リアクション
○ ○ ○ 「体験もできるの!?」 猫&うさぎガーデンの受付で、桐生 理知(きりゅう・りち)は驚きの声を上げた。 「内緒よ。知らないで楽しんでいる人もいるから、ふふ♪」 受付に出ていたリーアが悪戯気な笑みを見せた。 「あの中に、人も混じってるってわけか」 理知の恋人である、辻永 翔(つじなが・しょう)は、猫やうさぎ、そして戯れる人々を複雑な表情で見回す。 「私、スープを飲んで、不思議な体験してみたいな! 翔くんも猫かうさぎになってみない?」 「いや、俺はいいよ」 「そんなこと言わないで、ね?」 目を輝かせて理知は翔を見る。 「……とりあえず、理知からどうぞ」 「うん。私は……猫になってみようかな。効果はどれくらいですか?」 「1時間くらいよ〜」 理知の問いに、リーアはそう答えてカツオスープを渡した。 「そっか、それなら、うん」 えへへへっと理知は翔を見上げる。 ん? と翔は首をかしげるが、理知は何でもないと首を横に振った。 (効果が長かったら、動物になった翔くんのことお持ち帰りしたくなりそうだなって思って) 理知は今、翔の腕に自分の腕を絡めている。 それくらいが精一杯。 照れてしまって、それ以上の行為を自分からすることなんて……簡単には出来ない。 だけど、彼が動物になったら、自然に色々と出来るんじゃないかなって思った。 「それじゃ、お先に」 理知は翔と共に、人目につかない場所に移動してカツオスープを飲んだ。 「あ……」 体がぐんぐん小さくなり、彼女は白い猫へと変身する。 「よしっと」 早速、翔が理知を抱き上げた。 「にゃーん」 声を上げて理知は翔を見つめる。 「……えっと」 翔は理知を見つめ返して、少し戸惑いながら。 「可愛い、な。悪い、今回はやっぱり理知だけで頼む」 と、笑みを浮かべた。 いつもより大きく見える彼の顔に、理知はため息を漏らしながら。 顔を近づけて、彼の頬を舐めてみた。 「うおっ」 翔は少し驚いて。 「心まで猫になったのか?」 理知に優しく触れて。彼女の体を撫でた。 「にゃーん。にゃ……ん(心は私のままだよ。猫の姿だったら、自然にこういうこと出来る……)」 理知は翔の顔に、自らの顔を擦り寄せた。 「にゃーん」 そして甘えるような声を上げる。 「うわっ、なんか反則」 言って、翔も頬を理知に寄せて。 手で、理知の顎を、背を、体中を愛しげに撫でた。 そのまま、翔は理知を連れて、野外ステージの方へと向かった。 興味を示す子供達に彼女を見せたり、触らせたりするけれど、決して離さずに抱きしめたままだった。 1時間はあっという間に過ぎて。 校舎に向かって歩いている最中に、理知は元の姿に戻った。 「ええっと、このままじゃ見て回れないし、な」 「そうだね」 人間に戻った理知を、翔は抱きしめたまま……つまり、お姫様抱っこしたままだった。 だけれど、流石にそのままでは校舎には入れないし。 互いに照れてしまって、互いの顔をまともに見ることもできないから。 理知は彼の腕の中から降りて、地面に足をついた。 「それじゃ、行こうか」 翔が理知の手を取った。 (翔くんの手、温かい。猫の時より、近く感じるよ……) 握り返して、肌の感触を確かめあって、2人は歩き出す――。 |
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