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第15章 ボスの最後

「ふん!! どいつもこいつも使えない奴ばかりだぜ!!」
 小山のように盛り上がった巨大な影が、広場を進んでいった。
「う、うわー!!」
「ぎゃ、ぎゃあ!!」
 盗賊たちを蹴散らす勢いに乗って、生徒たちはその影にうちかかるが、いずれも悲鳴をあげてうちふせられることになった。
「ボ、ボス!!」
 盗賊たちは、その影をみて、恐怖と敬意の入り混じった声をあげた。
「消えろ!! ちんたら闘いやがって、いつまで生き恥さらしてやがる!!」
 ずぶり
 ボスは、そんな部下の盗賊たちに、情け容赦なく蛮刀を突き刺していく。
「あ、あああ! お許しをー!!」
 刺された盗賊たちは、呻いて、死んだ。

「ああ、あれがボスなのだ!!」
 天禰薫(あまね・かおる)は、ついに現れたボスを目の当たりにして、戦慄した。
「薫、怖くないぜ!! あんなもの!!」
 八雲尊(やぐも・たける)が、薫とともにボスを睨みつけて、いった。
「違う!! 違うのだ!! 我は、怖がってなどいないのだ!!」
 薫は、ぶんぶん首を打ち振った。
 そう。
 確かに違う。
 薫は、あのボスと闘いたくて、たまらなかった。
「あのボスが、一番多くの女の人を襲って、自由を奪って、ひどいことばかりしていたのだ!! 我は、あいつだけは許せないのだ!! 我も、我も、かつて自由を奪われたことがあったのだ……」
 ちくり
 言葉の途中で、薫は、過去の傷跡が胸のうちでうずくのを感じていた。
 薫は、下唇を噛んで、動揺をこらえた。
「おう、そうか!! それじゃ、一緒に行こうぜ!! 援護してやる!!」
 尊は、薫を気づかいながらも、力強く促した。
「ピッキュ、ピキュキュ、ピキュキュピ!!(わたぼも一緒に、悪い人、どっかんどっかんする!!)」
 宙に浮かぶわたげうさぎロボット わたぼちゃん(わたげうさぎろぼっと・わたぼちゃん)も、薫の闘志に呼応して、興奮のあまりぐるぐるとその場を旋回し、しきりに鳴いた。
「奴に、同じように地獄を味わわせるのも一興だな」
 熊楠孝明(くまぐす・よしあき)が、冷酷な口調でいった。

「うん? 何だ、おめぇら? じろじろみてんじゃねえ!! そうだ、俺がボスだ!! 死ね、うつけものどもがぁ!!」
 ボスは、薫たちの視線に気づくと、吠えて、襲いかかってきた。
「ぴきゅ!?」
 薫は、とっさに身を翻すと、ボスのすさまじい攻撃を紙一重でかわした。
「うつけものは、お前なのだ!! もう誰も奪わせないのだ!! 覚悟するのだー!!」
 首から提げた「誓」を握りしめた後、薫は、草那藝之大刀を振りあげ、ボスに敢然と立ち向かった。
 みるみるうちに、薫の左目が白銀に変わる。
 力の解放。
 神降ろしの発動であった。
 そのとき。
 薫の脳裏に、何者かの声が響いてきた。
(天禰薫よ。いまこそ、ときは満ちた。その大刀を持ちて、この街にとりついた邪悪なる波動の源泉を断ち切るのだ!!)
「いまの声は? いったい何なのだ?」
 薫は、驚きながらも、軽やかに跳躍でボスの蛮刀をかわすと、手にした大刀を光速の動きでひらめかせた。
「は、速い!! ちいっ」
 舌打ちしながらも、ボスもまた尋常ではないスピードでその攻撃を紙一重でかわす。
 ぶしゅっ
 刃がかすったのか、ボスの肩が若干裂けて、血が飛び散った。
「やるな!! だが、負けるつもりはねえ!!」
 ボスは叫んだ。
「薫、どうした!!」
 尊が、ボスに剣でうちかかりながらいった。
「大丈夫なのだ!! 我は、崇高なる意志により、このボスを斬るのだ!!」
 薫は、うなずいていった。
 先ほどの声が、何なのかはわからない。
 もしかしたら、この街の救援を呼びかけた少年が聞いたという、国家神の声と同じものだったのかもしれないし、そうではないかもしれない。
 だが。
 みえない何かが味方していてもしていなくても、薫のやることは変わらなかった。
 斬る。
 ボスを斬る!!
 薫の白銀の瞳が、光を放った。

「薫たちは、闘いに大義を求める傾向がある。だが、俺は、そんなに甘くないぞ」
 孝明は、闇術をボスに仕掛けて、斬撃を続けざまに放った。
 何度も、何度も。
 一度の攻撃で、すぐに殺すつもりはなかった。
 とびきりの悪党なのだから、十分に痛めつける。
 孝明の唇に、うっすらと、狂気の笑みが浮かんでいた。
「どうだ、ボス!!」
「ああ? うっせーんだよ、ちんたら攻撃してんじゃねえ!!」
 ボスは気合をあげると、闇術にも斬撃にも動揺することなく、孝明の身体を、その巨体で無造作に突き飛ばした。
「うわっ」
 孝明は、悲鳴をあげて転倒する。
 パワフルな相手だと思った。

「ピキュキュピ!!(どっかんどっかん!!)」
 わたぼちゃんは、宙に浮遊しながらライフルでボスを狙撃した。
 ドキューーーン
「ふん!!」
 ボスは、蛮刀の切っ先でその弾丸を弾き返した。
「俺に小細工は通じねえぜ!! 勝ちたかったら正面から来い!!」
 ボスは吠えた。

「正面から? そうか。わかったのだ!!」
 その言葉に、薫は反応を示した。
 ここが正念場の闘いなのだ。
 大義により決戦を挑みたいなら、正面から、斬ろう!!
 薫は、草那藝之大刀を上段に構えると、正面から、ボスに斬りかかっていった。
「とあああああああああ」
「おぉ? なるほど。まっすぐきたな!!」
 ボスは、はじめて相手に戦慄を覚えた。
 ここまでまっすぐ自分に立ち向かってくるとは。
 受けて立つしかない。
「いいだろう!! 全力を出しきろうぜ!!」
 ボスは吠えた。
 壮絶な斬り合いが始まった。
 そして。

「くっ」
 ボスの額に、汗がにじんだ。
 薫は、ひるむことなく、攻撃を続けている。
 疲れているはずだが、薫の表情は、澄んだままだ。
 左目の白銀の光も、ギラギラしていて健在だった。
「なぜだ? なぜこうも強い?」
 ボスは、相手の内心で驚愕の想いを禁じえなかった。
 これまでボスは、闘いに負けたことがなかったのだ。
 それだけの体力と実力に恵まれていると、信じてきた。
 その自信が、目の前の相手とのこの闘いで、揺らいできている。
 なぜだ?
 いや、何なのだ?
 ボスは、薫に、何か別のものが味方しているように感じていた。
 神降ろし。
 その仕組みがいまだ謎に包まれていることに、ボスは考察を及ぼしていた。
 気のせいか、ボスは、薫の身体がまばゆい光に包まれているように感じた。
 今日、館を襲ったあの落雷と、この光とは何らかの関係があるのだろうか?
 ボスは、ぼんやりとそんなことを想った。
 だが。
 何があろうと、負けるつもりはない。
 全力で闘う。
 ボスは、必死で蛮刀を振るった。
「……」
 薫は、まったく疲れた様子もみせず、無言のまま、斬りかかってくる。
 勝敗は、じきに決した。

「あっ、あそこで闘っているのは薫だね!!」
 小鳥遊美羽(たかなし・みわ)は、ミニスカキックで盗賊たちの顎を蹴り砕きながら、ふと、薫とボスの死闘に目を止めた。
「あれ? 何だろう、あの光は?」
 美羽は、夢をみているのではないかと思った。
 美羽の目には、薫の身体が、不思議な光に包まれているようにみえた。
 その光が、薫に力を与えているようにも思えた。
 もしかすると、自分はロイヤルガードだからその光がみえるのかもしれないと、美羽は思った。
「ボスを倒せば、盗賊たちはもう恐れるほどの勢力ではなくなるよ。がんばってね、薫!!」
 美羽は、薫に声援を送った。
「……」
 薫は、無言だった。

「くそ、いくぞぉ!!」
 ボスは、蛮刀を振りかざすと、薫に向かって思いきり振り降ろした。
 駆け引きなしの、直球の攻撃だった。
 この相手には、これでいくしかないとボスは感じた。
 互いにまっすぐ仕掛けて、ダメだったら、それまでだ。
 そして。
「……」
 無言の状態になっている薫は、見事な剣さばきで、蛮刀を弾いてみせた。
 ぱりん!!
 音をたてて、蛮刀の刃が砕けた。
 その瞬間。
 薫は、大きく目を見開いた。
 急に、意識がよみがえってきたような気に、薫は襲われていた。
「ぴきゅ!!」
 鳴いて、薫は、草那藝之大刀を、まっすぐボスに振り降ろした。
 そして。
 ずばあああああっ
 ボスの身体は、大刀によって斬り裂かれた。
 鮮血が吹きあがる。
「見事だ!!」
 ボスは、倒れた。
 仰向けに空を見上げて、茫然とする。
 じき、死ぬのがわかった。
「はあはあ。何だったのだ? ずいぶん長い間闘っていたけど、そんなに疲れてないのだ!! でも、勝ったのだ!!」
 薫は、真っ白に燃え尽きたような不思議な心境で、瀕死のボスを見下ろした。
 少しの間、自分は別の何かに動かされていたようにも感じたが、一方で、確かに自分の意志で動いていたとも感じた。
 草那藝之大刀の力?
 あるいは。
 まあ、何でもいい。
 薫は、街を解放する闘いが大きなヤマを越えたと、感じた。
 ボスは倒れた。
 あとは、烏合の衆だ。

「……。サヤカ。お前か」
 薄れゆく意識の中で、ボスは、自分を覗きこむ影に向かっていった。
「もう、オシマイよ。あなたは、父の仇だったわ」
 サヤカは、倒れているボスを見下ろして、いった。
 能面のように、無表情で、サヤカはボスをみつめていた。
「ふっ。もう1度、お前を抱いてやりたかった、ものだ」
 ボスは、笑った。
 サヤカの顔が、一瞬、憎しみに歪んだ。
「許さない!! 絶対に!! あなたが死んでも!!」
 サヤカは、吐き捨てるようにいった。
「ふ。脱げよ。また、みせろ」
 サヤカを嘲笑うようにそういって、ボスは、息を引き取った。
「私の中に数えきれないほどつけてくれた、この傷。どうすればいいの?」
 いって、サヤカは、その死体に背を向けて、歩き出した。
 もう、振り返りたくもなかった。

「ふふふ。この世界なんて吹き飛べばいいんだ……」
 ステラレの街の中で、持参した段ボールに身を隠し、ひっそりと移動していた葛城吹雪(かつらぎ・ふぶき)はそう呟いた。
 広場での最終決戦にも参加していない吹雪には、別の目的があったのだ。
「これで、だいたい全体に仕掛けることができましたね」
 吹雪は、段ボールの下の暗闇で、ほくそ笑んだ。
 吹雪は、街中に爆弾を仕掛けてまわっていた。
 盗賊?
 魔物?
 街の住人?
 そんなものは、関係ない。
 全部まとめて、爆破するだけだ。
「それでは、そろそろ実行しましょう。スイッチ・オン!!」
 吹雪は、爆弾のスイッチを入れた。
 ちゅどーん!!
 ちゅどーん!!
 街中で、大爆発が発生した。
 火災が発生し、瞬く間に火は街中に広がっていく。
「う、うわあ、何だあ!! 逃げろぉおお!!」
「きゃあ、助けてー!!」
 盗賊と一緒に、街の住人たちも炎の手から逃げようと、必死になった。

「ギギ。騒々しいな。うん、あれは!!」
 広場で、なおも生徒たちと激戦を繰り広げようとした魔物の軍勢は、広場を囲む建物が燃えあがり始めたのをみて、戦慄した。
 魔物たちが、最も恐れるもの。
 それが、火だったのである。
「ぎゃ、ぎゃああ、何ということだ、せっかく住み慣れてきた街がぁ!!」
 魔物たちは悲鳴をあげた。
「も、燃やされる!! 逃げろぉぉぉぉぉ!!」
 闘いを放り出して、魔物たちは、我先にと走り出し、街から出ようと突進した。
 その様は、あたかも、「バルサンを焚かれたゴキブリ」であった。
「火事だ!! 火事だぞ!!」
 残された生徒たちも、炎に慌てふためいたが、何とか踏ん張った。
 ここで、街を見捨てるわけにはいかない。
 闘いは終わった。
 後は、街の復興だ。
 その第一歩は、目の前に迫る炎の消火であった。
 そして、住人たちの避難を誘導すること。
 生徒たちは、それぞれが、それぞれの役目を果たすために走った。
 炎を消し、住人を避難させていった。
 だが、吹雪の仕掛けは徹底して、街全体は実に効率よく炎上させられていた。
 住人たちの避難には成功したものの、街の炎は、消される前に、ほとんど全てを燃やし尽くしてしまったのである。
 その結果。
 焦土と化した街は、当分の間、魔物が住めるような環境ではなくなったのである。
 このことは、盗賊以上にしぶとい魔物たちの勢力が、街から一掃されたことを意味した。
 吹雪のテロ行為は、はからずも、魔物たちに対して絶大な力を発揮したのである。

「逃げてはいけませんよ」
 ズキューン
 吹雪は、逃げ惑う盗賊たちをライフルで狙撃するなどしていた。
 だが。
「わわっ、段ボールにまで火がついてしまいましたね」
 吹雪は、慌てて隠れ家から這い出ると、段ボールの火を消すのに躍起になった。
 そして。
「ああ、もう、ほとんど燃えてしまいましたね」
 周囲を見渡した吹雪は、街に、もう燃えるものがほとんどなくなっていることに気づいた。
「テロ成功です。それでは、別の地で、またテロを行うとしましょう」
 そういって、吹雪は、街を出ていった。
 唇の端に、満足げな薄ら笑いを浮かべながら。

「う、うわあ、どうする? 街が燃えてきたぜぇ!!」
「ボスももういない!! 俺たちはどうなる? 逃げるか?」
 街が火の手に包まれるのをみた盗賊たちの生き残りは、途方に暮れていた。
 そのとき。
「おい、逃げるのはまだ早いぜ!! 俺たちと勝負しな!!」
 九条ジェライザ・ローズ(くじょう・じぇらいざろーず)がいった。
 ローズは黒ロングの特攻服を着て片手にバス停を握っていて、その傍らにはバイクもあった。
「な、何だぁ!? 暴走族か?」
 盗賊たちは、ローズをみてそういわずにはいられなかった。
「そうだよぉおお! キマク爆走団『苦零示威死亞悶弩』たぁオレたちのことだ!! 乱闘生のシンディだぜぇ、夜露死苦な、うーす!!」
 赤のショート特攻服に身を包んだシン・クーリッジ(しん・くーりっじ)が、木刀をぶんぶん振りながらいった。
「同じく、乱闘生のマダラだよ!! あたしは、そうだね、空手キックが半端ないよ!!」
 紺のスカジャンに革パンを着込んだ、斑目カンナ(まだらめ・かんな)は、チェーンを振りまわしながらいった。
「僕は、副総長の学だ!!」
 深緑の長ランをぎこちなく着ている冬月学人(ふゆつき・がくと)がいった。
「そして!! 総長をやらしてもらっている九条院だよ!! 今日はぶっこんでいくんで夜露死苦!! うわぁぁぁぁ!!」
 最後にローズはそういうと、バス亭を振りまわして盗賊たちに突進していった。
「お、おわぁ!! なんじゃあ!! やんのかあ」
 盗賊たちは、ローズの襲撃を受けながらも、バットを振りまわして抵抗しようとした。
「ちょっと、ちょっと!! ストップだよ。それは、挨拶程度で。今日は、暴走族らしく、バイクで勝負しようと思っているんだ」
 学人がいった。
「はぁはぁ。そ、そうだった!! おい、盗賊ども!! この街での闘いも終わりに近づいてきた!! 最後にお前たちが本当にクズだったのかどうか、その度胸を試してやろうじゃないか!! なに、簡単さ。きりたった崖に向かってバイクを思いきり走らせるんだよ。ギリギリで止めた方が勝ちってことで。負けたら死ぬか、俺んとこに下れ!! 一人でも俺に勝てたらなんでも言うこと聞いてやんよ!! どうだい?」
 思いきり暴れて息切れしたローズはバス停を地面に突いて、それに身体をもたせてあえぎながら、盗賊たちに勝負を提案した。
「チ、チキンレースをやれっていうのか!? 断ったら臆病者だっていうのかよ!! おのれー」
 盗賊たちは、互いに顔を見合わせた。
 どうするか。
 街を燃やす火は、広がりつつある。
 勝負は、街の外にある崖で行うので、ここから離れることはできる。
 そう考えた盗賊たちは、いっせいにうなずいた。
「いいぜ!! 勝負を受けてやらあ!! 最後に俺たちの気合だけでも示していきたいしな!!」
「よし。それじゃ、移動しよう」
 学人がいった。

「さあ、あそこの崖に向かって、いっせいにバイクを走らせるよ!! いっとくけど俺はバイクが得意だから、強敵だと思いな!!」
 ローズはいった。
 どるん、どるん。
 ローズ、そして盗賊たちはそれぞれがバイクに乗って、エンジンを吹かしはじめていた。
「がんばってね」
 学人はいった。
「総長!! 苦零示威死亞悶弩の意地をみせたって下さいよぉぉぉぉぉ!!」
 シンが木刀で素振り100回を行いながらいった。
「ケガしたら、治療したげるよ!!」
 カンナが、チェーンを地面に叩きつけながらいった。
「おう! 俺たちだって、最後の意地をみせてやるぜ!! ステラレの街をくれても、プライドまでくれるつもりはないぜ、ベイビー!!」
 盗賊たちは、破れかぶれの心境で、気合をあげた。
 街を巡る闘いには敗れた。
 このままこの街を去るのも惜しい。
 もう、何だってやってやる!!
 崖っぷちなど怖くないと、盗賊たちは思った。
「さあ、勝負開始だよ。レディィィィィィゴォォォォォォォォ!!」
 学人の合図で、バイクはいっせいに走り出した。
 ぶおん、ぶおん、
 ぼんぼぼ、ぼんぼぼ
 ぷあああああ
 やかましい音をたてながら、それぞれのバイクが崖の縁へと突っ込んでいく。
「うおおおおおおぉおぉぉぉ!! 崖なんか怖くねえ!! 怖くねえんだよ!!」
「みていろ!! 俺たちがまったくビビってないことを思い知らせてやらるぜぇ!!」
 盗賊たちは、絶叫をあげながら、バイクを疾走させた。
「おお、すごい気合だね。面白い勝負になったじゃないか。さあ、ここだね!!」
 ローズも、バイクを疾走させ、際どいみきりで、崖の縁ぎりぎりで停車させた。
 ざざっ
 バイクの前輪が崖からはみ出すが、まさにぎりぎりで停車することに成功した。
「どうだい? あれ?」
 ローズは、驚きに目を見開いた。
「怖くねえんだよぉ!!」
「俺たちは度胸あんだよぉ!!」
 絶叫しながら、盗賊たちのバイクは崖から飛び出して、奈落の底へと転落していったのである。
「まさか、勝負の内容、勘違いした? 本当に死んじゃったらダメだろが。せっかく更生させようと思ったのに。度胸があるっていうより、ただのバカだな」
 ローズは、呆れた。
「うーん、こういうことになりそうな気もしてたけど。とりあえず、総長の勝利!!」
 学人も、苦笑した。
「とあー!! とあー!!」
 シンは、ついに素振り100回を達成した。
「死んじゃったら、治せないね」
 カンナはため息をついた。
 そして。
 ちゅどーん!!
 ちゅどーん!!
 崖下から、バイクの爆発音があがった。
 こうして盗賊たちの生き残りは、全員が残らず崖の下に気違いじみた特攻を企て、自滅していったのである。
「まあ、勝利は勝利だ!! 苦零示威死亞悶弩の力、恐るべし!! ってことで!!」
 ローズは、空に向かってVサインを送ってみせた。