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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~

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四季の彩り・魂祭~夏の最後を飾る花~
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リアクション

 
 第8章

「しマッた、主たチとハぐれた」
 その頃、また違う通りでは、ユノウみくるが2人手を繋ぎ、人混みの中を歩いていた。ユノウは周囲を見回し、レイカ達の姿を探す。
「みくると一緒に、どウにか合流シないと……」
 みくるはユノウに手を引かれて後を歩きながら、今にも泣きそうな顔をしていた。獣人であるにも関わらず、彼女は方向音痴だったのだ。
「み、みくるのせいじゃないもんっ! そりゃ気になる出店を片っ端から見て回ってたけど……」
「ほンとダ。お祭リの出店はてごワい……見テいルうちニ迷っタ」
 後半の言葉に同意しつつ振り返る。すると、みくるはうるうると、目に涙を溜めていた。もう、今にも決壊しそうだ。
「ユノウがいけないんだもん! ふぇぇぇん」
「み、みくる……」
 まずい、と思ったら泣き出してしまい、ユノウは慌てた。どうすれば泣き止むのか分からず、とにかく、合流出来そうな方法を一生懸命考える。
「そうダ、匂い。主たちノ匂イを追っテみよウ」
 そう言って、みくると人混みをかきわけていく。ユノウは、鼻が鈍いのだが――

「あれ? ユノウとみくるちゃんが……いない……」
 シートを出すレイカの手が、ぴたりと止まった。遅れて来ているかと見える範囲で目を凝らすも、小さな2人の姿はどこにもない。
「も、もしかしてどこかではぐれて迷子になったんじゃ……!?」
「……みくるがまた迷子だと……」
 慌てるレイカの声を聞いて、未散も2人の姿を探してみる。どこを見ても、いない。
 祭会場は想像通りにものすごく混んでいて。二手に別れよう、とハルとカガミには買出しを頼み、彼女達は場所取りにまわった。だから彼等がいないのはいいのだが、みくる達までいないとは。
「……まあでも、ユノウと一緒だから大丈夫だよな?」
「そ、そうですよね、大丈夫ですよね! ユノウああ見えても冷静で、みくるちゃん連れてここへ来れますよね……! 電話で連絡すればいいですし……!」
「ああ。いざとなったら迷子の呼び出しでもすればいいし」
 みくるは、すごく恥ずかしがりそうだけれど。
 未散が比較的冷静だったからか、レイカも、少し気持ちを落ち着けたようだ。
 シートを敷き終わると、彼女達は真ん中に並んで座った。
「そういえば、カガミとはどうなんだ?」
「どうって……何がですか?」
「さっきカガミ、レイカのうなじ見て顔赤くしてたぞ? あんまり髪アップにしたことないから新鮮だったんじゃないか?」
「そ、そうなんですか? ……その、そんなこと言われても恥ずかしいですよぉ……」
 レイカは熱くなった頬を両手で押さえ、恥ずかしそうに下を向いた。
「……まぁ、うまくいってると思いますけど……彼が私をどう見てるか、気になることはありますよ? キス以上のことをする気配が……はっ!? 私は何を言って!?
 ……これじゃただの惚気話じゃないですか! 忘れてください!」
 ばっと上げた顔の前で、両手をあたふたと交差させる。揃えていた膝を外向きにずらし、未散に半分程背を向けた。手で顔を扇ぐも、熱はなかなか去ってくれない。
 僅かな間の後、レイカは言った。
「……み、未散ちゃんこそ、どうなんですか?」
「えっ? どうって……?」
「ハルさんとのことですよっ。もう実は未散ちゃんから告白したとか、そういうことはないんですか? ……詳しく話を聞きたいです」
「……私とハルのことか」
「そうですよぉ。私ばっかり話すのは不公平じゃないですかぁ……」
 レイカは、頬を赤くしたままにやにやしていた。それを見て、未散は気付く。出かける時から何か企んでいる気がしていたのだが――彼女は元々、2人の話をどこかで聞こうと思っていたのだろう。
「……実は、バレンタインのときに告白したんだ」
 ゆっくりと、未散は話し始めた。少しだけ、隣で驚く気配がする。「本当にしてたんですか……」と、レイカは言う。既に、彼女の表情は真面目なものに変化していた。
 あれから、半年近く。だけどまだ、返事はもらっていない。
「随分、前ですね。でも……恋人になった、というわけではないんですよね?」
 だからこそ、レイカは話を聞きたいと思ったのだ。こくん、と、頷く気配があった。
「原因はわかってる、私のせいだ。……ハルの他に気になる人がいるんだ。でも、それが恋愛感情なのかはわからない……。そんな、中途半端な気持ちのまま告白したんだ。私は不実で最悪な奴だよ……」
 傍から見たらこれって二股じゃないか、と沈んだ声で未散は続ける。
「……だから、私はハルに返事を聞く資格なんてないんだ……」
「…………」
 レイカは暫く黙っていた。再び正面を向いて、未散の手の上にそっと自分の掌を乗せる。
「私は、カガミを好きになれて……今、すごく幸せです。ハルさんの答えも……決まっているはずです。きっと……」
 未散にもハルにも、2人ともに幸せになってほしい。そう願う彼女が出来るのは、ただ、話をすることだけ。
「……お互い気になる人の話で恥ずかしい、ですね」
 少し名前を口にしただけで、収まりかけていた熱が戻ってくる。カガミ達が来るまでに何とか冷まさないと……と、レイカは思った。

(和服のレイカ、綺麗だったな……。顔が赤くなるのは我ながら何とかしたい……)
 その頃、カガミとハルは出店を回って歩いていた。既に、沢山の食べ物を持っている。後はレイカ達と合流するだけ、という状態に近かったが、そこで、カガミが口を開く。2人だけの時に、話しておきたいことがあった。
 それが、好き合っている筈の、未散との仲だ。最近の2人は、不仲とは言わないまでもお互いに遠慮し合っているようにも感じられる。
「……ハル」
 呼びかけ、未散とはどうなんだと訊くとハルは困ったような顔を返してきた。
「えーっと、カガミさん? 未散くんとわたくしは恋人ではありませんよ」
「…………。恋人じゃない……だと!?」
 驚愕するカガミに、ハルはそのままの困り顔で頷く。その表情を見て、彼の方に恋愛感情があるのは察せられた。その点で言えば、勘違いではなかったようだ。
「てっきり恋人同士だとばかり思っていたんだがな……。だが……お前自身、このままでいいのか……? それで、後悔しないのか?」
「……後悔、ですか」
 会話が途切れる。賑わう通りを待ち合わせ場所に近付きながら、だが、ハルは答えない。答えられないのかもしれなかった。
「…………」
 少し考えて、カガミは話し始める。
「……オレは、身体を病に蝕まれてる。治療法を探しているが、いつ倒れてもおかしくない。……だからこそ、後悔しないようにレイカと一緒に今を生きてる。何かあってからでは遅い……。後悔は利かないんだ。
 ハル……お前も、自分に嘘をつくな」
 真剣に、一言一言が本心であると伝わるように、カガミは話す。
「……ありがとうございます」
 暫くして、ハルは静かに彼の方を向いた。そこにあったのは困惑の消えた純粋な笑みで。
 ――彼は、言う。

(……しマっタ、どうシヨウ)
 レイカ達の匂いを辿ろうという作戦は失敗して、ユノウはみくるを連れて困り果てていた。一旦はおさまったが、もっと迷ったと知ったら、またみくるが泣き出すかもしれない。
「みくる、人ごミカら離れテ主たチを待っテイよう」
 人の流れから外れ、道の脇に2人で立つ。レイカ達も2人の不在に気付いているだろう。これで、幾分か見つけやすくなった筈だ。
「みくる、みくるの主と従者、仲いいな」
 何気なく選んだ話題だった。だが、それを聞いたみくるは突然機嫌を悪くした。
「……。ユノウも、未散とハルは仲がいいなんて言うんだ」
「……みくるは従者、嫌イなのカ?」
「みくるはハル嫌い! だって、みくるが未散にしてあげたいことみんな取っちゃうんだもん。みくるはまだ小さいから出来ないこといっぱいあるから、未散のこと、支えてあげたいのに」
 せめて、支えるくらいは、したいのに。
「でも止メに行カナいのか。それ、変ダな?」
 やめてほしいなら、そう言いに行けばいい。みくるにやらせて、と、言えばいい。どうして、そうしないのだろう?
「……頭の中では、わかってるの」
 俯き気味に、地面をにらみすえるようにして、みくるは言う。
「それはみくるの役割じゃないんだって。未散が幸せになるために必要なのはみくるじゃない。ハルじゃなきゃダメなんだって。……でも認めたくない。せっかく見つけたみくるの居場所、取らないで欲しいの……」
 みくるは声を出さずに泣き始める。ぽろぽろと涙をこぼす彼女に、ユノウは胸からパンダまんを取り出した。結構、温かい。
「……仲いいノはイイコトだ」
 半分に割っておすそわけする。みくるが受け取ったところで、レイカから電話があった。
「……ワタシだ。迎えニ来てくレ。まわリにハ……」

 そして、シートを敷いた人々が集まる一角に近付いたハルは――
「決めました……ちゃんと気持ちを伝えます。カガミさんも、ご病気のこと諦めないで下さいませ……」
 と、言っていた。