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シャンバラ一武闘大会

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シャンバラ一武闘大会
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リアクション

 

第一回戦第一試合

 
 
『さあ、いよいよ始まります、第一回シャンバラ武闘大会。本日は、総合司会、わたくしシャレード・ムーン、解説に湯上凶司さん、アシスタントにセラフ・ネフィリムさん、リングレポーターにエクス・ネフィリムさんとディミーア・ネフィリムさんでお送りいたします』
 会場に、シャレード・ムーンの声が響き渡った。
『第一回戦、第一試合、緋桜 遙遠(ひざくら・ようえん)選手対、ドクター・ハデス(どくたー・はです)選手です!』
 シャレード・ムーンに呼ばれて、武舞台の左右から両選手があがってきた。
「クハハハ、余の名は、悪の秘密結社オリュンポスの大首領、魔王クロノス! 我らオリュンポスの力を示すため、この武闘会で優勝させてもらう!」
『おおっと、ドクター・ハデス選手、魔鎧アルテミス・カリスト(あるてみす・かりすと)さんを纏って、いかにも悪の首領っぽい登場です』
「来い、聖剣勇者 カリバーン(せいけんゆうしゃ・かりばーん)よ!」
 ドクター・ハデスが、聖剣勇者カリバーンを呼んだ。
「えっ、聞いてない……。くっ……お、おのれ、ドクター・ハデス……いや、魔王クロノス! 勇者のための聖剣である、この俺を使おうというのかっ!」
 必死に抵抗しようとするが、体内に取りつけられている装置のために拒否できない。聖剣勇者カリバーンが、自らの身体に装着する形で光条兵器を展開すると、巨大な剣となってドクター・ハデスの手に引き寄せられていった。
『ドクター・ハデス選手、左右に戦闘員まで揃えています。さすがです、小芝居に手は抜きません。彼が魂を込めて守る物は、鎧に胸に貼りつけられた秘密結社オリュンポスのエンブレムです。それでは、リングサイドのエクスさん、セコンドのインタビューをお願いします』
『はい、こちら、ドクター・ハデスサイドなんだもん。セコンドの人にちょっと聞いてみるね。ずいぶん派手な登場だけど、悪の首領だとすぐ負けちゃうんじゃないのかな?』
『あれでも、当初の予定よりは地味なんですよ。最初は、僕その物を元のハンドヘルドコンピュータに戻して、四身一体、いや、戦闘員入れたら六人ですか、それで堂々と卑怯に勝つつもりだったんですから。でも無理です。魔道書は、いったん人の姿になったら元には戻れませんから、丁重にお断りしました。でも、結局僕の本体を身につけてでちゃったんですよね。なんとか、僕の本体だけでも無事に帰ってきてほしいんですか……』
 エクス・ネフィリムにマイクをむけられて、天樹 十六凪(あまぎ・いざなぎ)がちょっと照れながら答えた。
『はあ、無事をお祈りしますんだもん。以上ですー』
『はい、マイク返ってきました。対するは緋桜遙遠選手、胸に青薔薇を飾っての登場です。おや、何やらプロモパネルがあるそうです。御覧いただきましょう。――さあ、これは、雰囲気ではドクター・ハデス不利か。自ら死亡フラグを立てているようにも見えます。さあ、今、試合開始のゴングが鳴りました!』
「ゆけ、親衛隊よ!」
「イー!!」
『ドクター・ハデス選手の命令で、戦闘員が緋桜遙遠選手に突っ込んでいきます。全身タイツが赤ですので、親衛隊かと思われます。それに対して、緋桜遙遠選手、わずかに右に回り込むと、魔法詠唱に入りました』
「とりあえずは、小手調べと行きますか。纏めて吹き飛ばしてあげましょう」
 むかってくる戦闘員ごと、ドクター・ハデスにむかって、緋桜遙遠がブリザードを放った。
「――ハデスくん、敵の攻撃が左手方向から来ます」
「うむ、こちらか」
 すぐさま注意をうながした天樹十六凪の声に反応して、ドクター・ハデスが左をむいた。
「――ああっ、どうしてそっちをむきますか!!」
 武舞台の外で天樹十六凪が叫んだがもう遅い。緋桜遙遠のブリザードに巻き込まれた戦闘員たちが半分凍りついて吹っ飛んでくる。
『ハデス様……じゃなかった、魔王クロノス様の身体には、傷一つつけさせません!』
 魔鎧状態のアルテミス・カリストが叫んだ。その言葉どおりに、吹っ飛んできた戦闘員たちをその装甲で受けとめ跳ね返す。
「うぎいー!」
 ドクター・ハデスにぶちあたった戦闘員たちが、ドサリとその場に落ちた。ドクター・ハデスはびくともしない。
 だが、断末魔に戦闘員がのばした手が、ドクター・ハデスの胸に貼りつけられていたエンブレムをつかんでしまった。
 ビリビリビリー。
 エンブレムが引き千切られる。
『勝負ありました。緋桜遙遠選手の勝利です!』
 シャレード・ムーンが、高らかに勝者の名を呼んだ。
「ば、馬鹿な! 余はまだ戦え……」
 敗北を認めずになおも戦おうとしたドクター・ハデスの足許に、パカンと穴が開いた。そのまま奈落の底に落ちて姿を消す。
「あれ? これで終わってしまいましたか。やはり、悪の栄えた試しはないのですね」
 ちょっと拍子抜けしたように、緋桜遙遠が肩をすくめた。
「みごとです。これで、少しはオリュンポスの知名度も上がったことでしょう。目的は達成しました。後は安らかにお眠りください。三幹部亡き後は、この僕がオリュンポスを引き継ぎましょう……。あっ、痛……。ほ、本体を叩かないでください。今、お迎えにあがりますったら!」
 突然頭をかかえだしたかと思うと、天樹十六凪が武舞台下の奈落の底にドクター・ハデスたちを迎えに走った。
 
 
第二試合

 
 
『第二試合、硯 爽麻(すずり・そうま)選手です』
「えっ、もう出番なの?」
 武舞台そばでお菓子とかき氷をシャクシャクと食べていた硯爽麻が顔をあげた。浴衣を着たおこちゃまが、あわててちょこちょこうんしょうんしょと武舞台によじ登ってくる。
『えーっと、大丈夫なんでしょうか。首に巻いたチョーカーがエンブレムだそうです。さて、対するは、結城 奈津(ゆうき・なつ)選手です!』
 シャレード・ムーンが名前を呼ぶが、結城奈津の姿がどこにも見えない。
『これは、棄権でしょうか』
 シャレード・ムーンが、湯上凶司にコメントを求める。
『命をかけた戦いですから、逃げだす者がいても不思議ではないですね』
『怖いですものねー』
 セラフ・ネフィリムが相づちを打った。
「ちょっと待ったあ!」
 場内放送に、客席から待ったがかかる。そこへ、強いスポットライトがあたった。
「あたしなら、さっきからいるぜ、ここにな! とうっ!!」
 観客席からロケットブーツを使って、謎の覆面女性レスラーが飛び出した。
「待たせたなあ、みんなー! 覆面プロレスラー『バーニングドラゴン』結城奈津、来たぜー!!」
 肩からむきだしの腕を高く掲げて、結城奈津が客席にアピールした。
「さて、あたしの相手はと……。えっ、ほんとにこいつとやるのか!?」
 まだ口の端にお菓子の破片などをくっつけたままの硯爽麻を指さして、結城奈津がちょっと困った顔になった。いくらなんでも、子供相手に本気を出すのは……。
「そんなこと言ってると、大変なんだよ……」
 ポソリと、硯爽麻がつぶやいた。
『さあ、試合開始のゴングが鳴ります!』
「先手必勝!」
『結城奈津選手、ロケットブーツで再び飛びあがりました。高高度からのドロップキックで、硯爽麻選手を一気に倒すつもりです。あっ、申し遅れましたが、結城奈津選手のエンブレムは、覆面レスラーの命、マスクとなっております。さあ、硯爽麻選手どうす……えっ、えっ!?』
 会場全体が、次の瞬間ざわめいた。
「砕牙……」
 そうつぶやいたとたん、硯爽麻の身体が1.5倍ほどに大きくなり、ナイスバディな大人の女性になる。鬼神力と超感覚だ。浴衣の帯が解けると、その下からは動きやすいように大きくスリットが入った巫女装束が現れ、浴衣はマントふうに大きく広がった。その裳裾からは金色の九尾が大きく袴を持ちあげて後ろに広がり、頭には細い狐耳が現れていた。
「ぬるいんだよ!」
 手に構えた大刀「匁」の柄で、結城奈津のキックを受けとめると、硯爽麻がそのまま弾き飛ばした。ふわりと、羽織っていた浴衣とつけ袖が翻り、大きく開いた白衣の脇からあばらのあたりが顕わになる。
「さあ、エロに縛られるんだよ」
 その言葉と共に、その身を蝕む妄執が結城奈津に触手の幻覚が襲いかかってその身を縛りあげた。
「やったね。リングにロープがなくて物足りなかったんだよ。うおおおー、燃えるぜ!」
 逆に闘志に火がついたと、結城奈津が身体に巻きついた触手を胸を張って吹き飛ばした。
「おおーっ」
 観客からは、何かよくは分からないが、結城奈津が下乳も顕わな胸を張って強調したように見えたので、一部から歓声があがった。
「隙あり!」
 硯爽麻が、ちょっと胸元をはだけさせながら懐から拳銃を取り出した。同時に、結城奈津が、ヴォルテックファイアを放ち、続いてバイタルオーラを放つ。炎の渦を貫いてまとわりつかせながら、光弾が硯爽麻の放った銃弾とすれ違って爆発した。
 その光に、硯爽麻が一瞬目を細める。そこに、上から影が差した。
 攻撃と同時に上空にジャンプしていた結城奈津が、グローブに爆炎波をまとわりつかせて拳を突き下ろしてきたのだ。
「同じことを!」
 今度は、匁に氷を纏わせて、硯爽麻が迎え撃った。
 炎と氷がぶつかり合い、激しい水蒸気が巻き上がる。
「つかんだ!?」
 硯爽麻が信じられないと目を丸くした。超人の肉体とサイコキネシスを総動員して、結城奈津が匁の刀身を両手でしっかりと挟み込んでいた。その結城奈津の姿が、ふっと沈み込むようにして視界から消える。
 蹴りあげた足が、硯爽麻のチョーカーをかすめ、綺麗に切断していた。
「だー!!」
 ほとんど逆立ちするような体勢でキックを放った結城奈津が、倒れ込んだ床から素早く立ちあがると、両手を突きあげて観客に勝利をアピールした。
『第二試合、勝者、結城奈津選手です』