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リアクション
☆
「待てーーーっ!!!」
と、道を走るのは橘 瑠架(たちばな・るか)。
その後ろをついて走るのはシェイド・ヴェルダ(しぇいど・るだ)。
そのさらに後ろについて来れていないのが神楽坂 紫翠(かぐらざか・しすい)である。
「ま、待って下さいよ……」
と、紫翠は呼びかけるが、激昂した瑠架の耳には届かない。
何しろ、瑠架の自室に泥棒が入り、大事な物を盗まれたというので大捕物の真っ最中なのだ。
「あ、ちょうどいいところにいたでスノー!! 人助けを手伝って欲しいでスノー!!」
そこにウィンターの分身も合流するので、結構な人数が一人の泥棒を追いかけていることになる。
うっかり瑠架が自室に戻ったところを泥棒と鉢合わせしてしまったのだから、その泥棒も随分と運がないというべきだろう。
「人助けの手伝い? 何だかややこしいな?」
と、走りながらウィンターに問いかけるシェイド。
「かくかくしかじかでスノー!! 今夜12時までにスタンプを一杯にしないと大変なのでスノー!!」
ウィンターの説明を受け、シェイドは頷いた。
「ああ……なるほど、さすがに逮捕はやりすぎだったか? まあ自業自得ってヤツだな、時間もないんだろうが、頑張れよ……っと、ちょっと待て」
まるで他人事のように言うシェイド。振り向くと、紫翠が遅れていることに気付いた。
「……まぁ……挽回する機会があるだけ……げほげほ……マシでしょう……げほ」
シェイドは紫翠に近づき、様子を見る。
「お前……風邪か……? 熱があるじゃないか。こりゃ追いかけっこしてる場合じゃないな、薬買ってくるから、そこの公園で待ってろ」
紫翠を公園へと運ぼうとするシェイドだが、そこに瑠架の声がかかる。
「ちょっと、何してんのよ!! 早く追わないと見失っちゃう!!」
その瑠架に、シェイドは応えた。
「よし分かった。ウィンター、お前は瑠架を手伝ってやれ。泥棒を捕まえれば人助けとしては充分だろう」
その一言に、はりきって走り出すウィンターだった。瑠架を追い越そうかという勢いで泥棒を追い始める。
「了解でスノー!! 泥棒を捕まえるでスノー!! 病人は置いていくでスノー!!」
「まったく……調子が悪いなら無理したら駄目だろう……」
瑠架とウィンターが泥棒を追って行くのを見送ったシェイドは、紫翠を抱えて公園に入ろうとした。
すると、そこに声をかけた女性がいた。
「何だ、病人かい?」
メイド服に身を包んだ朝霧 垂(あさぎり・しづり)だった。
傍らに同じくメイド服姿のウィンターを連れた垂は、紫翠の様子を見て声を上げた。
「ああ、熱があるな……待ってろ、今解熱剤を……」
と、荷物の中から市販の解熱剤を取り出した。
「どうも風邪の引き始めらしくてな……薬を買いに行こうかと思ったんだが……助かった、礼を言う」
シェイドは垂と共に紫翠を公園に運びつつ、軽く頭を下げる。
「なぁに、具合の悪い奴を見たら放っとけないよ。薬とかは常備してるしな……ウィンター、水汲んできてくれ」
垂からコップを受け取ったウィンターは、公園の水道の方へ、とてとて走って行った。
その様子を見ながら、シェイドは呟く。
「……あの精霊……何体もいるのか……何かの手伝いをさせてるのか?」
水を汲んだコップから水をこぼさないように慎重に歩いて来るウィンターを眺めつつ、垂は答えた。
「ああ。見ての通りメイドだ。ちょっとした奉仕活動の手伝いをな」
ウィンターに人助けの手伝いを頼まれた垂は、時折行なっている社会奉仕活動の手伝いをウィンターにしてもらうことにしたのだ。
例えば、一人暮らしの老人を訪ね、ちょっと家事をしたり、話し相手になったり。
垂やウィンターのような子供や若者が尋ねると喜んでくれる人もいる。
足が不自由な人の代わりに買い物をしたりもする。
ウィンターも垂を見習って、真面目に奉仕活動をした。見た目よりもよほど大変な仕事だったが、垂のフォローもあったので何とかなっていた。
もちろん、報酬などは貰わない。
「……ボランティアか。それはまた、感心なことだ」
自分の住んでいる世界とは随分違うな、と思いつつシェイドは呟く。
だが、垂は笑顔で首を横に振った。
「いや……ただの自己満足、みたいなもんさ。俺は喜んでくれる人たちの笑顔が見たいだけだし……ウィンターにも何かが伝わればいいんだけどな」
水の入ったコップを持ったウィンターが到着したのを見て、垂はベンチに座った紫翠に薬を飲ませた。
「……んく、けほっ……あ、ありがとうございます……」
礼を言う紫翠の様子を見て、垂は告げた。
「まあ、少ししたら薬が効いてくるだろうから……そうしたら家に帰って休むんだな」
とりあえず落ち着いた様子の紫翠を見て安心したシェイドは、ふと周りの様子に気付いた。
「な、ないでスノー!! どこいったでスノー!!」
その公園では、ルカルカ・ルーがアルメリア・アーミテージと共になくした首飾りを探しているところだった。ウィンターの分身も協力するが、まだ見つかっていないらしい。
「お、落ち着いて。話からすれば、きっとこの公園にあると思のよね……」
ルカルカをなだめながら、アルメリアは呟く。
半狂乱で首飾りを探すルカルカは、公園のベンチで休む紫翠とシェイド、それに付き添う垂などに気付く余裕はない。
「ふーん……パートナーの人と別れたのは……そして公園の出口を出て……?」
アルメリアがルカルカから聞いた話を元に、ルカルカが歩いたであろう跡を想像で探していると、ベンチ付近の人影に気付く。
「あ……この辺で首飾りの落とし物、見ませんでした?」
「……いや……」
と、シェイドと垂が返事をしかけた時。
「捕まえたーーーっっっ!!!」
橘 瑠架がウィンターと共に泥棒を追って、公園に乱入してきた。
どうやら公園の回りをほぼ一週したところで、ウィンターが泥棒の足を凍らすことに成功したのであろう、自由を奪われた泥棒はそのまま瑠架にタックルされる格好で公園に転がり込んだのだった。
「さあ……捕まえたわよ……覚悟は出来てるんでしょうね!?」
自由を奪われた泥棒にもはや逃れる術はない。あっという間に瑠架にボコボコにされ、戦利品を奪い返される羽目になった。
「ふぅ……危ないところだったわ。あなたのおかげで大事なものを取り戻せたわ、ありがとう」
と、ウィンターの頭を撫でる瑠架。周囲の視線に気付くと、苦笑いを浮かべた。
「あはは……あれ、紫翠、どうしたの?」
ベンチの紫翠とシェイドに駆け寄る瑠架、その手元で金色のロケットペンダントが揺れた。
シェイドは、そんな瑠架に状況を説明する。
「ああ、どうも熱があるらしくて……このメイドさんに薬をもらったところだ……で、盗まれたものは取り返したのか?」
その言葉に、瑠架はロケットペンダントを差し出して答えた。
「ええ、このペンダント……とても大事なものだから」
その中には紫翠の写真が入っているが、ここでそれが開かれることはない。懐にしまおうとした瑠架の服の下から、もうひとつ盗まれていたもの――紫翠の寝姿を隠し撮りした写真が満載のフォトアルバム――が落ちて皆の前で広がった。
「……あ、あははは……何でもない、何でもないのよ、これは……」
と、何事かを誤魔化しながら、瑠架はそのアルバムを隠そうとする。シェイドは、その様子をニヤニヤしながら眺めるのだった。
「ふうん……お前も案外隙がねぇな……? まあいいさ、紫翠が落ち着いたら帰ろう……って、そういや何か探してるんだったな?」
話をしていた最中だったことを思い出したシェイドが再びアルメリアの方を向き直ると、一連の騒ぎに驚いたアルメリアが目を丸くしていた。
「う、うん……翼の形のついた首飾りなんだけど……」
と、アルメリアがルカルカのなくし物の説明をした時。
「――?」
アルメリアの背後で、何かの音が聞こえた気がした。
その音に振り向いたアルメリアが視線を動かすと、公園の隅の樹の枝に、何かが引っかかっているのが分かる。
「……あ」
それは、まさしくルカルカが探している首飾りだった。
「ルカルカ、あったでスノー!!」
ウィンターが呼びかけると、ルカルカは首飾りを確認するとウィンターを勢い良く抱き締めた。
「あ、あ、あ、あ、ありがとーーーっっっ!!!」
そのまま感謝気持ちと共にもふもふとすりすりとむぎゅーとされるウィンター。
「ありがとー、ありがとー、良かったよー!!」
よほど不安だったのだろう、何度も何度も礼を言うルカルカの頭を、ウィンターはよしよしと撫でてやる。
その様子を眺めるアルメリアの横に、いつの間にかルカルカのパートナー、ダリル・ガイザックが立っていた。
「やれやれ……ようやく見つかったか」
その姿を見て、アルメリアはぼそりと、呟いた。
「……事件がないなら起こしてしまえ、てこと?」
ダリルは、視線を逸らさずに答えた。
「……何のことかな」
その背中にひょいと手を伸ばしたアルメリアは、笑った。
「……葉っぱがついてる。
それに、さっき彼女は『ダリルと連絡が取れない』って言ったわ。パートナー同士なんだから、連絡が取れないとしたら携帯を持っていなかったことになる……。何しろ、電波が通っていなくても会話できる筈なんだから。
そして、さっき首飾りを見つける直前に聞こえた物音は……メールの着信音かな? 電子音だったものね。つまり、あの樹の根元に携帯を置いておいたんじゃない?」
そう、ルカルカの首飾りを外したのはダリルだったのだ。公園でルカルカと別れる直前に首飾りの留め金を外し、公園の樹に引っ掛けて自分は物陰でルカルカが探しに来るのを見張っていたのだ。
そうこうするうちに騒動が起こってしまったので、携帯にノートパソコンからメールを送り、アルメリアの注意を促した、というわけだ。
だが、アルメリアの追求を受けても、ダリルはしれっと回収した携帯電話を見せ、言い放った。
「……何のことやら。俺の携帯はここだ。ルカが動転して電話するのを忘れたんだろう」
「……ふぅん? でもさっき『ようやく見つかったか』って言ったよね? 連絡が取れてなかったのなら……」
まだ言い足りない様子のアルメリアに向け、ダリルは唇に人差し指を当てて、軽く笑った。
「ま、そのくらいにしておけ……言わぬが花、沈黙は金。ということだ」
どうやら瑠架とルカルカから感謝をもらえたことで、ウィンターのスタンプが2個進んだらしい。紫翠とシェイド、瑠架は風邪気味の紫翠を担いで帰っていく。
垂もまたウィンターの分身と共に、次の予定へと向かった。
分身同士で喜ぶウィンターとルカルカの様子を見たアルメリアも、ダリルに向かって微笑んだ。
「そうね……彼女にとっては『なくし物をウィンターちゃんと一緒に探して見つけた』ということが真実だものね?」
その言葉に、ダリルは肩をすくめて応える。
「……おいルカ、見つかったんなら俺はそろそろ帰るぞ。飯の支度もしなければならん」
だが、ルカルカはそんなダリルの腕をがっしりと掴み、宣言した。
「何言ってるの!! お礼もかねてウィンターの人助けを手伝わないと!!」
腕を掴まれたダリルは、うららかな午後の日差しを見上げつつ、呟くのだった。
「まあ、こうなると思ったけどな――」
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