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第15章‐2 最強シーラ

「大地さんのおじいさんですか〜。どんな人なんでしょうね?」
 その頃、ティエリーティアは大地と彼の祖父に会う為に飛空艇発着場の外にいた。秋物の可愛らしいコートに、ふわふわのワンピースを着ていた。スヴェン・ミュラー(すう゛ぇん・みゅらー)シーラ・カンス(しーら・かんす)薄青 諒(うすあお・まこと)も顔を揃えている。
 空京からの大型飛空艇が到着したのはつい先程のこと。今は、乗客達が次々と外に出てきている最中である。
「普通の人ですよ。だから、何も心配いりません」
『普通』の前に付くべき『普段は』という言葉と、『何も』の前に付くべき『狙われていなければ』という言葉を大地は飲み込む。彼の実家の家長である祖父は、暗殺を専門に行う“裏仕事”の元当主である。ちなみに、現当主は父親だ。
 にこにこと笑顔を浮かべる大地に続き、並んで立つ2人の表情をデジカメで撮影してうっとりしていたシーラが言う。
「家族を代表して訪ねてこられるらしいですわ〜。何か確認したい事でもあるのでしょうか〜」
「そうなんですか? 何の用なんでしょう〜?」
 大地の家族と会うのは初めてだから、ティエリーティアはわくわくすると同時に、何だかそわそわしていた。だがそこで、突然心臓が跳ねる感じがした。
「……大地さん!」
 背後からの殺気に慌てて振り返る。慌て過ぎて転びかけて、スヴェンに支えてもらって。
 改めて大地の方を見ると、携行していた武器の内から白狗の刀を抜いて相手の攻撃を防いでいた。それは、ごく自然な動作だった。彼の目線の先には、頭髪がすっかり白くなった、髭を伸ばした老人がいる。老人は、にやっと笑った。
「腕をあげたな」
「いえいえ、まだまだですよ」
 お互いに、本心を読ませない笑顔と共に武器を仕舞う。老人は、大地の腕が鈍っていないか試そうと、軽く不意打ちで暗殺しようとしたのだ。
「だ、大地さん〜?」
「彼が、祖父の志位 万象(ばんしょう)です」
 おろおろとするティエリーティア達に、大地は万象を紹介する。次に、万象に4人を順に紹介した。
「ほう……」
 軽い挨拶を終え、万象はシーラに注目した。この中で、彼女が唯一の女性だったからだ。ぱっと見ると、女子3人男2人に見えるのだが――そうと見抜けたのは、眼力半分年の功といったところか。
(大地の彼女とはこの人か。落ち着いた感じの女性だな)

「シーラさん、先程撮っていたデータを貰えませんか?」
 街に出て歩きながら、先を行く4人の後方でスヴェンはシーラに話しかけた。左手にデジカメを持ち、右手に持った携帯を操作してあるウェブサイトを見せる。パラミタ版つぶやきツールの、彼のアカウントページである。表示されているほぼ全てが画像付きで、そのまたほぼ全てに呪いの言葉が添えられていた。
「このページにアップしている写真と交換しましょう。それに、未投稿の物もつけます。どうですか?」
「こ、これは……!」
 スヴェンにぴったりとくっつき、シーラは画像に釘付けになった。即座に自分の携帯で彼のアカウントを検索し、とろけるような笑顔になる。
「いけませんわ〜ベストショットですわ〜隠し撮りがいい感じですわ〜」
 上から順番に画像を落とし始め、我に返ってデジカメに入っていたカードをスヴェンに渡す。「すぐに返してくださいね〜」と言いながら。
「お2人共、何を話して……というか、アップとか投稿とか聞こえてきたんですが、それはどういう……」
 祖父の前だから、と聞こえないふりをしていた大地がしびれを切らして回れ右をする。だが、2人に接近したのは万象の方が早かった。
「ん……? これは……」
 2人の後ろに回ってそれぞれが見ている画像を確認し、しばし考えてシーラを見上げる。
「大地の彼女とはお前さんのことではないのか?」
「? いいえ〜。大地さんの恋人はティエルさんですわ〜」
 シーラは、大地と目を合わせて微笑みあうティエリーティアを指した。そういえば、関係性までは紹介していなかったと大地も万象に言う。
「俺の恋人はこちらのティエリーティアさんです。シーラさんではありませんよ」
 しかし、その事実が飲み込めないのか万象は怪訝そうな顔をした。
「こっちの……? いや、だが……」
「万象さん。ちょっとこちらへ〜」
「む? な、なんじゃ?」
 ティエリーティアは男だ。そう言おうとして、彼はシーラに腕を引っ張られた。そのまま、路地裏へと誘われる。
「それに関しては、黙っていていただけますか?」
 語尾から「〜」が消えている。にこにことしている彼女の笑顔が間近に迫り、万象はますます眉を顰めた。
「……まさか、大地は知らんのか? 外見だけ見れば女子だが、しかし……」
「大地さんには決して話さないでくださいね? そうでないと……」
 シーラの笑顔に、知らず万象は一歩退いていた。数々の修羅場を抜けてきたにも関わらず、穏やかそうな女性に押されている。笑顔の奥に、確かに得体の知れない何かが潜んでいる。
「でないと?」

「大地さん〜、シーラさんとおじいさん、どうしたんでしょうね〜?」
「さあ……俺にも分かりませんが……」
 分かるのは、シーラが何か口止めをしようとしているという事だけだ。だがその内容に心当たりが無い。出会ったばかりの2人に共通する何かがあるとも思えないが。
「……………………」
 そして、2人は戻ってきた。青ざめた顔をした万象の後から、いつもと変わらない様子のシーラが歩いてくる。
「どうしました? おじいさん。あ、さっき何か言いかけてましたよね。何ですか?」
「!? あ、い、いや……! 気にするでない」
 明らかな動揺を見せつつもそれ以上は語らず、万象はさりげなくシーラから離れた。駄目押しのように笑顔で見つめられているのに気付いて、一瞬びくっ、とする。
「……?」
 首を傾げはしたが、大地は特に追求はせずに彼にツァンダの案内を始めた。
 ファーシー達と合流して一緒に街を周り、再び飛空艇発着場に戻って万象を見送る。観光の間、シーラは大地達の様子を逐一撮影していた。歳の差の同性愛に萌えていたのか、禁断の親子愛に萌えていたのかは分からないが、「いけませんわ〜」を連発していたのだけは確かである。
 その後、ティエリーティアやファーシー達を蒼空学園に送ってから自分達もイナテミスに帰ろうか、とそう話していた時。
 大地達3人は、道路を挟んだ十数メートル先の歩道でラスとチェリー、見知らぬ男女が話しているのを目撃した。顔を見合わせて、道を渡ろうと横断歩道がある場所まで戻り始める。