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地球に帰らせていただきますっ! ~3~

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地球に帰らせていただきますっ! ~3~
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 ■ 縁側で見上げる星空 ■
 
 
 
 鷹村 真一郎(たかむら・しんいちろう)は留守中実家の管理をお願いしてあった榊和巳の家に寄り、軽く挨拶をした後、実家に向かった。
 普段はパラミタで暮らしているから、実家に住む人はいない。
 庭や外観は榊が掃除をしてくれているが、私室や書斎は当時のままにしてあるから、実家に帰ってまずしなければならないのは大掃除だ。
 早くやらないと日が暮れるとてきぱきと掃除を始める真一郎を横目に、鷹村 弧狼丸(たかむら・ころうまる)は家の中をぐるっと歩き回ると、満足そうに畳の上に丸くなった。
 パラミタの家も良いけれど、一戸建ての真一郎の実家は広くて弧狼丸の好みに合う。家中どこに行っても真一郎の臭いがあって落ち着く上、日本の家の床に敷かれている畳は柔らかくて心地よい。
 くつろいだ気分で目を閉じると、弧狼丸は畳の上に丸まったまますやすやと寝息を立て始めた。
 
 一方松本 可奈(まつもと・かな)はと言えば、手にはちゃんと掃除道具を持ってはいるけれど、それはただのフリ。
 書斎や真一郎の部屋で昔の写真を眺めて遊んでいる。
「真一郎、ちっちゃいー。でも昔から変わらないのねー」
 幼少期の真一郎の写真は、どれを見ても子供らしくない仏頂面だ。カメラのレンズを睨みつけるようにして撮られたのだろう。じっと目力のある視線が写真から飛び出しているかのようだ。
「顔の傷はこの頃なのねー」
 青年期の写真に写っている顔の傷に、可奈は指を当てた。何歳くらいだろう。18〜20歳ぐらいに見える真一郎の顔には、これまでの写真には見られなかった顔の傷が写っている。
「こっちの写真は何かなー」
 写真に夢中の可奈の掃除の手は、当然全く動いていない。
 
 そして、働いていない2人の分も真一郎が掃除にいそしんでいるかと言えば。
「しんちゃん、しばらく見ないうちにお父さんに似てきたわよねぇ」
「あらほんと。ちょっと俯き気味にあっちを見てくれる? そうそう、この角度が一番似てるわ。そう思わない?」
「それよりも、手を前髪に当てて目を細めてみてくれる。まぶしそうにっていうか、ああそうそう。こっちの方が似てるわよ、ねぇ」
 近所のおばさんにあっちを向かされこっちを向かされ、遊ばれていた。
「いえ、似てると行っても血は繋がってないんですが……」
 ささやかに抵抗してみるけれど、そんなの勿論聞いてもらえない。
 盛り上がっているおばさんたちの会話をよそに、隣のおじさんはこんなことを言ってくる。
「真一郎君も良い歳なんだから、そろそろ嫁でもみたいもんだなぁ」
「まあ……嫁はそのうちに……」
「あらま、しんちゃん、お嫁さんをもらうの? ねね、相手はどんな子?」
「いえ、ですから……」
 賑やかに浴びせられる質問に真一郎もたじたじだ。
 真一郎が帰ってきたと聞いた父の知り合いや近所の人が、入れ替わり立ち替わり、差し入れや畑で採ってきたばかりの野菜等を持ってくる。これで晩ご飯のおかずに困ることはないだろうが、掃除をしている暇はまったく無い。
 
 結局、掃除は適当に必要な場所の埃を払うだけに留まった代わりに、その日の食卓は品数豊かなものとなった。
「肉じゃが、ちょっと甘めの素朴な味付けなのねー」
 子供の頃からよく差し入れをもらったというから、真一郎はこういう素朴な味付けで育っているのだろう。とすれば、好みもこういう味なのかと、差し入れの肉じゃがを食べながら、可奈はその味を記憶しようと試みた。
 下手の横好きで料理をするのは好きな可奈だが、真一郎は何を食べても美味いと言って食べてくれる。それは嬉しいのだけれど、本当はどんな味が好みなのかがさっぱり分からない。
 この機会に子供の頃に食べていた味を覚えておこうと思うのだけれど……それが再現できるかどうかはまた別の話だったりするのだった。
 
 心づくしの差し入れで構成された夕食を終えると、真一郎と榊は縁側でまったりと足を伸ばした。
 茶の間ではさっきまで仲良く遊んでいた弧狼丸と可奈が、スイカを巡って争っている。
「いくら相手がコロマルだと言っても、このスイカは譲れないわ」
「食い物以外なら姉貴に従うが、そのスイカの半分はコロマルのもんだ!」
 バチバチバチ、と視線の火花を散らした後、2人はスイカを持って家中を駆け回り始めた。
 どたどたミシミシと家が軋む勢いに、榊が団扇でそちらを指した。
「ところで真一郎……アレは止めなくて良いのか?」
「いつも通りです」
 真一郎が言うと、そうか、と榊は団扇を元に戻してぱたぱたと扇ぎ。
「良い家族だな」
「はい。良い家族ですよ」
 答えて真一郎は星空を見上げる。
 パラミタで自分がどこまでやせるのか、そしてそこで父に近づく何かを得られるのか。今はまだ分からないけれど。
 賑やかなパートナーのいるパラミタでの暮らしは悪く無い。そう思えることが今は嬉しいのだった。