薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記

リアクション公開中!

【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記
【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記 【空京万博】子猫と子犬のお散歩日記

リアクション


第1章 わんにゃんプロローグ

 空京万博の入口近くにある総合受付所前で、“シャンバラの現在“パビリオンのコンパニオン衣装を纏った雅羅・サンダース三世(まさら・さんだーすざさーど)が、元気に人々に声をかけている。
「人懐っこい子猫と子犬ですよ〜。一日限定で、飼い主になりませんか〜」
 彼女の足下には、みかん箱があって。その中には、可愛らしい子猫と子犬がにゃーにゃー、わんわん、声を上げている。
「空京で保護された、野良猫、野良犬達なんですよ」
 立ち止まる人々に、雅羅はそう説明をする。
 パラミタパビリオンの『わんにゃん展示場』では、空京で保護された野良猫、野良犬が集められており、写真の展示が行われているという。
 気に入った子猫や子犬を譲り受けることも、飼い主として問題がなければ可能だという。
「万博内にも紛れ込んだ子猫、子犬が多いみたいで、今日は特に人手が必要なの。一日だけでもいいから、面倒みてもらえませんか? わんにゃん展示場の他に、隣の展示場や広場とか、ペットと楽しめる場所も沢山ありますよ。新たな万博の楽しみ方を発見できるかもしれません!」
 そんな風に、雅羅は訪れた人々にペットを紹介していた。
 今日は何故か、迷い猫、迷い犬も多かった……。

「それはね、訳があるんだよ!」
 わんにゃん展示場に行っていた想詠 夢悠(おもなが・ゆめちか)が、総合受付に戻って来た。
 彼女は雅羅を理想の姉と慕っており、今日も手伝いに来ている。
 夢悠の義姉であり、雅羅を好いている想詠 瑠兎子(おもなが・るうね)も一緒に来たはずなのだが、今は姿はなかった。
「どんな理由?」
「それはね……それは」
 夢悠が答えようとした途端、近くに止まっていた鴉が「カァー!」と大きな声を上げた。
「わんにゃん展示場の企画者さんが、野良猫と野良犬に散歩をさせてるみたいなんだ。ほとんど、躾られてる野良達だから大丈夫だよ」
 夢悠は薬のことをよく知らない雅羅にそう説明をした。
 本当は全て話してしまいたいところだけれど……姉が、瑠兎子が鴉になってしまったことは隠しておかないと、可愛そうなので。
 会話が出来ないので、詳しくは聞けないけれど、瑠兎子はいつも通り雅羅に対してやましい事を考えたみたいなのだ。
 でも、珍しく反省してきちんと手伝いをしたいという姿勢を示してきたので、夢悠はバレないように気を付けることにした。
「ちょっとお姉ちゃんはお腹を壊して、医務室で休んでるんだ。この仔はね、使い魔のカー子っていいうんだよ。一緒に、ショーで盛り上げよう!」
「おお、鴉が協力してくれるなんて、楽しいショーになりそうね」
 雅羅は視線を合わせて、鴉に「よろしく」と言い、鴉のカー子は「カア!(任せといて!)」と声をあげる。
 そして、展示場の前でささやかなショーが始まる。

「これより、使い魔カー子のミニショーを始めまーす!」
 夢悠が声を上げると、訪れた人々の視線が一斉に集まる。
「カァ♪」
 カー子はたいむちゃん柄のタオルを首に結んで、おめかしした姿で、夢悠の肩に乗っていた。
 地面に下りて、踊るように飛び跳ねながら、左の翼に紐で縛り付けたカスタネットをリズミカルに右の翼で叩いて鳴らす。
「おおー」
「なんか、すげぇぞ」
 人々が集まったところで、夢悠はカー子の頭に紙コップを被せて固定。
「いくよ〜!」
 ポーンと、夢悠がピンポン玉を投げると、カー子が飛んでコップでキャッチ。
 成功の喜びを表すように、カスタネットを何度も鳴らす。
「おー!」
「すごいすごい」
 人々から拍手が上がっていくけれど……。
 次は、失敗。
 その次も失敗。
 失敗の連続が続き。
「カァァァァァ!」
 逆ギレしたカー子がくちばしで夢悠に八つ当たり。
「あたっ、いたたたたっ、やめてー!」
 ショーは中断となり、客たちは去っていく。

 ……気を取り直して。
 今度は、カー子の右の翼に赤い紙、左に白い紙をセロハンテープで貼り、旗揚げゲームを始める。
「赤上げて、白上げて、白下げて、白上げないで、赤下げて」
 夢悠の指示通り、カー子は旗を上げ下げしていく。
「赤白さげて。黒さげる!」
 と号令すると、カー子は旗を下げた後、ばさっと伏せた。
 観客たちから拍手が沸く。
 調子にのって、夢悠は元気に続ける。
「赤あげて。白あげて。赤白さげて、黒あげ…ない!」
 伏せたまま赤白の旗を上げたカー子は顔を上げようとして、動きを止めて……。
 次の瞬間。
「カァカアカアアアアアア!!」
 また逆キレ。
 夢悠に襲い掛かる。
「いたっ、いたたたっ、そういうゲームなんだってばー!」
 そんなこんなで。
 結局、ショーは中断の連続だった。
 だけれど、そうして夢悠が追いかけられる姿も、観客たちにウケていたようだ。

「それじゃ、縄跳びいこうか〜」
 続いて、夢悠は雅羅と一緒に縄を回して、カー子に飛ばせる。
 最後は二重跳びにチャレンジ!
 夢悠と雅羅は出来るだけ大きく回して、カー子をサポート。
 見事、カー子は成功させる。
「すごいすごいー」
「おりこうさん」
 大人と一緒に観ていた、子供達からも拍手が贈られた。
「おりこうさんなペットが沢山いる、わんにゃん展示場はあちらです。よろしくお願いしますー!」
 最後に、全員で頭を下げてわんにゃん展示場の紹介をした。
「やったね」
「結構楽しかった」
 それから、夢悠と雅羅は微笑み合って、ハイタッチ。
「カァー!(頑張ったのはワタシ〜!)」
「よしよし」
 夢悠の頭に止まったカー子を雅羅がなでなでする。
「カア〜」
「ふふ、途中色々あったけど、ちゃんと協力したから戻るための毛、もらえると思うよ」
 小さな声で、夢悠はカー子にささやきかけた。
「カァ♪」(タン♪)「カァ♪」(タン♪)「カァ♪」(タン♪)
 カー子は嬉しそうにまた、踊り始める。