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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

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【ダークサイズ】戦場のティーパーティ

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2 『月への港』への道程

 ダークサイズの浮遊要塞『蒼空の城ラピュマル』は、ほぼ真北に進路を取りながら、安定速度に入る。
 ポータカラにある月への港から発射し、宇宙に至るまでは戦闘などトラブルは予想されないため、比較的順調な空の旅だが、参加者の多くはすでに諸々の準備に追われている。
 ラピュマルから上を見上げると、スピードテストや操作のウォーミングアップを兼ねて、早速イコンが数機、自由に並走している。
 洋は『ダイソウ親衛隊』らしく、みとに周囲の警戒を促しながら、ラピュマルを先導する形で少し前を飛ぶ。

「ん〜ん♪ 空気を切る音と突き上げるようなエンジンの震動。飛行については上々ってとこか」

 ヴェルデは操縦席に響く音に身を委ね、心地よさそうに目を閉じる。
 エリザロッテは後部で風の抵抗やら浮力をチェックしながら、

「順を追って試運転できるのはラッキーだったわね。宇宙では戦闘に集中できそう」

 と、機体を優しくなでる。

「うおーい、友よー!」

 ヴェルデ機に、突然ゲブーからの通信が入る。
 見るとゲブー機が接触せんばかりに近づいており、ゲブーが自分のモヒカンを指さしながら手を振る。
 同じくモヒカンであるヴェルデの目が光る。

「ほう、最近ろくなモヒカンがいねえからな。貴様はどうかな?」
「ピンクモヒカン兄貴の気合いをなめんなよーっ」

 ヴェルデの返事に、バーバーモヒカンが拳を上げてけん制。

「どっちが気合いの入ったモヒカンか、月への港まで勝負だぜ!」
「望むところよおおお!」

 ヴェルデ機とゲブー機が同時に急加速し、二機がモヒカンレースを始めて飛ばしていく。

「しかし驚きだよなぁ〜、ダークサイズが宇宙に行ける設備を持ってたとはよぉ〜」

 デカログス・スフィアの中で、ゲドー・ジャドウ(げどー・じゃどう)がつぶやく。
 毎回俺様の秘密ノート タンポポ(おれさまのひみつのーと・たんぽぽ)の閃きとわがままで、ダークサイズにはひどい目にあわされるわ、勝手に幹部名は与えられるわ、散々なゲドー。
 しかし彼は、ダークサイズがニルヴァーナに向かうと聞いて考えを変える。

「そういうことなら話は別だぜ。この際、ダークサイズに入って損はねえよな」
「ゲドー。ダークサイズとは、あなたの考えを変えてしまうほど、有望な秘密結社なのか?」

 後ろから、ダークサイズの事を詳しく知らないシメオン・カタストロフ(しめおん・かたすとろふ)が言う。

「だってさぁ、これから月に行くってことは、鏖殺寺院とヤリ合うってことだろ? ある程度以上の武力を持ってるってことだし、選定神もいるしなぁ。むしろ入った方が賢いってもんじゃん? 向日葵ちゃんがダークサイズ倒そうってやっきになってんのが、ようやく分かって来たぜ〜」
「ゲドー。ということは、ダークサイズが大きくなる前に潰そうと企んでいたその秋野向日葵は、鏖殺寺院からの刺客ということであろうか?」

 シメオンは情報がないからこそ考え得る飛躍したことを言うが、

「げっ、マジ!? すでに鏖殺寺院と戦ってたのかよ。これまたびっくりだぜぇ」

 と、ゲドーは真に受ける。

「……タンポポは退屈しやがってるです」

 二人乗りのイコンに、いつものわがままで、

「魔道書の状態で」

 という条件でゲドーの膝の上に居候していたタンポポ。
 じっとしているだけの操縦席と、ゲドーとシメオンのまじめな会話にすっかり飽きてしまったようだ。
 早くも人型に変化し、

「さあゲドー。操縦桿をよこしやがるです」

 と、ゲドーの手を払ってぐいぐいと乱暴な操縦を始める。

「わわわ! た、タンポポちゃん! マジで危ないってー!」
「よしゲドー。あの敵を攻撃しやがるです」
「ダメだって! ここにいんの全部味方だから!」
「必殺、墜落しやがれアタッーク」

 タンポポは、とりあえず近くにいた一機に体当たり。
 気分良く一人歌っていたサンダー明彦は、タンポポの不意打ちに

「♪俺の 俺の 俺の叫びを聞けえああああああ!

 装甲などの装備をしていないので、あっさりバランスを崩し、ラピュマルに墜落していく。

……

 タンポポはポンと魔道書に戻る。

「さあゲドー。パイロットとして後でちゃんと謝りやがるです」
「タンポポちゃあああああん!?」
「なるほど……確かにダークサイズとは、恐ろしい場所であるな……」

 シメオンは、たらりと流れる汗を、手の甲で拭った。


☆★☆★☆


 ラピュマルの甲板上では、重要な下ごしらえが行われている。
 宇宙に発射した以降は、ラピュマルは防弾と呼吸のため、アルテミスの魔法力でラピュマルがコーティングされることになる。
 アルテミスのバリアを切らさないよう、彼女に沢山の食事を提供し続けなければならない。
 アルテミスのご飯係を買って出た幹部たちは、早くも料理を開始し、いつでもアルテミスにご飯を差し出せるよう準備を整える。

「ふん♪ ふん♪ ふん♪」

 青空の下で鼻歌を歌いながら、自前の【調理器具】を並べているシシル・ファルメル(ししる・ふぁるめる)
 そんなシシルを見ながら、五月葉 終夏(さつきば・おりが)もついニコニコする。
 シシルは終夏を振り返っておたまをふりふり、

「師匠、師匠! アルテミスさんは、どんな料理が好きなんでしょうね! やっぱりエリュシオンの郷土料理なんでしょうか?」
「うーん、そうかもしれないけど、やっぱり料理は『心』だよね」
「ですよね! 僕、ごはんと肉じゃがにしようと思うんです。栄養もあって腹もちもいいし、量もたくさん作れます」
「おふくろの味ってやつだね。アルテミスさんは食べたことないかもしれないから、新鮮だね」
「ふふふふ!」

 終夏のお墨付きをもらったシシルは、嬉しそうに準備を再開する。

「では、食後のデザートは和のスイーツで決まりだね。ドラ焼きの材料を持ってきて良かった」

 ガレット・シュガーホープ(がれっと・しゅがーほーぷ)も、腕をまくって生地の作成に余念がない。
 ガレットはやかんを終夏に渡し、

「そうだ、終夏。お湯を沸かしてくれ」
「あ、はいはい」

 終夏はやかんを下に置き、【火術】で温める。
 そこに、様子見でぶらぶらしていた弥涼 総司(いすず・そうじ)が通りかかる。

「おー、精が出るねぇ。どれどれ」

 総司はガレットの生地を指ですくって舐める。

「悪くねえな」
「ちょっと、指を入れないでよ! それにまだ生だし」
「いいじゃねえか。減るもんじゃねえし」
「いや、減るよ!」

 ガレットの注意を気にも留めず、総司が指をくわえたままふと見ると、向こうでは夜薙 綾香(やなぎ・あやか)アンリ・マユ(あんり・まゆ)が、ダイソウや超人ハッチャン、クマチャンに何やら説明しているのが見える。

「見ろダイソウトウ! 約束通りイコンを用意してきたぞ。これがダークサイズ用イコン、略してDSIだ!」

 綾香が覆っていた布を取り払うと、顔だけはやたらダイソウそっくりに作りこんでいるにもかかわらず、装甲が無くフレームむきだし、申し訳程度に軍用ポンチョのような布を被ったイコン機体が。

「……これは一体……」

 お世辞にもカッコイイデザインとはいえない機体に、戸惑うダイソウ達。
 綾香は咳払いを一つして、

「仕方なかろう。まさかこんなに早くニルヴァーナ行きに動くとは思わなんだからな。だが心配するな。装甲以外の機能はほぼ完成しておる」
「いや、俺達、イコンは初心者だから防御を優先欲しかったけど……」

 クマチャンが心配そうにDSIを眺めるが、綾香は指をピッと出して制する。

「大丈夫だ。そのおかげで量産化に成功したからな。試作機を10体ほど用意した」
「いや、装甲は……」
「ちっちっち。おぬしはイコン初心者だから分からぬか。装甲など! 飾りだ!」

 綾香は自信満々に胸を張る。
 クマチャンは顔を少し青くして、

「……俺、今回でホントに死ぬかもしんない」
「そんなクマチャンに格言を授けよう。『当たらなければ、どうということはない』」
「……」

 綾香はクマチャンの肩に手を置き、無理やり黙らせる。

「ところで、こちらのイコンは形状が少し異なるようだが?」

 ダイソウが、他と違う形をしたイコンに手を置く。
 アンリがダイソウに近づき、

「こちらはDSIの中でもダイソウトウ専用イコンですわ」
「その名も、『DSI−LL』だ」

 綾香がDSI−LLを軽く叩きながら言う。
 アンリはさらに機体のアームを指し、

「LLのスペックは、両手がDSビームサーベルとなっていますの。出力を落とせば、DSチョップも可能ですわ。右手にはアタッチメントでドリルパンチも装着可能」

 続いて機体の股間にあたる部分を撫で、

「これは魔道エネルギー砲『ダイソウトウキャノン』。あなたらしい必殺兵器となること請け合いですわ。ポンチョは防御膜になりますし、頭部にはスピーカーを完備してありますから、機内からの演説もお好きなように」

 加えて、魔術強化した機晶炉やら、異世界からの召喚エネルギーを利用した高出力バリアやら、機能充実のようだが、ダイソウも今の段階ではさすがにそんな難しい部分はよく分からない。
 とにかくまずは動かせるかどうかだということで、ダイソウは試しにDSI−LLに乗り込む。

「なるほど、イコンとはこのような仕組みになっているのか」

 ダイソウは物珍しそうにコックピットを見渡す。

「では歩いてみるぞ。離れるのだ」

 と、ダイソウが操作すると、いきなり『ダイソウトウキャノン』が轟音と共に発射。
 エネルギー砲がDSIの一機に直撃して、大破してしまう。

「……おや?」
「こらー! いきなり壊すでない! そうではない。手足の操作はこっちだ!」

 大事な量産型を試運転もせずに壊され、怒りながら顔が青くなる綾香。
 綾香の注意を受けながら、ダイソウは操作に奮闘するものの、次はサーベルでDSIの別の一機を串刺しに。
 さらに倒れざまにエルボーで一機、立ち上がりながら捻りを加えた関節技で一機と、次々にDSIを破壊していく。

「何をしておるのだーっ!!」
「何故普通に歩けぬのだ……」
「仕方ない。レヴァンティで止める!」
「えっ、でもあれは……」
「私も嫌だがダイソウトウがあれではどうにもならん」

 アンリが止めるのを振り切り、綾香は自分のイコンに駆け寄る。
 そして肝心の綾香のイコンだが、これまた彼女の余計な改造のため、何故かコックピットには触手が何本もうねっている。
 シートを開くやいなや、触手が綾香に飛びかかり、彼女の足首を掴んで逆さまに吊りあげる。

「こ、こらやめい! 今はそんな場合では……」

 スカートを押さえながら注意する綾香などおかまいなしに、触手は彼女をくるぶしからふくらはぎ、ふともも、腰、胸元へとぬるぬると巻き上げ、微妙に脈打ったりしながら口に侵入したりする。

「ああっ、くっ……悔しい、でも、感じ……いや違う!」

 そんな綾香の一人遊びとダイソウの七転八倒を見ながら、

「それにしても、誤算でしたわね。肝心のパイロットがあんなに下手だとは……」

 と、アンリは冷静な分析をし、

「久しぶりにいいもん見れたぜ」

 と、総司は綾香の様子を見ながら、一人満足そうな顔をしていた。