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第21章 変わる感情

 気晴らしに買い物でもしないかとリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)は、花音・アームルート(かのん・あーむるーと)を空京へ誘い出していた。
「特戦隊って言っても、新しいブライドシリーズが見つからないと動けないし……蒼十字だっけ? そちらの方でも、何かと入用だと思うからね」
「そうですね。買って帰るより、在庫の確認や、注文をして帰ることにしましょう」
 花音は救急道具や、非常食などを選んでいく。
「でもせっかくの休みなのに、いいのですか? 本当は、他に一緒に過ごしたい人がいるんじゃないですか」
 花音の言葉に、リカインはうーんと考えた後、こう答えていく、
「ティセラのことが気になってはいるけれど。でも、私が親衛隊を名乗ったのはティセラが敵として認識されていた時の話。今、ロイヤルガードとして必死に罪滅ぼしをしているのに、私が近くにいたら、どんな噂を立てられるともしれないから……」
 リカインは苦笑のような笑みを浮かべる。
「なんて涼司君に言ったら「不器用だな、おまえ『も』」って言われちゃった」
 それから、目を見て自分の話を聞いてくれている花音に、語りかける。
「……気が付いた? 多分涼司君も花音君や設楽カノン君のことで悩んでるだと思う。色々思うところはあるだろうけど、それは忘れないであげて欲しいの。もちろん私もなるべく力にはなるつもりよ。主に女難回避の方向で」
 そう笑うと、花音も笑みを浮かべた。
「あたしは、涼司さんのパートナーですけれど、涼司さんには他にいい人が出来たようですから、その方がこれからは支えてくださると思います。……あたしにも大切な人や子供がいますから、涼司さんにはこれからも色々頑張ってもらわないと!」
「……ん?」
 リカインは花音の涼司への感情が変わっていることに気付く。
 涼司に彼女が出来たせいだろうか。それとも何かがあったのか……。
 リカインが知らない間に、なんらかの進展があったようだ。
「あの……花音様は涼司様が一番なのではないのですか?」
 リカインのパートナーのソルファイン・アンフィニス(そるふぁいん・あんふぃにす)が花音に問いかけた。
「いいえ、涼司さんはあたしのパートナーです。あたしが愛している人は別にいます!」
 花音は幸せそうな笑みを浮かべていた。
 涼司が蒼空学園の校長になってから、彼に対して崇拝的な感情を持ってた花音だけれど、まるで別人のように、感情が変わっている。
「この後はその方の為に頑張られるのですか?」
「はい。彼が天下を取りたいって言っていますから、あたしも一番の剣の花嫁となるため、頑張ります」
 そう答える花音の顔は赤く染まっており、恋する乙女の表情であった。
「そうですか……。あ、荷物持ちますよ」
「ありがとうございます」
 試すために購入した医薬品を花音はソルファインに渡した。

「何面倒くせぇこと言ってんだかな、バカ女のくせに」
 ちょっと離れた位置で、それとなくリカイン達の会話を聞きながら、アストライト・グロリアフル(あすとらいと・ぐろりあふる)は呟いた。
 気にかかっているのは、リカインの様子。
 普段からバカ女とリカインを罵りつつも、実際そんなに仲は悪くなく彼女のことをそれなりに気にかけている。
「本当に好きな相手だってんなら近くにいてやりゃあいいじゃねーか。大体親衛隊なんて名乗ってくれたおかげでどんだけ苦労したと……」
 リカインがティセラのことを慕っていたことも解っており、そのせいで色々と苦労してきた。
「っと、ハナ、あんまり離れんなよ」
 ショーウィンドーをじーっと眺めている童子 華花(どうじ・はな)に声をかける。
 今日はリカインに振り回されるためでも、リカインのお守りをするためでもなく、華花が迷子にならないようにとお目付け役を担うために、連れてこられたのだ。
「ほら、行くぞ。もう皆となりの店に入っちまったぞ」
「おお、そうか。しかし、この店はいいぞ。露店も、あっちの店も気になるんだが……。リカ姉からあんまり離れられないしなあ」
 華花はふうとため息をついた。
「そうだぞ、万が一迷子になったりしたら、あのバカ女に殺されちまうぞー。……俺が」
 アストライトの言葉に、華花は軽く笑みを漏らす。
 賑やかな街を歩きたいとも思った。
 お菓子屋や小物も見て回りたいと思っていたけれど、リカイン達と目的が違うので、大感謝祭の協賛店全てを回ったり、心行くままイベントを楽しんだりするのは難しそうだった。
「それでも、少しでも多く見ていくぞ!」
 そう言って、アストライトと共に歩き始めた華花だったが、見ていた店のショーウィンドーの隅に飾られているアクセサリーに目が奪われる。
「……これ、いいなぁ」
 それは、梅の花がデザインされた、ペンダントの首飾りだった。
「確かに、ハナに似合うかもな。……わかった。それ買ってやるから、ここで待ってろ。隣の店から、バカ女達が出てきたら、呼んでくれよ!」
 そう言うと、アストライトは店にダッシュして、華花にペンダントを買ってきてあげるのだった。

「私は特に興味ないし……ソル貸すから花音君やってみたら?」
 買い物を終えた後、リカインは花音に抽選券を差し出した。
「もちろん景品は花音君に譲るから。ね、ソル?」
「そうですね、花音様さえよろしければ」
 両手に荷物を持ったままソルファインがそう言う。
「いいんですか? 嬉しいです」
 花音は喜んでソルファインと一緒に、抽選会場に向かった。
 だけれど花音が当てたのは、いずれも5等だった。
「残念ですけれど、彼と来た時にまた挑戦しますから。粗品は皆さんで分けましょう」
 そう微笑んで、花音はハンドタオル、ティッシュを皆に分けていく。
「そういえば、俺も1枚もらったんだった」
 アストライトは華花の手を引きながら抽選券を係員に渡して、一回抽選を行うことにした。
 出てきた玉の色は――白だった。
「じゃ、俺のは菓子にするか」
 菓子を2つ貰って、アストライトは華花に2つともあげた。
「今日はありがとうございました。リカインさんも、素直になってくださいね」
 最後に、花音はそう微笑んだ。
 彼女は幸せそうだった。
 リカインは淡い笑みを見せる。
 ソルファインはそっと、頭を下げて。
 アストライトはリカインの様子に軽く舌打ち。
 華花は買ってもらったペンダントをさげて、お菓子を手に、嬉しそうな笑みを浮かべている。
「それじゃ、帰ろうか。大切な人とまた来られるといいね」
 リカインがそう言うと、花音は強く頷いて、こう答えた。
「リカインさんも、いつか大切な方と2人で、楽しい休日を過ごしてください」