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第5章 嬉しい時にでも

 何時も通り、愛し合った後の朝。
 セレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、セレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)を叩き起こして、ホワイトデー大感謝祭で賑わう、空京へと訪れていた。
 小物や衣料品、アクセサリーショップを見て回って。
 セレンフィリティは髪飾りを。
 セレアナはブローチを購入して。
 相手にプレゼントをした。
 バレンタインも一緒に過ごした2人は、ホワイトデーも一緒に、片方からのプレゼント、片方からのお礼ではなくて、贈り物も感謝も同じように与え、受けあっていた。
 買い物を楽しんだ後。
 今回はお菓子作りにはかかわらず、カフェで飲み物とマシュマロを食べることにした。
 一緒にいることが多い2人にとって、日常とそう変わりないのだけれど。
 幸せを感じながら、1日を楽しんだ。

「抽選券、2枚もらえたわね。1枚ずつ挑戦しましょう」
「そうね。当たるといいな」
 日が落ちかかった頃に、セレンフィリティとセレアナは抽選会場へと向かった。
「それじゃ、あたしから。狙うは特賞よ!」
 セレンフィリティからハンドルを回す。
 コロン……と出てきたのは、白い玉、5等だった。
「うっくー。残念」
 残念がるセレンフィリティだけれど、表情は明るかった。
「次は私ね……。えいっ」
 籤運が強いとは言えないけれど、セレアナは念を込めてハンドルを回した。
 ……と。
 コロン、と落ちてきた玉の色は、銀だった。
「おめでとうございます! 2等が当たりましたー!」
 係の男性が拍手をし、賞品の『高級レストランペア食事券』を、セレアナに差し出した。
 驚きの表情でセレンフィリティを見るセレアナに、笑みを浮かべながらセレンフィリティは頷いて、肩に手を回して、ぺしぺしと叩いた。
「やったわね」
「え、ええっ。いつ食べに行こう」
 微笑み合った後、2人は一緒に帰路につくことに。
 勿論、当選したことも嬉しかったけれど。
 2人の顔が笑顔なのは別に理由がある。
「手をつなご」
 セレンフィリティはぎゅっとセレアナの手を握りしめた。
 こうして、一緒に2人でいられること。
 このように、抽選で一喜一憂できるということ。
 その瞬間瞬間が何よりも幸せだと感じられる。
 恋人になって2年目。
 キスをしたり、抱き合ったり。
 幾度となく、愛を確かめ合ってきたけれど、今は。
 こうして、手を繋いでいるだけで、鼓動が自然と高鳴っている。
 セレアナの指が少し動いて。
 自然と、指と指が絡み合っていく。
 指先から感じる温かい感触……。
 それを共有できることが、こんなにも幸せだと、セレアナも気づいていく。
 突然。
 セレアナの目から、涙が一粒、零れ落ちた。
「どうしたの? 何かあった?」
 驚いてセレンフィリティが心配そうな声をあげた。
「ううん……こうしているととても幸せなの……」
 セレアナは涙が浮かんでいる目を、セレンフィリティに向ける。
 瞳を潤ませながら、微笑みを浮かべた。
「だからかな……嬉しい時でも涙って出るのね……」
「そう……かもね。うん……あたしも、幸せ」
 行って、セレンフィリティはセレアナの手を握りなおした。
 ただ、手を繋いでいるだけなのに――。
 まるで、互いが出会った時のころのような。
 そんな気持ちが甦ってきていた。
「この気持ち、忘れないでいたい」
 今は抱擁もキスもいらなかった。
 こうしているだけで、満ち足りていて幸せで。
 この時間が長く続けばいいと、続くことを互いに、願っていた。

 今日のこの気持ちを、忘れずに、大切にしたいと思いながら。
 2人は、手を繋いで歩いていく。