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四季の彩り・雪消月~せいんとばれんたいん~

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 第11章 代王のバレンタイン1 〜むきプリ君を目撃せり〜

 空京にあるとある高級ホテル。その高層階で、バレンタインパーティーは開かれていた。既に多くの来場者が集まり、居並ぶ料理に舌鼓を打っていた。
 このパーティーを企画したムッキー・プリンプト(以下むきプリ君)は、お客様を迎えようと、そしてお客様から友チョコ及びお礼チョコ及び義理チョコを貰おうと女装している。その姿はかなり異質であり、出来ればお近づきになりたくない。
 故に、参加費は主にパートナーの少年、プリム・リリムに集まった。今、食事を楽しんでいる人々は皆、そうやってむきプリ君をクリアした。
 それは、酒杜 陽一(さかもり・よういち)も例外ではなく。
「はぁい、来場ありがとう! 参加費はアタシに持って来てね!」
 とか裏声で呼びかけているむきプリ君に対し、当然のようにスルーを選ぶ。
(……なんか女装してるゴツい男の人がおる……。恐いから見なかった事にしとこ……)
 一緒に来た高根沢 理子(たかねざわ・りこ)も、筋肉女装裏声男をびっくりして見ていた。
「なんかあの人、すごいですね」
 プリムは皆に「参加費はこっちでもいいよ!」と声を掛けていた。その彼に、陽一と理子は歩み寄って参加費を渡した。
「はい、2人で合計2000Gね。……って、ええっ!?」
 理子達を前にし、彼は驚きを隠し切れなかった。帽子を被ってラフな服装で来ていても、間近で見れば相手が理子だとは判る。ただ、どちらがどちらか判らない。陽一は、影武者になるために自身を理子と同じ容姿に整形しているのだ。
「「どうかした?」」
「あ、ううん……、ゆっくりしていってね」
 陽一と理子が同時に言うと、驚いた顔のまま、プリムはそうして2人を通す。
「先生、あの子、びっくりしてましたね」
「ええ。まあ、ああも言われたことですしゆっくりしましょう」
「はい! うわあー、どれもこれも、美味しそう!」
 会場に入ると、陽一と理子は全くといっていいほど正体に気付かれなかった。多少変装していたというのもあるし、気にしないようにしていても筋肉女装男の方に視線が行ってしまう、というのもある。もしくは、空気を読んだか。
 2人で、これがいいあれがいいと話しながら料理を選ぶ。お皿にたくさん乗った料理を食事用のテーブルに置くと、陽一はグラスに入ったノンアルコール飲料を理子に渡した。
「どうぞ、理子さん」
「ありがとうございます! ……あれ? 先生、呼び方……」
「せっかく気付かれていないようですし、『様』と呼んだところを聞かれてバレないようにですよ。だから、少しご無礼なこともあるかもしれませんが……」
「そ、そんな、とんでもないです!」
 ぶんぶんぶんっ、と手を振って、理子は嬉しそうに料理を食べ始める。彼女を『理子さん』と呼ぶのはあの紅白歌合戦以来だ。
「この料理やお菓は食べ放題らしいですから、味わっていきましょうね」
「ほんと、これが食べ放題なんて、信じられないわ」
 テーブルを挟み、他愛のない世間話や雑談に花を咲かせる。しばらくして、最初に取った分が空になり、理子はまた料理を取りに行った。
 周囲を気にせず、彼女はパーティーをのびのびと楽しんでいた。その笑顔を見ていると、陽一も自然と笑顔になる。
 大変な事件が続く昨今だからこそ、こういったリラクゼーションの機会はできるだけ作りたい。
 彼は、そう思っていた。

「あー、もう食べられない!」
「時間一杯楽しめましたか?」
「はい、それはもう!」
 バレンタインとはいえ、代王である理子の外出には時間制限がある。好きなだけ自由外出させてあげたいが、彼女の安全の為には仕方がない。他にも約束があるということで、ちょっと早めにホテルを出た。夜にはまだ、時間がある。
「理子様」
 帰路の途中にそう声を掛けると、先を歩いていた理子が振り返る。心なしか笑顔に曇りが見えた気がしたが、きっと、光の加減だろう。
「何ですか? 先生」
「これを。今日は、バレンタインですから。逆チョコというやつです」
 差し出したのは、手作りのチョコレート。作った、とは言わないし、本命かどうかにも、触れない。前に告白した時、思い切り謝られてしまったし。
 勿論、気持ちは本命だけれど。
「先生……」
 驚きに目を見開いて。それでも、全く予測していなかったわけでもないらしく、理子はそれを受け取った。
「ありがとうございます。チョコも……今日も、誘ってくれて」
 雲が流れ、太陽がまた顔を出す。理子はいつものように、笑っていた。