薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

リアクション公開中!

【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち (第3回/全3回)

リアクション



第四章  西の結末

 不意にアバドンの眉がピクリと揺れた。
「さぁ、大人しくして貰おうか」と迫る椿 椎名(つばき・しいな)に、アバドンは、
「わかりました。この城は諦めますわ」
 と応えて、視線をゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)へと向けた。
「ゲドーさん、お願いします」
「マジかよ。もったいねぇなぁ」
「おいおい何言ってる。城はすでに取り戻したも同然なんだ、大人しく捕まるのが筋ってもんだ―――
 爆発音が椎名の声をかき消した。
「なんだ――― どうなっ――― おぃ―――」
 エントランスの天井や石柱、通路の手すりなどが次々に爆発を起こした。
「ごきげんよう」
 爆音の中にアバドンの冷たい声が一つだけ、置き残された。








「これで最後だ」
 マルドゥークが肩に乗せた『ワイバーン』を下ろして言った。気絶して口と足を縛ってある。敵軍の飛竜はみなで居城前の砂地に集めていたのだが、彼が持ってきたので最後のようだ。
「城内はかなりの損壊が見られた」
 クレーメック・ジーベック(くれーめっく・じーべっく)が報告した。
「東部2階部分のエントランスはほぼ全壊。天井が落ちている部分もある、近づくのも危険な状態だ」
「そうか」
 爆発が起こったのは2階部分だけだったようで、収まった時にはアバドンゲドーの姿は無かったという。逃げるための爆発だと思われるが念のため、他にも仕掛けられていないか、城内の捜索を始めたという。負傷者は出たが、死者はいないという。
「こちらも全員確認した」
 歩み寄りながらにダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)シャンバラの生徒に死者は出ていないことを彼に伝えた。
「そうか。本当によかった」
「多くの兵を失ったがな」
「そうか」
 多くの兵を捕虜とした、しかし結果としては両軍合わせて800名近い人間が犠牲となった。同じカナンに生きる者同士が争い、そして死ぬ。戦いが終わらなければ、この国の悲劇は終わらない。
「それからもう一つ。戦利品というか何というか」
「戦利品?」
 ダリルが指した先に、
「君も相棒もよく吠えるだろう? 咆哮→ハウリング→ハウル。ねっ、良い名前だろう?」
「ハウルねぇ。悪かねぇけど安易過ぎやしねぇか?」
「そんな事ないよ。よぉし決まり! 今日から君の相棒の名前はハウルだ」
「ハウル…… ハウル…… ハウ―――」
 清泉 北都(いずみ・ほくと)ジバルラが歩み寄り来て、そして立ち止まった。
「マルドゥーク……」
「ジ、バルラ……」
 ジバルラが生徒たちと行動を共にしていた事をマルドゥークは知らない。ましてや彼が健在だった事さえも知らされていなかった。それでも動揺はすぐに顔から隠れて消えた。
「ジバルラ」
 動いたのはジバルラだった。彼はゆっくりと歩みを始め、マルドゥークの元へと歩み寄る。
 歯を軋り、拳を強く握りしめ、そして―――
 そのまま彼の横を歩み過ぎた。
「ジバルラ……」
 揺れる肩。震える拳。重く強い足音。そんな彼の背をマルドゥークは呼び止めた。
「ザルバを助ける! メートゥもだ!」
 背を向けたままのジバルラに、この国の領主は、
「力を貸してくれ!」
 と叫び渡した。
「けっ」と吐いたジバルラは、
「槍を無くしたんでな。国宝級のやつを貰ってくぜ」
 とだけ言って、居城に向かいて歩みを始めた。
 決して溶けて混ざってはいない。それでも2人の英雄はようやく並んで同じに向いたのだった。




〜〜試練の塔〜〜

 どれだけ駆けたのかは分からない、ただひたすらに愛するセイニィ・アルギエバ(せいにぃ・あるぎえば)の爪撃を避けながらに喰らいながらに走り続けた。
 右足の感覚がなくなっている、出血はきっと酷くなっているだろう。重く動かない足を引きずりながらにシャーロット・モリアーティ(しゃーろっと・もりあーてぃ)は最後の力を振り絞って階上に輝く光りの中へと駆け込んだ。
「―――あれ?」
 急に体が軽く…… 足の痛みも消えていた。それにここは……?
「シャーロットさん?!!」
「………… イナンナ?!!」
 少しばかり先にイナンナの姿が、そしてその周りには桐生 円(きりゅう・まどか)宇都宮 祥子(うつのみや・さちこ)といった塔の試練に打ち勝った生徒たちの姿があった。
「シャーロットさんも試練に打ち勝ったのですね? おめでとうございます」
「えっと…… 私……」
 そうなのだろうか。自分はただ…… 確かにセイニィの攻撃をうけても最後まで倒れなかった。最後に飛び込んだ光りがゴールだったという事か、だとしてもこの場所に自分が居る事自体がオカシい。何せここは試練の塔の最上階、60階だというのだから。
「そんな…… 私そんなに登った覚えはないのに」
 登ったどころか、どこをどう走ったのかも覚えていない、そんな余裕も無しに逃げ続けたのだ、逃げ切れた事が今となっては奇跡に思えた。
「きっと、ご褒美ですよ」
 イナンナは笑みかけて、そっと言った。
「大切な人を最期まで護り抜いた。だからきっとその人が、あなたをここまで導いてくれたのですよ
「セイニィが……」
 塔の試練が用意した『偽物』だったとしても、シャーロットイナンナの言葉を信じてみたい、そんな気持ちになった。傷も癒えている、これもセイニィからのご褒美なのだと。
「ご褒美なら、もう一つありますよ」
「えっ?」
 天井から射す光りの中で、それは悠然と佇み、煌いていた。
「これが…… ギルガメッシュ
「えぇ。みなさんのおかげです」
 試練に打ち勝った者にのみ姿を見せる、ここに辿り着いた生徒全員へのご褒美、そしてカナンの人々の希望の一つ。
 イコンギルガメッシュが今、確かに目の前に存在していた。
「さぁ、急いで戻りましょう」
 イナンナの言葉に続くは「まだ戦いは終わっていないのですから」であろう。
 終わっていない、そう、まだ何も終わってはいないのだ。
 国を巡る争い、その最終局面はすぐそこにまで迫っているのだった。

担当マスターより

▼担当マスター

古戝 正規

▼マスターコメント

 
 おはようございます。ゲームマスターの古戝正規です。
 リアクションの公開が遅延してしまいました。申し訳ありませんでした。


 「【カナン再生記】 砂蝕の大地に挑む勇者たち」の第3回目。如何だったでしょうか。
 これにて西カナンの物語はひとまず完結です。 

 ネルガルとの最後の戦いには、西カナンだけでなく、東カナン、そして南カナンも参戦することになるでしょう。
 【カナン再生記】シリーズ最終決戦はグランドシナリオにて展開する予定となっております。
 シナリオガイドの公開は4月末の予定です。 
 
 次の機会にもお会いできることを心より祈っております。