薔薇の学舎へ

波羅蜜多実業高等学校

校長室

葦原明倫館へ

ザ・称号

リアクション公開中!

ザ・称号

リアクション


第14章 果てしない闘い

「我は最強にして、もっとも多くの勝利を得、悪魔と人間の敵意とを打ち砕く」
 ウルスラグナ・ワルフラーン(うるすらぐな・わるふらーん)は、かつての誓いの言葉を呟くと、襲いくる盗賊たち・魔物たちに向かって身構えた。
 エッツェルは去った。
 だが、その後も、広場での闘いは続いている。
 ここを最後の決戦の場とこころえているのか、敵は必死だった。
「去れ!!」
 叫んで、ウルスラグナは剣を振りあげて突進した。
 まるで猪のような勢いであった。
「ひ、ひえええええ」
 ウルスラグナの気迫に押されて、敵はその突進を避けようと二手にわかれ、分断させられることになった。
「あなた達の所業、ここまでです!! おとなしく司法の裁きを受けなさい!!」
 ウイシア・レイニア(ういしあ・れいにあ)はそういって、ウルスラグナから逃げ惑うような態勢になった盗賊たちに、弓矢で攻撃した。
 しゅっ
 ぐさっ
 ウイシアの放った矢が、盗賊たちの腕や足を射抜く。
「くそ! う、動けねえ!!」
「いまです!! 連行して下さいませ」
 ウイシアは、うずくまった盗賊たちを、アマポリスに命じて捕縛させた。
「あくまで捕縛でありますか。このようなところで司法の裁きなど期待できるのでしょうか?」
 エネスト・セイリッド(えねすと・せいりっど)は、ウイシアのやり方に疑念を抱いた。
「ウルスラグナの意向もある。ここは、全力で闘おう」
 猪川勇平(いがわ・ゆうへい)は、エネストにいった。
「勇平殿! この程度の相手、それがしと勇平殿の力であれば楽勝でありますよ」
 エネストは、勇平をみて、笑っていった。
 もとより、悪と闘うため、などという名誉のためにきているエネストではない。
 自身が勇平の剣として役にたてると思ったからこそ、闘いに参加したのだ。
 勇平は、黙ってうなずいた。
 そして。
 エネストは、握られた。

「おやめ下さい!! とあー!!」
 ウイシアは、接近してきた敵に剣を振りかざしていた。
「あぐぐ。ちい」
 下卑た笑いを浮かべながらウイシアに触ろうとした盗賊は、剣で斬られて、うずくまった。
「痴漢ですわ。きちんと裁きを……」
「へっへっへ。じゃあ俺たち全員、捕まえてみせろよー!!」
 盗賊を捕縛してそういおうとしたウイシアに、四方からいっせいに盗賊がうちかかってきた。
「きゃ、きゃあっ」
 弓矢を奪いとられ、毛むくじゃらの手にあちこちわしづかみにされて、ウイシアが窮地に陥ったとき。
「うおおおおおおお!!」
 剣と化したエネストを構えた勇平が、雄叫びをあげて、盗賊たちに斬りかかっていった。
 ぐさっ
 ぶしゅっ
「ぎゃあああああああ」
 悲鳴をあげてウイシアから離れる盗賊たち。
「はあはあ。援護に感謝いたしますわ」
 ウイシアは、ドキドキしている胸をおさえながらいった。
 弓矢を拾い、あらたな矢をつがえる。
 ウイシアは、あくまでも自分のやり方を貫くつもりだった。
「それでは、処理しきれない相手はそれがしと、勇平殿とで!!」
 勇平に剣として振るわれながら、思う存分役立てられて満足げなエネストがそういったとき。

「勇平よ。怒れ!!」
 ウルスラグナが、多数がうずくまって何かをしている盗賊たちを指して、いった。
「うん? おお!!」
 勇平は、そこで何が行われているかをみて、驚愕した。
 盗賊たちは、倒れた戦士の胸に、寄ってたかって剣を突き刺しているのだった。
 相手が絶命しているにも関わらず、なおも執着して、死体をボロボロにしていた。
 貴重な勝利に、酔いしれているようだった。
 戦士の死体の脇で、茫然としている女戦士がいた。
 盗賊たちは、下卑た笑いを浮かべながら、その女戦士にも襲いかかり、武器をとりあげ、防具や衣を剥ぎとっていく。
 ついに、押し倒して、好き放題やろうとし始めた。
 女戦士の悲鳴が響く。
「く!! ケダモノが!! 戦士の名に値しない、魂の腐ったクズ野郎どもめ!!」
 驚愕の後、勇平の中にわきあがったのは、おさえることのできない激しい怒りだった。
「……アアアアアァァァァァガアアアアアアアア!!」
 勇平は、龍の叫び声をあげた。
 勇平の中に眠る、龍の魂が覚醒して、凶暴化したのだ。
「勇平殿!! 奴らを皆殺しにしましょう!!」
 剣モードのエネストがいった。
 いわれる前に、勇平は走り出していた。
「ごおおおおおおおおおおお!!」
「な!? ぎゃ、ぎゃあああああ!!」
 勇平の気迫に驚いた盗賊たちは、逃げようとした。
「逃がさん!!」
 勇平は、跳躍した。
 龍のように宙を飛んで、盗賊たちを追い詰め、斬り刻んでゆく。
「う、うわあああああああ!!」
 武器と化しているエネストの斬れ味はすさまじく、盗賊たちの身体を鎧ごと一刀両断にしていった。
「は、はああ。勇平君……」
 ウイシアは、勇平の覚醒した姿を目にして、思わず茫然としてしまった。
「りゅ、龍だ!! 本物の龍が入った人間だ!! た、助けてくれえ!!」
 盗賊たちは、いっせいに逃げ出した。
「勇平よ。ためらうことはない。魂の声が命ずるまま、破壊と殺戮を繰り返すがいい! その果てに、創造が待っている」
 ウルスラグナは、勇平の荒れ狂う姿を真剣なまなざしでみつめて、いった。

「投降しなさい。さもなければ攻撃します!!」
 董蓮華(ただす・れんげ)は、そう盗賊たちに呼びかけていた。
 敵は多いが、恐怖はなかった。
 むしろ、ふるいたちそうなほどの闘志に、蓮華は満たされていた。
 大切な国民を守ることは、金団長の理想に即したことだから。
 金団長のために。
 そして、国民のために、蓮華は全力で闘うつもりだった。
「みていて下さい、金団長。蓮華は全力でがんばります!!」
 拳をかたく握りしめ、蓮華は、居並ぶ敵どもを真っ向から睨みつけた。
「けっ、威勢のいい姉ちゃんだぜ!!」
 盗賊たちは悪態をつくが、蓮華は微動だにしない。
「やれやれ。みていて下さいって、軍務じゃないし、団長には伝わらないと思うがなあ」
 スティンガー・ホーク(すてぃんがー・ほーく)が呆れ顔でいった。
「気持ちの問題よ。さあ、生命が惜しいなら、かかってきなさい!!」
 蓮華は、スティンガーの言葉など全く気にもせず、盗賊たちを挑発した。
「いい度胸だ。シメてやらあ!!」
 盗賊たちは、チェーンソーや釘バットをうならせながら、徐々ににじり寄ってきた。
「まあ、あれが、蓮華流の精神集中と緊張緩和の手法なんだろうな。あっ、アルにいってもわからないか? アルは緊張とは無縁みたいだからな」
 スティンガーは、肩をすくめてみせながら、アル サハラ(ある・さはら)にいった。
「えー、そうでもないさー」
 アルは、のほほんと笑いながらいった。
 恐ろしい形相の盗賊たちが近づいているというのに、警戒した様子もないのがアルだった。
「まあ、俺だってそれなりには真剣だってば。ほら!!」
 アルは、笑いながら、至近距離にまで近づいてきて、いまにも襲いかからんばかりの盗賊たちに向かって、機関銃を乱射した。
 だだだだだだ
「ぎゃ、ぎゃああ!! 危ねえじゃねえか!!」
 悲鳴をあげて、盗賊たちは弾丸を避けるように動き、アルたちの前に道を開いた。
「さあ、戦闘開始!! ランニングして!! この闘いが終わったら、何を食べようか?」
 盗賊たちが開いたその隙間を、アルは、走った。
 呆気にとられていた蓮華たちも、後を追う。
「いくらでもかかってきなさい!! まだまだ!! その程度ですか?」
 走りながら、蓮華は拳を振るい、次々に盗賊たちを殴り倒した。
「アル! ランニングじゃないだろ。もっと真剣にやれよ」
 スティンガーがいった。
「うーす」
 アルは、マイペースを崩さない。
「あれ? そういえば、スティンガーはどこ?」
 ふいに、アルは、スティンガーの姿がどこかに消えてしまったことに気づいた。
「俺は、ここだよ。得意分野でいくからな!!」
 広場の隅にまで移動していたスティンガーは、物陰からライフルを構えて、盗賊たちを狙い撃った。
 ズキュウウウウウン!!
「ぐわっ」
 撃たれた盗賊は一瞬で絶命する。
 スティンガーの狙撃は、百発百中だった。
「わあ、怖い。俺も撃たれそうだな」
 アルが、おどけてみせたとき。
「いつまで余裕ぶっこいてんだ、タコが!!」
 盗賊たちが、槍を構えて突っ込んできた。
「おおっ、危ない、危ない」
 アルの身体が、かき消えた。
 実際には、ナノ拡散してナノ化したのだった。
「なにっ!? 姿がみえねえ!! この野郎!!」
 驚きつつも、盗賊たちはヤケになって武器を振り回した。
「そう怒るなよ。ハゲるぞ」
 アルは、ナノ化したまま、サイコキネシスで盗賊たちのヘルメットを奪いとってみせた。
「ぱかっ。ほら、そこ撃っちゃいな!!」
 アルがいったとき。
 ズキュウウウウウウウウウウン!!
 間髪入れずに、スティンガーの狙撃が盗賊の脳天を貫いた。
「お、おわああ」
 血まみれの頭部を振り回し、呻いて、盗賊は倒れた。

「さあ、もっと過激にやって欲しいわね」
 蓮華は、巨体の盗賊とパンチやキックの応酬をしながら、タフに呟いた。
「この!!」
 格闘戦が得意なその盗賊は、蓮華に拳を当てようと、巧みなフットワークでうちかかってくる。
「死ね!!」
 必死の想いで、蓮華を追いつめる盗賊。
 そのとき。
「ガオオオオオオオオオ!!」
 上空から、ドラゴンの鳴き声がした。
「あっ、きてくれたんだね」
 ブライアン・ロータス(ぶらいあん・ろーたす)は、その姿をみて歓声をあげた。
 街へとやって来るときにみんなで乗ったドラゴンだった。
 街の外れの建物の影に置いてきたのだが、広場での闘いの音を聞いて、飛んできてくれたのだろう。
「なんて立派で大きな翼だろう! 僕のひ弱な腕とは大違いだな」
 ブライアンは、その力強い姿に、憧れを抱いた。
「な、何だあ!?」
 ドラゴンの姿に呆気にとられた盗賊は、蓮華への攻撃を外してしまった。
「隙ありだわ!!」
 蓮華が、盗賊の背後にまわりこむ。
「ブライアン!! ドラゴンには戻ってもらうから、一緒に隠れていて」
 蓮華が、ブライアンにいった。
「うん!!」
 ブライアンは、ドラゴンに乗せてもらって、後退していった。
「いつか強くなったら、僕を乗せて一緒に闘ってくれるかな?」
 運ばれながら、ブライアンは、ドラゴンの首に抱きつき、体温を感じながらいった。
「オーン」
 ドラゴンは、ブライアンにこたえるように、軽く鳴いてみせた。
「うん。ありがとう!!」
 ブライアンは、それだけで十分だった。
 強くなる。
 いつか、きっと。
 眼下の闘いを見下ろしながら、ブライアンは心に誓った。

「さあ、クライマックスだわ!!」
 蓮華は、巨体の盗賊に、雷術をまとった両の拳をうちこんだ。
 びりびり
「ぐっ」
 しびれるような打撃に、盗賊は顔をしかめる。
 蓮華の拳には、ティフォンの爪が装備されていて、急所を的確についてきた。
「金団長!! 団長!! 団長!!」
 叫びながら、蓮華は宙を舞い、盗賊を翻弄しながら何度も殴りつけた。
「ぐわあああああ」
 完全に身体がしびれて動けなくなった盗賊が、宙をあおいで絶叫する。
「みていてくれてますか? 国民のために闘う、この姿をー!!」
 蓮華は、とどめに、力強いアッパーを盗賊の顎に決めた。
「や、やられた!! 燃え尽きたぜ!! 生命の火が!!」
 アッパーで宙に突き上げられ、頭から石畳に倒れ込んだ盗賊は、血を吐いて、こときれた。
「私の火は、いよいよ熱く燃えあがるわ!! 団長に届くまで!!」
 蓮華は、太陽に顔を向けて目を閉じ、両手を広げ、金団長の姿を想い浮かべながら、真っ赤なオーラを全身に燃えあがらせるのだった。

「シエロ、こうかな?」
 箱岩清治(はこいわ・せいじ)は、二丁の拳銃を人喰いペンギンに向けて、いった。
「ペーン、ペーン!!」
 恐るべき人喰いペンギンたちは、羽をばたつかせ、牙を剥き出しにして、怒っている。
 近づくと指を食いちぎることで知られる、恐るべき魔物であった。
「そうです。清治様、嘴の中が弱点です」
 シエロ・アスル(しえろ・あする)が、魔物の弱点を指摘した。
「ありがとう」
 ズキュ、ズキューン!!
 清治は、二丁の拳銃を続けてぶっ放した。
 弾丸は、わめきたてるペンギンたちの嘴の中に撃ち込まれた。
「ペーン!! ドカーン!!」
 うめいて、ペンギンたちの身体が爆発する。
「やるな!! ウホ、ウホ」
 今度は、巨大なお化けゴリラの群れが現れた。
 お化けゴリラは、けたたましい雄叫びをあげながら、両手を振り上げて踊り狂い、清治たちの周囲をまわってみせた。
 清治たちの隙を突いて、怪力で襲いかかろうという腹だった。
「シエロ、こいつらはどうかな?」
 清治は、尋ねた。
「清治様。手足の関節を狙ってはいかがでしょう」
 シエロが、アドバイスした。
「ありがとう」
 ズキューン!!!
 再び、清治の拳銃が火を吹いた。
「ウホ!? ホッホッホー」
 お化けゴリラたちは、関節を撃ち抜かれて素早い動きを封じられ、悲鳴をあげた。
「僕、あんたたちに恨みなんてないけど、あんたたちだって、平和に暮らしていたこの街の人たちを、恨みがあって殺したわけじゃないでしょ? これで、おあいこだよ」
 清治は、冷徹な口調でそういうと、動けなくなったゴリラたちの額を撃ち抜いた。
 ドキュウン
「ぐぼっ」
 呻いて、ゴリラたちは倒れた。
 清治は、次の弾丸を装填する。
「コノコノコノ!! 死ねー!!」
 デブエリマキトカゲの大群が、清治に向かって走ってきた。
 どのトカゲもエリマキを大きく広げ、最大限の怒りを表現している。
「清治様。前に出過ぎです。お下がりください」
 シエロがいった。
 清治が下がると、デブエリマキトカゲたちは、標的がいたところを走り抜けて、勢いで向こうへ行こうとした。
「さよなら」
 清治はいって、拳銃を撃ち放った。
 どごん
「げ、げげげ!!」
 背後からエリマキを撃ちぬかれたトカゲたちは悲鳴をあげて転倒した。
「ルドルフ校長。これが、僕なりの美しさだよ。闘い続けること、それが、美しさなら」
 清治は、ルドルフの姿を想い描きながら、空の彼方に向けて拳銃を撃ち放った。
 ズキュウウウウウウウウン!!
 この音は、校長に聞こえているだろうかと、清治は思った。
「清治様。自分流に闘いを飾れるとは。美しいです」
 シエロは、賞賛した。
 だが、清治は、さめていた。
 この活躍が、校長に認められるものでなければ、虚しいとわかっていたから。
 闘い続ける。
 そうすれば、きっと。
 ひそかな想いを抱きながら、清治は、次の敵に向かって弾丸を撃つのだった。
 ドキュウウウウウウウウウウン!!