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【2021修学旅行】血の修学旅行

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第3章 肉の祭典

「フハハハハハハハ!! 我が名は世界征服を企む悪の秘密結社オリュンポスのドクター・ハデス!! 貴様らを邪神復活の生贄としてくれるわ!!」
 ドクター・ハデス(どくたー・はです)のすっとんきょうな笑い声を耳にして、多くの生徒が発掘の手を止め、顔をあげた。
「ちょ、ちょっと兄さん! 邪神復活だなんて、なに変なことに協力しようとしているんですか!!」
 高天原咲耶(たかまがはら・さくや)が、顔を真っ赤にしてハデスの背を叩いていた。
 だが、ハデスは知らん顔でしゃべり続ける。
/large}「聞け! 我らは、邪神との1万年前の盟約に従い、獣人たちを率いて、邪神復活の儀式を執り行うのだ!!」
「1万年前って、オリュンポスがどうのと言い始めたのは最近じゃないですか。嘘も妄想もいわないで下さい
!!」
 咲耶はハデスの耳元で叫びたてるが、ハデスは完全に無視している。
 いや。
 そもそも、まったく聞いていない可能性さえあった。
「さあ行け! 改造人間サクヤ、人造人間ヘスティア、暗黒騎士アルテミス、そして怪人ゾウ男、怪人オオカミ男、怪人ヘビ男、以下略よ!!」
 ハデスの命を受け、多数の獣人が出現……したが、みな、一様に渋い表情を浮かべていた。
「な、何だ何だ!? 勝手に命令しやがって。誰がお前の部下になるなどといった?」
 ゾウ男、いや、ゾウ獣人を始め、獣人たちはハデスの勝手な言動に不平たらたらだった。
 いっそのことハデスを生贄として邪神に差し出そうかという考えさえ浮かんだが、このようなものを捧げて邪神が喜ぶかどうかは微妙だったのでやめにしていたのである。
「兄さん! 改造人間サクヤって、私のことをまたそうっているんですか?」
 咲耶に問われて、ハデスは黙ってうなずいた。
「ははー。人造人間ヘスティア、怪人を率いて闘います!!」
 咲耶とは対照的に、ヘスティア・ウルカヌス(へすてぃあ・うるかぬす)はハデスに合わせて、いわれたとおりの役割を果たそうとしていた。
「暗黒騎士アルテミス、出陣します!!」
 アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)もまた、自分はオリュンポスの騎士であると確信しているようであった。
「むう。まさか、敵襲とは!! 何を意図しているのかはよくわからないが、全裸で無防備な状態である他の生徒たちは圧倒的に不利だな。ここは、私たちが何とかしないと!!」
 コア・ハーティオン(こあ・はーてぃおん)は、スコップを放り投げると、メタルボディで一応「全裸」の身体を獣人たちに向かって前進させていった。
「ねえ、あれ、もしかしてバカハデスじゃない? やだー、サイアクー」
 ラブ・リトル(らぶ・りとる)はハデスを思いきり知っていたために、顔をしかめずにはいられなかった。
「シャグアー!!」
 天空から龍の咆哮が轟いたかと思うと、周辺上空を散策していた龍心機ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)がラゾーン上空に姿をみせた。
 ハーティオンは、ドラゴランダーの咆哮を解析して「ハーティオン、敵の気配を察知したのでやってきたぞ。これで退屈しなくてすむ」というメッセージを得ていた。
「……」
 馬超(ば・ちょう)もまた、スコップを投げ出し、無愛想な表情で無言のまま、獣人たちから仲間たちを守ろうと、ハーティオンとともに歩みだした。
 怒っているようにもみえるが、その実、闘える相手が現れて嬉しいのである。
「あら、何やらケンカが始まりそうね。面白そうだわ。参加させてもらおうかしら。三鬼、あなたはさがっていて。ここは私が」
 多摩黄帝(たま・きてい)もまた、そういって、獣人たち、そしてハデスたちに向かって駆け出していた。
「あっ、多摩!! 一人で先行するなって」
 浦安三鬼は、慌てて多摩の後を追った。
「はーい、それでは、戦闘モード、起動。ミサイル一斉発射です!!」
 ちょうど多摩が向かってきたとき、ヘスティアは攻撃を開始したところだった。
 ひゅるひゅるひゅる
 ちゅどーん!
 ちゅどーん!
 放たれたミサイルの弾幕がラゾーンの聖域に落下して、次々に爆炎をあげる。
「あ、あああああー!!」
 多摩は悲鳴をあげた。
「危ない! う、うおおー!!」
 多摩を助けようとした三鬼もまた、爆炎に巻き込まれる。
「みなさん、しっかり! 私の影に隠れて!!」
 コアは、慌てて多摩たちをかばうようにして、ミサイル攻撃の盾になっていった。
「フハハハハハ! 無駄な抵抗を! オリュンポスのハイテク兵器に丸腰のお前たちが勝てるものか!」
 ハデスは、遥か彼方で嘲笑ってみている。
「さあ、行きますよ。我が名はオリュンポスの騎士アルテミス!! いざ尋常に勝負……って、きゃあっ!!」
 勢いよく三鬼に斬りかかろうとしたアルテミスは、三鬼の全裸の肉体を目にして、たちまちのうちに赤面した。
 目をそらし、剣をしまう。
「うん? どうした?」
「な、なんて格好をしてるんですか! き、騎士たるもの、鎧もつけない相手に剣を向けることはできません!! 速く服を着て下さい!!」
 アルテミスは三鬼に背を向けたまま、感情的になってわめいた。
「あっ!! お、おい、変なとこしげしげみてるなよ!! ここはみんな全裸でなきゃ入れないんだよ、だから、意識してみちゃダメなんだよ!!」
 三鬼は、アルテミスの赤面の理由を知って、急に恥ずかしくなって怒鳴った。
「み、みんな全裸ですって!? そ、そういえば……ああ、もう! 助けてー!!」
 アルテミスは悲鳴をあげた。
「よし、チャンスだわ。三二一、みてなさい!! この状況であんたは三鬼を助けられない。でも、私は違うから!!」
 穿蛇亜美々衣(せんたあ・みみい)は、駆け出した。
 いまこそ、魔威破魔三二一にばっちり優越感を感じるときだ。
「あっ、ちょっと、危ないわよ。その女が斬りかかろうとしてるわ」
 三二一が、忠告した。
「は? なーに、悔し紛れでいってんのかしら! あの女は赤面してて何も……」
 美々衣がそこまでいったとき、アルテミスの剣が彼女の首を跳ね飛ばそうと豪快に振りまわされてきた。
「あ、あああ!? なぜ」
 慌てて攻撃を避けた美々衣は、アルテミスに信じられないといった顔を向ける。
「あなたは服を着ていますね。斬ります!!」
「な、何を。他の連中にはもういったんだけど、これはバカにはみえる服なの! そういったら、みんなみえないといったから、私は全裸なのよ。わかる? それとも、あなた、自分はバカだっていうの?」
 美々衣は、挑発的な口調でいった。
「いえ。確かに、そんな話に騙されるほど、バカではありません!!」
 そういって、アルテミスは再び斬りつけた。
「きゃ、きゃあ!! 助けてえ」
「やめろ!! なぜ獣人に味方する!?」
 悲鳴をあげる美々衣を、コアが護ろうとする。
「別に、俺たちが頼んだわけじゃないよ。ぱおー!!」
 そういって、今度はゾウ獣人がコアに攻撃を仕掛けてきた。
 他の獣人も、次々にコアにつかみかかっていく。

「そこまでだ! これ以上神の意志に反することはするな!!」
 コアと獣人たちの揉み合いをジャングルの木の上から見守っていた夜薙綾香(やなぎ・あやか)が、颯爽と呼びかけた。
「うん? またまた邪魔が入ったか。なぜそう運命に抗うのだ?」
 ハデスは、嘲笑を浮かべていった。
「とおっ」
 綾香は、ラゾーンの上に飛び降りた。
 宙を舞う綾香のスカートの裾が大きくまくれあがり、周囲の生徒たちの目を和ませる。
 やはり、全裸より、何かを着ている方が興奮度が高まるのかもしれない。
「神はいっている。ここで敗れる定めではない、と!!」
 人差し指をびしっとハデスに突きつけて叫ぶ綾香。
「むう。貴様、何者だ!?」
「通りすがりの、パンツァーの巫女だ!!」
 ハデスの問いにそう答えて、綾香は魔法の携帯電話を振りかざした。
「変身!!」
 綾香の全身が光に包まれた。
 綾香の姿が一瞬全裸になったかと思うと、腰のあたりを覆うように光が凝縮する。
 次の瞬間、綾香はブルーのリボンで両サイドを留めた紐パン一丁の姿になっていた。
 その手にはステッキが握られている。
「うん? わ、わあ、何だ、この姿は! これも神の試練だというのか!?」
 予想外の展開に綾香は戸惑ったが、これも神命とあらば仕方がない。
「とおっ、たあっ」
 綾香は、ステッキを振りまわして、コアにまとわりつく獣人を追い払っていく。
「う、うわあ!! 変なところにステッキを突っ込むなあ!!」
 獣人たちは悲鳴をあげて逃げ惑った。
「これぞ、パンツァーの力! 邪神の復活は断固として阻止する!!」
 叫ぶ綾香に、アルテミスが斬りかかってきた。
「あなたも、一応全裸ではないようですから!!」
「愚かな。なぜあのような主人のいうことを聞く?」
 綾香はアルテミスに飛びかかってハグすると、両の乳房でその顔を挟みこんで、こすりあげてきた。
「きゃ、きゃあっ、窒息する!!」
「この感覚に身を委ねるのだ。感じろ、このあたたかさ、柔らかさ、そして香りを!!」
 綾香とアルテミス。
 2人は組み合ったまま、ラゾーンの土の上を転げまわる。
「ええい、ひるむな。かかれ、かかれー!!」
 ハデスは、獣人たちにさらなる襲撃を指示した。
「だから、命令するなよー!!」
 ブーブーいいながら、獣人たちは散開して、発掘に従事する全裸の生徒たちに襲いかかっていく。
「多勢に無勢だね。ここは加勢しないと!!」
 フィーア・四条(ふぃーあ・しじょう)もまた、仲間を守る決心をした。
「フィーア・四条。お仕えするとしよう!!」
 シュバルツ・ランプンマンテル(しゅばるつ・らんぷんまんてる)がそう叫んで、魔鎧と化してフィーアと装着されていく。
「完全合体! これで2人の心がひとつになった! そして、あともう1人!」
 フィーアは、もう1人のパートナーの姿を探した。
 その姿は、既に獣人たちと闘っている生徒たちのただ中にあった。
「なかなかパンツも発掘されないしさあ! イライラしてたんだよぉ!!」
 于禁文則(うきん・ぶんそく)は、ペッと唾を吐いてオオカミ獣人と殴りあっている。
「よし、于禁! 心をひとつにあわせて! いくよ!!」
 フィーアの呼びかけに、于禁はうなずいた。
「おう!!」
 于禁は、オオカミ獣人の身体を抱えあげると、宙に放り投げた。
「とおーっ」
 オオカミ獣人の身体を追うように、跳躍する于禁。
「とおーっ」
 フィーアもまた跳躍する。
「ダブル・シャンバラ・キーック!!」
 フィーアと于禁が同時に放つキックが、空中でオオカミ獣人に炸裂した。
「う、うがあああああ!!」
 オオカミ獣人の全身が炎に包まれ、地面に落下して、黒焦げになってしまう。
「ガ、ガウー!! お、おのれえ!!」
 ゾウ獣人は怒りの雄叫びをあげた。

「だいぶ盛り上がっているではないか。これはもう、発掘どころではないな。行くぞ!!」
 松平岩造(まつだいら・がんぞう)は海神の刀を構えて、突進した。
「いかにも。闘いが起きたなら、決して負けてはならぬ!!」
 武蔵坊弁慶(むさしぼう・べんけい)もまた、レーザーナギナタを振りまわして岩造に従う。
「うむ。まことに、いい闘い日和じゃのう。今日はわしも自ら武勲をおさめるとしよう」
 武者鎧『鉄の龍神』(むしゃよろい・くろがねのりゅうじん)もまた、ブレード・オブ・リコの刃を閃かせながら、風のように駆けた。
「よし、行くぞ。俺は空からだ!!」
 ドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)もまた、咆哮とともにレッサーワイバーンに飛び乗ると、いっきに上昇を指示した。
「ぱおー!!」
 ゾウ獣人は咆哮とともに岩造とともに襲いかかった。
 刀を構える岩造を、巨体で体当たりして吹っ飛ばそうとする。
 鋭い刃に重い肉体をぶつけるという対処法であった。
 鋭いものは、重くて大きなものの平べったい圧力に弱いのである。
「ぬおお!!」
 吹っ飛ばされまいと踏ん張った岩造は、ゾウ獣人に押し倒されて、巨大な足に背中を踏んづけられてしまう。
 だが、岩造は、血走った目をくわっと見開き、四肢に全力をこめて、ゾウ獣人の下から這い出そうとした。
「ぱおー!! しぶとい奴だ!!」
 舌打ちするゾウ獣人に、弁慶のナギナタが襲いかかる。
「おとなしく退散いたせ!! でなければ成敗いたす!!」
 ぴゅぴゅぴゅ
 ナギナタに斬り裂かれたゾウ獣人の皮膚に細かい傷が走り、血のしずくをほとばしらせる。
「戯れを。そのような攻撃で俺に深手は負わせられん!!」
「それでは、これはどうかのう」
 そういって、鉄の龍神はブレード・オブ・リコでゾウ獣人に斬りつけると同時に、シールドをゾウ獣人の身体に力いっぱい押し当てた。
「フハハハハ!! ムダ……ぐおおおっ」
 シールドから放たれる、すさまじい直線型の衝撃にゾウ獣人の巨体がぐらつき、吹っ飛ばされる。
「くっ、パイルバンカー内蔵シールドか!!」
 鉄の龍神が構えるシールドを睨みつけて、ゾウ獣人は歯ぎしりする。
「俺たちは決して負けない!! 向かってくる者は全て斬り捨てる!! 覚悟せい、鈍重の塊があ!!」
 ゾウ獣人の踏みしめから解放された岩造が、刀を構えて跳躍し、ゾウ獣人の首根に斬りかかっていった。
「くすくす。みなさん、楽しそうですねぇ」
 秋葉つかさ(あきば・つかさ)が、一連の闘いの情景を、楽しくてたまらないといった様子で眺めている。
「はあ。もう、この辺が、熱くなってしまいますわ」
 つかさは、熱い吐息を吐きながら全裸の身体を怪しくくねらせ、股間の辺りを手でおさえて身悶えていた。
 実はシボラ行きのバスに乗っているときからつかさは全裸だったのだが、そういうイメージが定着しているのか、誰も気にしていなかったのである。
「つかさ。こんなところにいたの。できれば、遺跡にきて欲しいんだけど」
 ひたすら喘いだり何かを漏らしたりしているつかさの様子を呆れたようにみながら、宇都宮祥子(うつのみや・さちこ)がいった。
「あなたは、確か、私と同じパンツァーの巫女でもある、宇都宮さんですね。遺跡に行きたいのですか。パンツの発掘には興味がないと?」
 つかさは、快楽に潤んでぼんやりしている瞳を祥子に向けて、いった。
「そうよ。思うところがあって。でも、できれば三二一を巻き込んでやろうと思ったの。あと、同じ巫女である綾香と、あなたも呼べたら呼んでおこうとね」
 祥子は、うなずいていった。
「そうですか。わかりました。私も、もうすぐ遺跡に行くでしょう。この方たちが捕まえて、運んで下さいます」
 つかさは、よだれのようなものを唇から少し垂らしながらいった。
 祥子は首を傾げた。
「わざわざ捕まって連れて行かれるつもりの? どうして?」
 聞いてから、聞くんじゃなかったと後悔する祥子。
「えっ? どうしてって、辱めを受けて自分も儀式に参加させてもらった方がいろいろ興奮するじゃないですか。はあ。獣の殿方には、ヒトにはない勢いがありますわ」
 つかさは、獣人たちの筋肉質の身体が、引き締まったお尻を眺めてため息をもらし、怪しく腰をくねらせた。
「はあ。そう。わかったわ。じゃ、三二一、あなたは行くわよね」
 祥子は軽い頭痛を覚えて手で頭をおさえたが、とりあえずつかさは置いておくことにして、三二一に声をかけた。
「えっ? でも、いまは、獣人がみんなを襲っているし」
 三二一は、祥子の申し出に顔をしかめた。
「闘いはほかの人に任せて。私には、パンツァーのお告げが聞こえたの。遺跡で行われる邪神復活の儀式を阻止する必要があるわ。あなたはまだ脱いでないわよね? 剥かれる前に連れていきたいの。あなたの協力が必要なのよ」
 祥子は、真剣な口調でいった。
「お告げが聞こえた? はあ? 電波じゃないの? あたしの協力が必要って、どういうこと?」
 三二一は、戸惑うばかりだ。
「遺跡に行けばわかるわ。全ては、パンツァーの御心のままに」
「ええーっ。何よそれ。よくわかんない」
 三二一はうめいて、祥子から離れようとした。
 だが、その手を、祥子はがっしりつかんでいた。
「行きましょう。他に、遺跡に行きたい方は?」
「はーい☆ 詩穂も巫女だよ☆ 遺跡で思わぬお宝を発見できるかもしれないし、行ってみたいな☆」
 騎沙良詩穂(きさら・しほ)が勢いよく手をあげて、いった。
「詩穂。そういえば、あなたも。そうでしたわね。いえ、決して忘れたわけでは」
 祥子は、うなずいていった。
「ひどーい☆ 肝心の詩穂を忘れちゃ、めっめっだよ」
「騎沙良。遺跡の中では、わしらだけで行動しない方がいい。悪い予感がするぞ」
 魔鎧として詩穂に装着されている清風青白磁(せいふう・せいびゃくじ)が、囁いた。
「うん☆ わかってるよ☆」
 詩穂はうなずいた。
「詩穂様。わたくし、ダウジングで遺跡がどの方角にあるか調べられますわ。先導させていただきます」
 セルフィーナ・クロスフィールド(せるふぃーな・くろすふぃーるど)がいって、歩き出した。
「揃ったわね。つかさ、綾香にも伝えておいて欲しいのよ。お願いね」
 祥子はそういって、しぶしぶといった様子の三二一と、そして、詩穂たちとともに、ラゾーンを後にして、遺跡を目指してジャングルの中を進んでいった。

「ところで、思ったんだけど」
 一連の闘いの中で、トマス・ファーニナル(とます・ふぁーになる)がいった。
「うん、何だ?」
 獣化してラゾーンを走りまわりながら獣人と闘っているテノーリオ・メイベア(てのーりお・めいべあ)が、ニワトリ獣人の首を締めつけながら尋ねた。
「よくみると、全裸じゃない状態でラゾーンに入っている人、いるよね?」
 トマスの言葉に、テノーリオはうなずいた。
「ああ。雷霆リナリエッタ(らいてい・りなりえった)、だっけ? あの女は裸ワイシャツで、本人は聖域にふさわしい格好だといってるけど、やっぱり全裸ではないしな。他の者にしても、服を着た状態でいる者が散見されるな。そして、トマスも制服のままラゾーンに入っているわけだしな」
 テノーリオのいったとおり、トマスは最初から制服のままラゾーンに踏み入っているが、その姿のまま発掘を行っても、何ら支障がなかったのだ。
「やはり、『全裸でなければラゾーンに入れない』というあの情報は、デマだった可能性が高い。何しろ、原住民の村でもラゾーンのことはよく聞けなかったし、いまのところ、あの噂の情報源は、いきなりパラ実にやってきた不審な男の発言だけだ。そうすると、目的は、僕たちを騙して、無防備な状態で発掘に従事させたところを獣人たちに襲わせるということにあったんだと思う」
 トマスには、事態の真相がおぼろげではあるが、わかってきた。
「そうね。そうだと思うわ。けど、不幸中の幸いだわ。私たち、いざというときのために脱衣所を開設して、みんなの服や武器をあずかっていたものね。急いで武器を配っているから、獣人たちとも闘えるわ」
 ミカエラ・ウォーレンシュタット(みかえら・うぉーれんしゅたっと)がいった。
「そうですね。いまだ全裸でいる仲間も多いとはいえ、服を着て獣人と闘っている者がかなりいます。坊ちゃんの憂えていた事態は、被害をかなり抑えられているというべきでしょう」
 魯粛子敬(ろしゅく・しけい)も、うなずいていった。
「うん。そう、確かに、襲ってきた獣人とは善戦しているようにみえる。でも、何だろう? 何か不安なんだけど?」
 トマスは、ラゾーンで繰り広げられる、生徒たちと獣人たちの闘いを目にしながら、得体の知れない不安を感じずにはいられなかった。
 正攻法でぶつかってきているように思える獣人たちだが、襲い方がシンプルすぎるのだ。
 ラゾーンについてあのような噂を流すなど、用意周到で進めていたわりには、実際には単なる力任せというのも妙である。
 まだ何かあるはずだと、トマスは考えていた。
 が、いまは、迫りくる敵と、トマスも闘わねばならない。
「よし、とりあえず、応戦しながらの撤退をみんなに提案しよう。何があるかわからないし、まだ全裸でいる人も多いし。教導団をナメるなよ。いくぞ!!」
 トマスは獣人に攻撃を仕掛けながら、他の生徒たちに呼びかけを行った。
 そして、すぐに知ったのだ。
 誰も、撤退の呼びかけになどは応じないのだと。
「私たちは、負けるわけにはいかない。必ずや、悪漢たちを駆逐してみせよう!」
 コア・ハーティオンは闘志満々。
「俺たちが決死で攻撃すれば、必ず活路は開かれる! 突撃あるのみだ」
 松平岩造も、撤退などには耳を貸さない。
「かーっ、こいつは面白い!! あっ、面白いっていうか、血が騒ぐぜ!! シボラのジャングルで凶暴極まる獣人どもと白熱のバトルをするなんて、これ以上の修行はないぜ!!」
 ラルク・アントゥルース(らるく・あんとぅるーす)も、全身を汗びっしょりにさせてパンチやキックを放つのに夢中だった。
「オー、青春! ラゾーンで全裸、さらにバトル! 最高、最高!! フレンズ!! 拳でスパーク! ボコスカウォーズ!!」
 ルイ・フリード(るい・ふりーど)も、全裸での闘いの中に生きる充実をみいだしていた。
「あー、しょうがないな。まあ、善戦してるし、大丈夫かな」
 トマスはため息をつきながらも、この調子で闘いを続けていれば、獣人たちを追い払えるのではないか、という、そんな楽観的な予測も浮かばないではなかった。
 だが、あまりにも闘いに夢中になりすぎる、その純粋なまでの凶暴さの中に、彼らの弱点があるといえたのである。
 トマスがそのことに気づくまでは、もう少し時間がかかった。

「タカー、タカ、タカ!! お前たちは、オシマイだー!!」
 ラゾーン上空では、タカ獣人が恐るべき翼を展開して宙を自在に飛びまわりながら、地上の生徒たちに攻撃を仕掛けようとしていた。
「シャグアー!!」
 龍心機ドラゴランダー(りゅうじんき・どらごらんだー)が、襲いくるタカ獣人に巨大な腕を振りまわしたり、飛竜の槍を突いたりして反撃するが、相手のスピードに翻弄されがちだった。
「ガオオォォォォン!!」
 吠えるドラゴランダーを嘲笑うかのように、タカ獣人は巨大な爪でドラゴランダーの巨体を引き裂こうと、旋回しつつ急降下による攻撃を仕掛けようとした。
「死ね、愚かな地上の民よ!!」
「させるかー!!」
 そこに、レッサーワイバーンに乗ったドラニオ・フェイロン(どらにお・ふぇいろん)が宙から迫り、タカ獣人に空中戦による奇襲を仕掛けた。
「それ、ファイヤー!!」
 レッサーワイバーンの火炎攻撃がタカ獣人を襲う。
「むう!? タカ、トラ、バッタ、タトバー!!」
 奇妙な叫びをあげながらタカ獣人は翼を傾けて、きわどいところで火炎を避けるが、羽毛の一部がちりちりと焼け焦げた。
「どこまで避けられるかな!? 翼が煤けてるぜ」
 ドラニオは勢いを増して、連続攻撃でタカ獣人を追いつめていた。
 空中戦は、しばらく続いた。
 ふいに、タカ獣人は嘴の生えた頭部をめぐらせると、進路を180度変えて、撤退の構えをみせた。
「うん!? どうした、逃げるのか」
 驚いたドラニオは、タカ獣人を追おうとする。
「フハハハハハハ! まだ気づかないか? 地上をみてみろ」
「なに!?」
 タカ獣人に促されて、ドラニオは地上の様子を観察した。
 何人かの生徒が、獣人たちと激戦を繰り広げている。
 徐々にではあるが、獣人たちが後退しているようにみえた。
「なるほど。俺たちが優勢だ。恐れをなしたか」
「バーカ! 闘っている連中の後ろをみてみろ」
 そういって、タカ獣人は古代遺跡の方角へ飛び去っていった。
「何だと? うーむ、みてみろといわれても、発掘途中のラゾーンにスコップが転がっているだけだが。うん? スコップが転がっているだけ? 全裸で発掘していた生徒たちはどうなったのだ?」
 ドラニオは、愕然とした。
 もしかすると、血の気の多い生徒たちが闘いに夢中になっている間に、他の生徒たちは次々に連れ去られてしまっていたのでは!?
 不安は的中しているように思えた。
「しまった。あまりの激しい闘いに、つい、仲間を守るという本来の目的を忘れたようだ。そもそも、あのハデスという男は、獣人たちのリーダーから作戦の全体を知らされないまま、独断で襲撃を決行したのだな。ハデスの単純極まる闘い方を目にして、俺たちも単純に闘ってればいいと考えてしまったわけだ。別働隊が、こっそり仲間たちを連れ去り始めていたというのに! くっ、早くみんなに知らせなければ」
 ドラニオは舌打ちしながら、レッサーワイバーンを急降下させて、闘いに夢中になっている仲間たちに状況を伝えにいった。
「きゃああああー! 私を運びながら変なところを触らないで下さいませ! あああああー、感じてしまいますわ。拉致監禁されるのでしょうか? ひどい目にあわされるのでしょうか? ああ、どうせなら徹底的に辱めて下さいませー!!」
 ジャングルのどこかから、獣人たちに拘束されて運ばれている秋葉つかさの、なぜか楽しそうにも聞こえる悲鳴がわきあがっていた。
 そして。
「みんな、大変だよ! 長老の長い話を解読して、やっとわかったんだもん! ラゾーンで全裸に入れないなんて嘘だよ!! 原住民たちはそんな話、聞いたことないって!! あと、獣人たちが最近、ラゾーンの環境を整備して、立て札を建てたりしたって! パラ実にやってきたという男の話は罠だよ!! みんな、すぐに服を着て!」
 泡をくったような様子で走ってきた湯島茜(ゆしま・あかね)が、ハアハア息を喘がせながらまくしたてた。
「ありゃりゃ。ちょっと遅かったかな」
 茜とともにやってきたエミリー・グラフトン(えみりー・ぐらふとん)が、ラゾーンの様子をみていった。
 さらに。
「あーっはっはっは! 熱血状態で闘ってるのは前に出てきた奴らだけで、その他のぽかんとしてた奴ら、みんな、誘拐されちゃったわ!! 私たちが飲んで騒いでいる間にね!! いやー、愉快愉快!! 最高の修学旅行だわ!!」
 原住民の村にいたときと同様、ラゾーンの縁でビニールシートを広げて飲めや歌えやの大騒ぎをしていた綾原さゆみ(あやはら・さゆみ)は、ポンと手を打って大笑いすると、隣のアデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)の肩をガシガシ叩いていたのである。
「さ、さゆみ。わたくしたちもみてないで、助けるべきだったんじゃないかしら?」
 アデリーヌは、飲み過ぎているさゆみの体調を気遣いながら、おずおずと指摘した。
「大丈夫、大丈夫! これから、私たちも行くんだから」
 そういって、さゆみは立ち上がった。
 だが、千鳥足で、だいぶおぼつかない。
「えっ?」
 アデリーヌはぽかんとした。
「ほら、遺跡に行くのよ! そこで、また飲むんだから! 今度は、本番やるわよ」
 そういって、さゆみは真っ赤な顔を歪ませて、ニヤッと笑った。