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自然公園に行きませんか?

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13


 久しぶりにゆっくりできる時間が取れた。
 なのでまず、エメ・シェンノート(えめ・しぇんのーと)片倉 蒼(かたくら・そう)に休暇を言い渡した。それから瀬島 壮太(せじま・そうた)に声をかけ、みんなで一緒に遊びに行こうと誘った。
 向かった先は、空京にある自然公園。何やらそこで、美味しいケーキを出すお店が一日限定でオープンカフェを開いていると聞いて。
「あれ?」
 と声が上がったのは、カフェを探している最中。声の主を探すと、紺侍がいた。ウェイターの格好をして立っていた。
「こんにちは、紺侍君。バイトですか?」
「はィな。オープンカフェでウェイターを」
「ああ、やっぱり。今ね、そちらへ向かおうとしていたところだったんです。よければ案内していただけませんか?」
「もちろん喜んで」
 紺侍の案内に続いて、カフェまで向かう。少し歩くと甘い香りが強くなり、かすかなざわめき。それから、テーブル席が見えてきた。
「木陰の濃い部分の席空いてる?」
 歩きながら、壮太が紺侍に問いかけた。「えっと」と紺侍が目を凝らすようにしてカフェを見る。
「空いてました。そこにします?」
「頼んだ」
「あァあと。五名様っスから、別々に座っていただくことになるんスけど、それでも構いませんか?」
「むしろそっちのが好都合だよな」
「そうかもしれないですね」
 壮太が悪戯っぽく笑って、後方、仲良く並んで歩いている蒼とミミ・マリー(みみ・まりー)を見たのでエメも頷いた。あの二人は、二人だけにしてあげたい。
 席に座り、持ってきてくれたメニューからオーダーを済ませ。
「壮太くん、まずは大学進学、おめでとうございます」
 エメは、穏やかに微笑みかけた。
「サンキュ。なんとかなるもんだな」
 暢気な様子でそう言うものだから、「なってくれてよかったです」と呟いた。
「それと……成人おめでとう」
 プレゼントです、と用意しておいた箱を渡す。白い包装紙に、真紅のリボンがかかった箱だ。
「ありがとな。開けてもいいか?」
「どうぞ」
 リボンを解き、包装紙をはがし。
 贈った、壮太の生年がヴィンテージのワインと、バカラ調のワイングラス二つのセットが出てきた。
「酒」
「これで一緒にお酒が飲めますね」
 微笑みかけると、思うところがあったのだろう。感慨深げに目を細め、再び「ありがとな」と礼を言われた。
「どういたしまして」
「せっかくだからこれ、あんたの家で飲んでもいいか?」
「構いませんよ」
「飲んだ後に帰るのめんどくせえから泊まってっていいだろ?」
「もちろん」
 こんなに早く一緒に飲める日がくるなんて。
 楽しい夜になりそうだ。
 少し浮かれた気持ちでいたところに、「お待たせしました」と紺侍の声。
「よければ紺侍君もどうぞ?」
「へ? 何の話?」
「お泊りの話です」
「やァ、お邪魔しちゃいけないっしょ。あとオレ、未成年ですし」
「それは残念」
「オレの一個下だよな? んじゃ来年か」
「いやホント。お誘いありがたいんスけど、オレ酒はちょっと」
「つれねえ」
「オレを釣りたかったら子供が好きそうなもので釣ってください」
 笑い、紺侍がエメの前にオーダーした品を置く。
「甘いもんとかでつれる?」
 と、壮太が言った。
「余裕スね」
「威張んな」
「ひでェ」
 二人のやり取りを見ていて、ふと思った。
「甘いものが好きなら、この間壮太君にあげたあれ。紺侍君にあげたら喜びますかね」
 薔薇の形のホローチョコの、中にコーヒーを入れたもの。
「あれな。喜ぶと思うぜ。あんたの作るもんは全部美味いし」
「そうですか。では、機会があれば持ってきましょう」
 にこり、微笑みかけると「あざっす」と笑いかけられた。それから、「ごゆっくりどうぞ」と言い残して紺侍は仕事に戻っていく。
 その背姿を見送ってから、エメは呟いた。
「それにしても……月日の流れるのは早いものですね」
「だよな。会ったのいつだっけ。二年以上前? 三年近く?」
「それくらいになりますね。……本当に早い」
 つい、しみじみと感じ入ってしまうほどに。
「ねえ、壮太君。これからもよろしくお願いしますね」
 なんて、改まって言うのも変な話かもしれないけれど。
 大切な友人に、きちんと伝えておきたかったから。
「おう」
 はにかみ、壮太が首肯した。
 嬉しくなって、エメも笑った。


 エメと壮太が、傍から見たら過剰なほど仲良しな様を曝け出している最中。
 リュミエール・ミエル(りゅみえーる・みえる)は紺侍にちょっかいをかけようと思った。
 ――なんか、ちょっと面白そう。
 先の、壮太とのやり取りが。
「お待たせしま、」
「あの二人、気になる?」
 リュミエールの分のケーキと紅茶を運んできた紺侍に、そっと耳打ちしてみる。
「あー。仲良いっスよね」
「パラミタへ来た頃からの長い付き合いらしいよ」
「チョコのこともご存知で?」
「チョコ? バレンタインにエメが手作りを渡してたかな」
 本当、仲良しさんなんスね、と紺侍が二人を見て言った。
「ねぇ」
「はい?」
「今晩壮太君はエメと飲むみたいだし……僕と一晩過ごさない?」
「は、え?」
 そっと、腕に触れてみる。細そうに見えたが、しっかりと筋肉がついた腕をしていた。
「君、凄そうだよね……優しくしてね?」
 言うと同時くらいに。
 紺侍のもう片方の腕が壮太に引っ張られた。リュミエールの手から、紺侍が離れる。
「あんまりこいつからかうなよ。真に受けんだろ」
 若干、不機嫌そうな目と声で、壮太。
 気になるのかなあ、と思ったので。
「壮太君も一緒に来る? 僕は三人でも構わないよ……?」
「おまえは手加減知らなそうだからヤだ」
「……あのォ。狂言回しポジ狙って訊きますけど、……何の話で? 卑猥な内容にしか聞こえねェのはオレがエロいからスか」
 困り顔で紺侍が言ったので、リュミエールは「うん」と頷いた。
「ゲーセン」
「あー、……」
「人数多い方が、楽しいよね」
 紺侍だけでなく、壮太も微妙な顔をしていた。なんというか、『疲れた』といった顔だ。
「二人とも、変な顔してどうしたの?」
「なんでもねえよ」
「ないっス。なんとも」
 くすり、微笑を浮かべたまま少し首を傾けて。
「ま、なんにせよ素直が一番だと思うけどね」
 ぽそり、呟いた。


 別のテーブルに分けてもらったのは、どういう意図であっても幸いだとミミは思った。
「いかがわしいですね」
「うん、いかがわしい。背中を向けておこうね」
 言って、蒼と並び合って背を向ける。
 ミミは、対面に座るより隣合う方が好き、だったりする。だって、その方が近いから。
「ところでケーキ、何にしようか?」
「季節のケーキが美味しそうで、迷ってしまって。ミミ様……ええと。ミミちゃんは、どれにしますか?」
 質問に質問で返すのは、あまり良くないと知っていたけど。
「蒼ちゃん、どれがいいの?」
「季節の果物のロールケーキとチーズケーキで悩んでいまして……」
「じゃあ僕、チーズケーキを頼むよ。だから蒼ちゃんはロールケーキを頼んで。それを半分こしよ?」
 そうすれば、どっちの味も食べられる。悩まないですむし、蒼はきっと、笑顔を浮かべてくれる。いいことたくさんの提案だ。
 紺侍は捕まっていた気がするので、フィルを呼んでケーキと紅茶を注文する。間もなくして、ケーキが届いた。
「美味しそう、可愛い」
「お皿にソースを散らすだけでお洒落になりますよね」
 ケーキの見た目を賞賛して、お互い一口食べてみて、
「美味しい!」
 味にも満足。
 蒼の方も美味しかったのか、幸せそうな顔で咀嚼していた。
「蒼ちゃん、僕もそれ食べてみたい」
「はい」
 言うと、蒼は皿ごと渡そうとしてきたので。
「蒼ちゃん、食べさせてくれないの?」
 お願いしてみた。蒼が、恥ずかしそうに頬を染める。
「……はい」
 照れながら、一口大にしたケーキを手向けてくれた。
「えへへ。あーん」
 口を開けて、食べる。美味しい。果物は大きいし、生クリームは濃厚で、けれど重くない絶妙なバランス。
 半分こして、ケーキを食べて。
 なくなってからは、そっと甘えてみた。
 他から見えないように、椅子の上で手を繋いでみたり。
 誰も見ていない隙を見計らって、こっそりおでこをくっつけてみたり。
 身体に触れる、暖かで優しい温度。自然と口元が緩む。
「えへへ」
「どうしたんですか?」
「幸せだな、って。蒼ちゃん、大好き」
 はにかんで伝えると、蒼も、笑った。
 すごく綺麗な笑顔だった。


 壮太たちが帰ってからしばらく後。
 休憩をもらった際、ポケットに手を入れて気付いた。何か、入っている。
 ――なンだこれ?
 手に取ってみると、トライバルデザインのペンダントトップだとわかった。シルバーだ。誰のだろう。客のものが入り込んでしまったのか。だとしたら困る。
 フィルに相談してみようかと立ち上がったところで、携帯が震えた。開く。
「あ、」
 着信はメールで。
 内容は、
『バタバタしててなかなか渡す暇無かったから
おまえのエプロンのポケットに入れといた
今年はオレのお古じゃなくて、ちゃんと買ったやつだからな

誕生日おめでとう』
 とあって。
「……はは。あー、もう」
 嬉しくなって、自然と笑った。