リアクション
○ ○ ○ ヴァイシャリーの船着き場に、青年と何かが到着を果たした。 「アキュートよ、そうゆっくり歩いておっては、売り切れてしまうかもしれぬ。少し歩を早めるのだ。さあ。さあ」 ウーマ・ンボー(うーま・んぼー)が、アキュート・クリッパー(あきゅーと・くりっぱー)の背をぐいぐい押す。 「変に気合いいれやがって……。たかがバナナミルクだろ? すぐ売り切れたりしねーよ」 ため息交じりに、アキュートは答える。 「何を言う。そのバナナミルクは百合園所属の、有名なパティシエが監修しておる間違い無き逸品。さらに百合園といえば、お主も承知の通り男子禁制の学園。そなたとそれがし等、逆立ちしても入れる場所では無いであろう」 「……まあ、機会が限定的ってのは判ったがよ……」 「うむ、では行くぞ」 「いや待て、俺はともかく、お前が百合園に入って行ったとして、一体誰が止めるんだ?」 アキュートは見た目も実性別も男性だ。 だが、ウーマは、ウーマは………………………。 「何を言っておる、男子禁制であれば入れぬのは道理……」 「いや、だからな。お前がその姿で入って行って、誰が自信をを持って『魚類のオスは当学園に入る事、まかりなりません』なんて言えるんだ?」 「何を言うか、それがしが男である事など一目了然であろう」 「……マンボウ、お前がオスかメスかなんて俺にも判らねえぜ」 「……」 「……」 ウーマはどこからどうみても、間違いなく立派なマンボウだ。 百合園女学院とて、食材はオスでも大歓迎である。 解剖実験の実験用生体もオスでも大歓迎である! ……そんなこんなで、2人は大人しく百合園女学院へ向かったのだった。 「はははははははは」 猫&うさぎガーデンにて、ルイ・フリード(るい・ふりーど)は腕を組んで笑い声を上げていた。 「楽しくて、私筋肉が膨張してしまいます。ははははははははは」 可愛らしい動物や、働く人々――冒険屋の仲間達の姿を見て、ルイの心は高揚し、筋肉もぴくぴく絶好調だった。 「なーにしてんの。筋肉踊らせて」 声に振り向くと、ビデオカメラを構えている七刀 切(しちとう・きり)の姿があった。 「いや、筋肉が喜びに震えだしただけです。仕事に戻ります、戻りますよー」 ルイはどたどた調理場の方へと走っていく。 「ふふ、皆楽しそうだねぇ。仕事だというのに」 切は走り去るルイの背に向けていたカメラを、接客に勤しんでいる女性達に向ける。 それから、パートナーで、兎の獣人であるニクス・ラビネット(にくす・らびねっと)にも。 ニクスは、切の勧めでウェイトレスをしている。 純情で臆病なニクスは、仲間達の後ろに隠れておどおどしているけれど。 時折、勇気を出して注文をとったり、運んだり、頑張っていた。 「さて、ワイもコーヒーでもいただこうかねぇ」 席についてコーヒーを注文して、撮影をしながら、切はまったり過ごすことにする。 「可愛い猫ちゃんと、うさぎさんがいるよ! 遊んでいってね!」 ラッコの獣人のマリオン・フリード(まりおん・ふりーど)は、ラッコの姿でメイド服を纏って、呼び込みを行っていた。 声を上げているのはマリオン1人だけれど、彼女の左右には、サルカモが付き添っていた。 サルカモとは、サルとカモノハシを足して2で割ったような姿の魔物だ。非常に愛らしい姿をしている。 それぞれ『いらしゃいませ』『おいでませ〜』と書かれた看板を持って、マリオンを手伝っていた。 「ママ、あそこ行きたい。かわいい」 子供が母親の腕を引っ張って、近づいてくる。 「いらっしゃいませ〜。とっても可愛い動物が沢山いるんだよ!」 「ラッコさんや、えっとえっと、こっちのサルさんみたいな動物よりかわいい?」 「うん、負けないくらい可愛いよ。ジュースもあるから、ゆっくりしていってね」 マリオンがそう言うと、子供は猫とうさぎガーデンに強い興味を示して、母親を説得し、中へと入っていった。 「頑張ってるな」 「こんにちは」 「いらしゃ……あ、こんにちはっ」 声をかけられて振り向いたマリオンは、良く知った人物の訪れに笑顔を浮かべる。 訪れたのは、冒険屋ギルドの創設者のレン・オズワルド(れん・おずわるど)と、パートナーのリィナ・コールマン(りぃな・こーるまん)だった。 「ノアさん達も頑張ってますよー」 「そうか。手伝いながらも楽しめてるといいんだが」 そう言い、笑みを残してレンは猫&うさぎガーデンの敷地内に入っていく。 敷地内からも、いらっしゃいませと言う明るい声が響いてきた。 「ふふ、どんどん賑やかになっていくね。頑張ろっと」 マリオンは外に向かって手を振って。 『猫とうさぎガーデン』はこっちだよ〜。遊んで行ってねー!」 大声を上げて、たくさんの人を振り向かせた。 庭園の隅のテントには、飲み物を作成するための器具がそろっている。 「面白……いえ、美味しそうなスープですね♪」 セラ・フリード(シュリュズベリィ著 セラエノ断章(しゅりゅずべりぃちょ・せらえのだんしょう))は、カセットコンロでスープを温めているリーア・エルレンに近づいた。 「美味しいわよ。飲んでみる?」 「いえいえ、私は結構です。作り方は教えていただきたいですけれど」 「ふふふ、これを作れるようになには、最低10年の修行が必要よ」 「そうですか、頑張って10か月でマスターします。このスープで誰かをおちょく……けほん。知識欲がうずいてしかたありませんから」 にこにこ、リーアとセラは微笑み合った。 「無償でとはいいません。催し物の手伝いならしてもよろしくてよ」 「いえ、手伝い結構よ。作り方、教えてあげるわ。ただ、材料は入手できないと思うけどね。ふふ……あなた、見所がありそうだから弟子にしてあげてもよろしくてよ?」 にこにこ、2人は微笑み合い続ける。 「ちょーっと煩くなりますけれど、すみません。バナナ助け、いえ、人助けと思い、ご協力ください!」 怪しく微笑む女性達の側で、ルイは純粋にバナナジュース作りを見守っていた。 家で生活している『サルカモ』のご飯用の『おいしいバナナ』を間違えて大量に購入してしまった為、差し入れという名のバナナ処分をお願いしたのだ。 ルイが用意した新品のヒュージプロセッサーという名の巨大ミキサーに、スタッフが大量のバナナ、牛乳を入れてバナナジュースを作っていく。 「チョコソースも用意しています、お使いください」 ルイはチョコソースを取り出して、スタッフに手渡す。 スタッフが仕上げにチョコソースを混ぜて。 ちょっと粗いバナナジュースが完成する。 「いらっしゃいませ〜。今ならバナナジュース、サービス中だよっ」 敷地の外から響く声が、このテントまで届いた。 ルイとセラは顔を上げて、声の主――マリオンの様子を確認して、ほっと息をつく。 彼女はラッコ姿のまま、元気に客引きを続けていた。 「いらしゃいませー! 猫&うさぎガーデンへようこそっ」 入口では、アイドルで人形師の茅野瀬 衿栖(ちのせ・えりす)達が、明るい笑顔で客を迎え入れていた。 「いらっしゃいませ」 彼女の後方で、執事服を纏った南大路 カイ(みなみおおじ・かい)が、恭しく礼をする。 「まずは受付を……」 「うわあっ!」 「それ本物? 本物〜っ?」 真面目に案内をしようとしたカイだが、目を輝かせた子供達に取り囲まれる。 「あ、はい。本物です」 そう言って、子供達に見せたのは――自らの尻尾だ。 営業活動のために必要だと衿栖に言われ、犬の獣人のカイは尻尾と耳を出した姿で案内を担当していた。 中で遊ぶ前に、カイに夢中になってしまう子供も多かった。 「中には、もっとふかふか、もふもふの猫ちゃん、うさぎさんがいるのよー。びっくりさせないように、ゆっくり入ってねっ」 衿栖は、4体の人形を操りながら、子供達に言った。 「うん、そっと近づいて触らせてもらうー」 「いいこいいこするの!」 子供達は両親と共に、期待を膨らませながら敷地内へと入っていく。 「さて、次は給仕よ〜。お待ちのお客様沢山いるみたいだし!」 入口での応対を終えると、衿栖はカイと共に給仕を手伝う事に。 「こちらへどうぞニャ! 猫さん沢山いますニャ〜!」 「ええっと、こっちにはうさぎが沢山いますよ、……だぴょん」 入ってきた客達を、ネコ耳ウェイトレスのノア・セイブレム(のあ・せいぶれむ)と、うさ耳ウェイトレスのメティス・ボルト(めてぃす・ぼると)が、案内をする。 「このこ、とっても人懐っこいんですニャ。こうして優しく撫でてあげてくださいニャ」 ノアは近づいてきた子猫を抱き上げて、優しく撫でて見せる。 (ふわふわです、幸せです!) そんな気持ちを素直に表した笑顔で、子猫を子供に差し出すと。 恐る恐る抱きしめた子供の顔にも、幸せそうな笑顔が広がっていく。 「ん? 山田さんが気になりますかニャ?」 子供が1人、猫とうさぎではなく、ノアが連れてきたアルパカに興味を示していた。 「うん、触ってもいい?」 「大丈夫ですニャ。乗ってみますかニャ?」 「いいの!?」 「勿論ですニャ。ええと……そこ行くファビオさん! 手伝ってニャー!」 ノアはジョウロを持って歩いているファビオ・ヴィベルディ(ふぁびお・う゛ぃべるでぃ)を呼び止めて手伝わせる。 ノアの身長では、子供をアルパカの背に乗せることは困難だったから。 「うわっ、高いよ……うわっ、こわっ、うううっ、ははっ」 ちょっと怖がりながらも、その子はとても楽しそうだった。 「ここは任せてくれて大丈夫、ちゃんと見てるから。君は接客に戻って」 「ああっ、注文待ちのお客様が沢山いるみたいですニャン。では、ここはお願いしますニャ! ファビオさん、山田さん!」 ノアはファビオと山田という名のアルパカに子供を任せると、注文を伺いにテーブル席に走っていく。 |
||