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第25章 春服を買いに

 ヴァイシャリーで離宮を封印していたアレナ・ミセファヌス(あれな・みせふぁぬす)は、検査を終えて、つい先日退院をした。
 ロイヤルガードの宿舎で暮らすことの多い優子と、新生活を始めるために、色々と揃えなければいけないものがあって。
 アレナは色々と事情を知っており、親しみを感じている秋月 葵(あきづき・あおい)を誘って、空京で買い物をしたのだった。
 一通り買い物を済ませて、お昼を食べた後。
 今度は葵がアレナを、空京のホワイトデー大感謝祭が行われている通りへと連れ出した。
「3月14日は、小さいパートナーの誕生日なんです。何が良いでしょうか」
「んー、ぬいぐるみとかどうでしょう? これとか可愛いですし」
 アレナが手に取ったのは、猫のふわふわなぬいぐるみだった。
「あ、ホントです。可愛い〜。欲しいなー」
 葵もとっても気に入ってしまい、つい自分用として欲しくなってしまう。

「そうだ!」
 ぬいぐるみを沢山買って、お店から出た後。
 衣料品店の方に、葵はアレナを引っ張っていく。
「アレナ先輩も少しイメチェンしませんか? 先輩もロイヤルガードになったんだし〜」
「イメチェン、ですか?」
「もうちょっと明るめな服装なんて如何でしょうか」
 言って、葵は少し明るめな服を選んでいく。
 アレナはおとなしめ……というか、地味な服を着ていることが多い。
 それが彼女の好みなようだけれど。
 彼女を引き立てる似合う服は、もっと明るい服だと思うから。
 葵は、アレナに花模様の白のプリントコンビネゾンと、桃色のレースのカーディガンを選んであげた。
「アレナ先輩には、こういう可愛らしい服が似合うと思います……」
「ありがとうございます。特別な時に着させてもらいます。私……目立ちたくないので。優子さんの陰にいたいんです」
「心配しなくても、優子副団長は存在感あるから、アレナ先輩が必要以上に目立つことはないはずですよー」
「はい」
 アレナは葵が選んでくれた服を手に、少し恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
「それからこれも、一緒に買いませんか!」
 葵が指差したのは、シンプルなシルバーネックレスだった。
 飾りは小さな花だ。花の種類は数種類ある。
「……水仙が欲しいです」
「手ごろな価格だし、買っちゃおうー」
「はいっ」
 葵とアレナは、アレナの希望もあり、同じ水仙のネックレスを購入することにした。

 お揃いのネックレスをつけて、最後に2人は抽選会場に立ち寄った。
「アレナ先輩が抽選しちゃってください♪」
「えっと、こういうのは見ているだけの方が……」
「いいから、やってくださいー♪」
 遠慮するアレナに、葵は自分の分の抽選券も持たせて、アレナの体をガラガラの方へと押した。
「すみません。5枚お願いします……」
 アレナは係員に抽選券を渡すと、戸惑いの表情を浮かべながら、ハンドルを回していく。
 白い玉――5等の粗品の玉が、4つ。
 それから、赤い玉が一つ、落ちてきた。
「おめでとうございます。2等です!」
「2等の赤い玉は……ゴンドラクルーズペアチケットだね。やった」
 葵が手を叩いて喜ぶ。
「どうぞお受け取りください。ありがとうございました」
「あ、はい……」
 アレナは係員から粗品とチケットを受け取った後、葵の方に笑みを向けた。
「そういえば、移動以外でゴンドラに乗ったことってないかもしれません。楽しみですね」
「うん、だけど」
 そう言って、チケットを差し出してくるアレナの手を、葵は押し返す。
「私は良いですから、優子副団長と行っちゃってください♪」
「えっ……優子さん、そういう時間取れないですし。葵さんの方こそ、パートナーとお出かけくださいっ」
「もうすぐ春休みですし、クルーズの時間くらいとれますよ。ロイヤルガードの仕事なら、その間はあたしも頑張りますし。仕事以外で、一緒にお出かけする時間も、絶対必要ですから。行ってきてください」
「でもっ、さ、誘えないです……」
 葵とアレナはチケットを互いに渡そうと押し合った。
「もう……っ」
 葵は押し返しながら、アレナをじっと見つめて言う。
「アレナ先輩は、優子副団長に遠慮しすぎです。もしかして、怖いんですか? 大丈夫、優子先輩は誘われたら喜びますよ」
 優子の邪魔になりたくないというアレナの気持ちは、今も変わらないようだった。
 葵のそんな言葉に、アレナはこくりと頷いて。
 大切そうに、チケットを受け取った。
「それじゃ、帰りましょう。今日は楽しかったです」
「はい、私も楽しかったです」
 微笑み合って、2人はヴァイシャリーへ……大切なパートナー達の元へと、帰っていく。