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新ジェイダス杯第1回

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新ジェイダス杯第1回

リアクション

 
 

大会前

 
 
「すみません、お湯をわけていただけませんでしょうか」
 本郷 翔(ほんごう・かける)が、葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)のバイトしている屋台にやってきて言った。
「お湯ですか? いいですよ」
「ありがとうございます」
 葛城吹雪に礼を言うと、本郷翔が、持参したティーセットでお茶を作っていく。ほんわりと、甘酸っぱい薔薇の香りが周囲に広がった。
「わあ、いい匂いだわ」
 コルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)が、ちょっと目を輝かせてのぞき込んだ。
「ローズヒップティーでございます」
 ポットにキルトのカバーを被せながら葛城吹雪が答えた。
「また後でうかがってもよろしいでしょうか」
「もちろんよ。でも、そのときは、ワタシたちにもお茶をもらえるかな?」
「喜んで」
 ニッコリとコルセア・レキシントンに微笑むと、葛城吹雪は屋台から離れていった。タイミングを計りながら、ちょっと足早に、放送席の方へと急ぐ。
 
    ★    ★    ★
 
「そう言うとこで、レスキューの方はお願いしますね」
 放送席では、シャレード・ムーン(しゃれーど・むーん)が、各部所に最終確認を取っていた。
「了解した。サビク、海図を渡すぞ。目を通しておいてくれ」
 ガネットタイプのオルタナティヴ13/Gのコックピットの中で、シリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)サビク・オルタナティヴ(さびく・おるたなてぃぶ)に言った。
「ええっと、これは……」
 海京の周囲をぐるりと一周する形で配置されたコースの立体図を見て、シリウス・バイナリスタがちょっと唸った。
 一見すると巨大なトラックにも見えるが、スタート地点を起点として、ちょうど四分割されたポイントに何やらいろいろと注意事項が書き込まれている。
 スタート直後は、水面に浮かんだブイの上に載せられたジェイダス人形を確保する地点らしい。まあ、仮にもジェイダス杯であるのだから、ジェイダス人形はなくてはならないだろう。
 次の地点は、水中機雷と空中機雷のマーカーが表示されている。威力は小さそうだが、小型飛空艇などではそうも言ってられないだろう。それに、何やら愛の爆弾、ラブボムなどと注釈があるのが実に妖しい。
 その次は、愛の嵐ときたものだ。どうやら、水中と空中にしかけがあって、渦と竜巻を作りだしているらしい。
 最後は、パラミタから連れてきた巨大生物が放たれているらしい。後でスタッフが美味しくいただくのだろうか……。
「これは……、ガネットが必要なはずか……。面倒だなあ」
 思わず、シリウス・バイナリスタが溜め息をついた。
「面倒って言ったって、いくら君が捜してきたバイトでも、操縦するのはボクなんだよ」
「はいはい。バイト代はきっちり半分こにするから。まあ、頑張ろう」
 シリウス・バイナリスタの返事に、半分じゃ割に合わないなあと言う顔で、サビク・オルタナティヴがちょっと頬をふくらませて見せた。
 
    ★    ★    ★
 
「で、あなたたちは、インタビューと応援ね。レースクイーンとして、花を添えるのよ、花を」
 シャレード・ムーンが、現地で調達した綾原 さゆみ(あやはら・さゆみ)アデリーヌ・シャントルイユ(あでりーぬ・しゃんとるいゆ)に言った。
「はい。頑張ります」
 ホルターネック型で胸の部分がクロスして下に繋がったハイレグワンピースを着た綾原さゆみとアデリーヌ・シャントルイユが答えた。
 コスプレイヤーとしては、こういう衣装に燃える、いや、萌える綾原さゆみだったが、いきなり予定もなしでつきあわされたアデリーヌ・シャントルイユの方はちょっと恥ずかしそうだった。だいたい、なんで支給される水着がこんなデザインなのだろう。だが、一緒にいて綾原さゆみを見ていないと、いつ暴走するか気が気ではないので、結局つきあうはめになっている。
「それで、ジェイダス様は、スタートの合図と解説をお願いいたします」
「うむ」
 進行表にさっと目を通した後、シャレード・ムーンが横に座っているジェイダス・観世院(じぇいだす・かんぜいん)に言った。
「お茶でございます」
 そこへ、タイミングよく本郷翔がお茶をサービスした。
 軽く微笑んで返事とすると、ジェイダス・観世院がさも当然というふうにティーカップを唇へと運んだ。彼が何ごともなく差し出された飲み物を飲むことが、すでに最大の賛辞である。それを知る本郷翔が、陰でちょっと頬を染めた。
 
    ★    ★    ★
 
「ちゃんとお兄ちゃんからもメールが来てるよ、頑張ってね、おねーちゃん」
 ノーン・クリスタリア(のーん・くりすたりあ)が、御神楽 陽太(みかぐら・ようた)からの『今回も応援しています、頑張ってください!』というメールが表示された携帯をエリシア・ボック(えりしあ・ぼっく)に見せて言った。
「任せておきなさい。わたくしは、勝負ごとには全力で挑む主義ですわ!」
 そう力強く言うと、エリシア・ボックがスタート地点へと移動していった。
「さあて、おねーちゃんは行っちゃったから……、お菓子食べるよー」
 さっと気分を切り替えたノーン・クリスタリアが、葛城吹雪の屋台へとやってきた。そこにはすでに先客としてルファン・グルーガ(るふぁん・ぐるーが)たちが長椅子に座って会場広場中央にある円筒形の立体スクリーンを見あげていた。レースの状況は、刻一刻このスクリーンに表示される。
「ここあいてます?」
「おお、あいてるぜ!」
 聞かれて、隣の席を差してウォーレン・シュトロン(うぉーれん・しゅとろん)が言った。頭にはお土産物のジェイダス様お面を斜に被り、手にはプラスチック製のメガホン、テーブルの上には大会パンフレットと屋台から買ったホップコーンのバケットと、もう準備万端である。
「はーい、ジェイダス様ケーキセットおまちどおさまでーす」
 葛城吹雪が、ノーン・クリスタリアの注文を運んでくる。ケーキの上に、昔のジェイダス様のマジパン人形と、極彩色の綿飴で背後のふわもこを再現した意味もなく豪華なスイーツだ。
「おっ、スクリーンが映った。そろそろ始まるぜ」
 巨大スクリーンに映し出されたシャレード・ムーンの姿を見て、ウォーレン・シュトロンが興奮を新たにする。
「ちっくしょう、俺もあそこに座って、ジェイダス様の横で解説したかったぜ」
「これこれ、そんなことを言うと、ジェイダス様のファンに怒られてしまうぞ」
 ルファン・グルーガが、少し抑えなさいとウォーレン・シュトロンに釘を刺した。
「そうだよ。レオは少し静かにしててよね。ねえ、ダーリン♪」
 まったく邪魔者だと言いたげにウォーレン・シュトロンを軽く睨みつけてから、イリア・ヘラー(いりあ・へらー)がルファン・グルーガの腕にしがみついてスリスリした。
 レース観戦を口実にしてルファン・グルーガとのデートと意気込んできたというのに、ウォーレン・シュトロンがついてきてしまったのはとんだ計算外だ。
 レースのルールとか、詳しいことはよく知らないので、ウォーレン・シュトロンほど熱狂することもできない。それでも、ルファン・グルーガにべったりできるのは、イリア・ヘラーにとっては最高だった。ジェイダス様様々である。