
「私は疲れています。
寝ますよ?!」
だが、媛花にはこだわりがある。
先ずは家具、寝具の確認をすると、形のいい眉を寄せる。
「私、ベッドじゃないと眠れないのですよね……」
「ベッド、用意するぜ!」
トライブはバイトでためたなけなしの金で、ベッドを購入する。
購入先は、町の商店だ。
レッサーワイバーンで行って帰ってくると、
「くつろぎたいです……。
一人用のふかふかなソファーも欲しいですね?」
トライブは再び外へ飛び立つ。
帰ってきた頃には、ベッドは既に媛花に占領されていた。
「起きたら、夕食を食べますよ?
ああ、それと、出来合いの物は駄目ですよ。
絶対に、手づくりじゃなくっちゃ! です」
「う、うん、媛花ちゃん!」
そして媛花はアイオンを抱き枕にして、幸せそうにベッドに埋もれるのであった。
「うっ、おれ、やっぱ床で1人寝なのね? さぶっ!」
アイオンが憐みの目を向けている。
(可哀想に、トライブさん……)
いつもは自分が引き受けている役目を、なぜかこの男は進んで引き受けている。
(物好きですね?
でも、お姉ちゃんに何かする気かも?
一応、警戒だけは怠らないようにしませんと……)
だが、眠気には勝てないのか。
まもなく目を閉じる。
トライブはふうっと、息を吐く。
媛花の愛らしい寝顔がある。
どきどきする胸を押さえて、トライブはハッとする。
よくよく考えたら、自分は受験生だ。
こんなことをしている場合でないのではなかろうか、と。
(そ、それに。
俺、寝てねぇ上に、勉強してねぇぞ!
これって、マジやばくねェ???)
だが目の前には、媛花の安心しきった綺麗な寝顔がある
この寝顔を前には、シャンバラの厳しい神様達だって、許してくれるに違いない。
トライブも床で添い寝をしつつ、すやすや夢の中。
(シャンバラの神様!
この幸せが、一生続きますようにっ!)
だがシャンバラの神は甘くとも、オーナーはトライブに甘くなかった。
ことの一部始終は、すべて、フラワシが見ていたのである……合掌。
■
その後、反省室行きになったトライブ達は、反省室でもラブラブで、担当者の朔達をあきれさせたとか。
トライブ達の同棲生活は、まだまだ続くようだ――。
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