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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

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【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?
【2021修学旅行】ギリシャの英雄!? 【2021修学旅行】ギリシャの英雄!?

リアクション

「わーっはっは! あまりに美しい俺様を石造と勘違いしたかな? 御嬢さん。」
 柱に括られて並ぶ石像の中、マントをなびかせ仁王立ちしたまま、何故か紐で縛られているのは、全裸の変熊 仮面(へんくま・かめん)である。
「へ、変熊さん! その……服を何か着て下さい!!」
 柚が真っ赤になった顔を手で覆って叫ぶ。
「はぁ!!」
 ブチンッと自らを縛っていた紐を破り、華麗に一回転した変熊が、一同の元にマントをなびかせて着地する。
「郷に入れば郷に従え……。うむ、俺様ダビデ像と同じ恰好だから問題なし」
「大有りです!!」
 腰に手を当て、堂々とした態度の変熊が、佑一が再度柱に固定し直した石像を指さす。
「見ろ! こいつなんて俺よりモロ出しではないか。しかも、でかい……海! 貴様もそうは思わないか!?」
「え……オレ?」
 変熊に名指しされた海が自分を指さし、呆気にとられた顔をする
「やめて下さい! 海くんにそんな話題を振るなんて!」
「何を言う!? 兄四人に囲まれて育った少年が、でかさに興味が無いわけ等ない!!」
「いやいやいやぁぁーーー!」
「柚ーーッ!!」
 柚が走りだし、三月が慌てて後を追う。
「しかし、ガイドでは神殿がもっとあったはずだけど……おっ、こんな所に実物大ナウディ像! かわいいなぁ」
 ナウディ像を見つけた変熊は、「目の赤い所がいいよね……って、さっきからボソボソと俺様を馬鹿にする声が聞こえるのは気のせい?」と言いつつも、
「じゃ、ナウディ像と記念撮影! そこの貴様、頼む!」
「え、え? ボクですか、変熊さん!?」
「他に誰がいるんだ? ほら、これで撮ってくれ!」
「むぅ……」
 ミシェルが変熊の携帯を手に持つ。
「えーっと、鞄をどこに置くかな。……お、ここ丁度」
「鞄を男の石像の股間のナニに引っ掛けて……」
ーーーポキッ!
……。
…………。
………………。
「……あ」
「……お」
「じ、事故だから仕方ないよね」
「そ、そうですね……」
 互いに声が裏返った変熊とミシェルが顔を見合わせ、乾いた笑みを浮かべる。
「……折れたこれどうしよう」
 変熊は折れたナニをとりあえずナウディにお供えする事にした。
「折れたナニをナウディ像に持たせて……っと。ミシェル、頼む!」
「……えーっと、変熊さん……いくよ? いっていいんだよね?」
「勿論だとも!」
 変熊はナウディの後に体をピッタリ押し付けたポーズで写真撮影を行った。
「えくすきゅーず、み〜!」
―――カシャ!
 撮影後にミシェルから携帯を渡された変熊は早速ツイットする。
「只今、ギリシャのナウディ像にお供えナウ。よしっ、これで犯人はナウディだナウ!」
 笑う変熊の前で、石像であるナウディの目から一筋の石の涙が落ちるのを、ミシェルは見逃さなかった。
「変熊殿、残念ながらナウディ殿は犯人ではありません」
「ん?」
 変熊が振り向くと、小次郎とルクセンに両脇を抱えられたフレドの姿があった。
「それをこれから説明します」
「……その前に、あんた、前隠しなさいよね」
 ルクセンが変熊から顔を背けつつ言う。

× × ×


 美術商フレドを追った小次郎とルクセンは、夜のローマのコロッセオで『石像』を景品にした祭りが行われていると聞き、足を運んでいた。
「流石ローマですね。あちこちに綺麗な美女が一杯……」
「小次郎?」
「ああ、すいません。ルクセン殿……しかし、この中にいるのでしょうかねぇ」
 コロッセオの観客席を歩きながら、政府に特別に発行して貰ったフレドの似顔絵を持って歩く小次郎。
「……いた」
「え?」
 ルクセンがコロッセオの上段にある貴賓席に向かう廊下を指さす。
「……間違いないようですね」
 小次郎とルクセンに追われたフレドは、必死にコロッセオの中を走っていた。
「逃げられると思う?」
 ルクセンがリターニングダガーをフレドに向かって投げる。
「お、おのれぃ!」
 フレドが近くにあった鳥の石像に手をかざすと、石で出来た鳥の羽が大きく開き、舞い上がる。
「ねぇ、小次郎? あの鳥の像ってお値段高い?」
「いいえ、そうは思いません」
 小次郎の言葉を聞くなり、ルクセンがアーミーショットガンで鳥の石像を破壊する。
「やりますね……ハッ!? ルクセン殿! 右ィ!」
「え?」
 【則天去私】がルクセンを襲う。
「きゃぁぁッ!!」
「そこの悪者! よくもフレドさんの商売の邪魔を……って、ルクセン!?」
「イタタタ……え!? 郁乃、それに桃花も……あんた達、どうして?」
 同じ蒼空学園の生徒であるルクセン、郁乃、桃花が見つめ合う。

 小次郎に尋問されたフレドは、全てを語った。
 美術商であるフレドは、代々石像を売る商売を続けてきたが、ある日偶然にも彼以外には解除不能の禁呪を手にしてしまい、石化させた少女達の石像の売買の隠れ蓑として、ギリシャで石像を動かして故意に暴走させていた、と言うのだ。
 そして、シチリア島のマフィア達は、実は警護等でなくて重要な取引先であった事。
 妻や娘を石像にすれば、亡くなったと勘違いした実の夫や恋人、家族等が『偶然、そっくりなものを見つけた』と買っていく事等を涙ながらに話した。
「もう、イタリアもギリシャも不景気すぎて、私の知り合いの美術商はみんな次々と廃業していきました……私はそうはなりたくなかっただけです!」
 嗚咽を漏らすフレドを見て。小次郎もルクセンも、郁乃ですら何も言えなかった。寧ろ、復活した雅羅と共にフレドを懲らしめに来た生徒たちをなだめた程である。
 この後、フレドはギリシャに連れて来られる前に雅羅の石化の術をまず解いた。
 尚、同時に中止に追い込まれたネロ祭は、「余の国で祭りを開いて何が悪い!」と最後まで抵抗したネロのだったが、幽那に引きずられて退場していったと言う。
 
× × ×


 フレドは皆に謝りつつ、次々と石像達の呪いを解いていく。
「あれ、さっき俺がナニを折った石像も動いてる……」
 変熊はすかさずナニをもってフレドが元に戻す前の石像に話かける。
「あ〜、すまん、すまん。折れたのを絆創膏でくっつけて……これでよしっ!」
「よくないと思います」
 ミシェルに言われ、変熊は折れたナニを石像の掌に載せてやった。
 そこで変熊が「あ!」と叫び、恐る恐る振り返る。
「このナウディ像涙流して超リアル……って本人?」
「ええ、本人よ。ナウディ、あなたにすっごく怒ってるんだけど、その意味わかるわよねぇ……」
 フレドによって解呪されたものの、背後にドス黒いオーラを抱えたナウディが変熊に近づく。
 その背後には、やはり変熊にナニを折られた巨人が憤怒の表情で、彼を見下ろしている。
「誰か助けて〜!」
「ちょっと!? ナウディ関係ないじゃない! 離してよ!!」
「ナウディ、雪女なんだろ? 氷術であいつら滑らせるとかできないの〜?」
 ナウディを抱えて逃げる変熊が尋ねると、ナウディは「そうね」と短く言った後、変熊の股間めがけて氷術を放つ。
「OH!! エクストラコールドォォォォ!!」
「仕返しナウ」
 一方……。
「簡易三脚を付けてっと……セルフタイマーで……よし」
 柚の提案で、事件解決の記念に、今回一緒に鎮圧したメンバー達と石像とで記念撮影を行う事になった一同。
―――ジジジ……。
「柚ー! 早く早くぅ!!」
 三月に呼ばれた柚が駆け足で皆の元へ戻る。
「海くん、隣いいでしょうか?」
「ああ……」
 照れた顔をした柚が背後に立つ石像達に笑いかける。
「石像さんも笑ってくださいね?」
 柚の言葉に、石像達がぎこちなく笑顔を浮かべる。
「(観光で柚と海の関係が進展するように協力するはずだったけど、戦いを通してってことに変更だね)」
「はい、チーズ!!」
 三月がそう思っていると、カメラのシャッターがセルフタイマーによってきられるのだった。
 尚、この写真はメンバー全員に焼き増しして配られた。
 背後に映る、ナウディに追いかけられた変熊の一部にはモザイクがかかった事は当然として。
 刹姫達もまた、「『夜』の化身のベストポジション!」と自称した場所。すなわち、柚達の集合写真の左上に暦、グース、雪のバストアップショットと共に載るのであった。
 尚、ナウディに追われた変熊は、そのままパルテノン神殿から外に出ていき、ナチュラルに逮捕されたのだが、『今回だけは石像の件の恩赦として特別に見逃す』というギリシャ政府の配慮により、ムショ暮らしは免れた。
「なんだよ! 石化解除してやったんだから怒るなよ!」
「あの写真は何なのよ! 何てモノを持たせてくれたのよ!!」
 何だかんだで腐れ縁的に仲良くなっていきそうな気配が漂うナウディと変熊であった。