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種もみ女学院血風録

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種もみ女学院血風録

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第4章 皆で特訓!

 体験入学の特訓コースを行う面々は、塔の下層部に集まっていた。
「う、わぁ……」
 白百合団で、団長秘書を努める秋月 葵(あきづき・あおい)は、団長の風見 瑠奈(かざみ るな)と一緒に、訓練メニューを眺めながら、冷や汗を流す。
「何度見てもこのメニュー……諦めさせる為だと思うけど……ハードすぎますよね」
「うん。朝練メニューだけでも、一般人にはこなせないわよ」
 困り顔で小さな声で話し合う2人を見て、崩城 亜璃珠(くずしろ・ありす)は大きなため息をついた。
「しり込みする生徒どころか、瑠奈ちゃんまで引いてるじゃない」
 ここにはいない誰かさんを思い浮かべながら、亜璃珠はメニューに手を伸ばす。
「出来ないっていうのなら、代わりに私が先導してあげてもいいのよ」
 と言いメニューを見て亜璃珠は少し後悔。
 自分が以前もらったダイエットメニューの数倍厳しいメニューだった。
「でもそう……決してやってなかったというわけではありませんの。ちゃんとやってたのよ去年の夏から。上手く説明できなくて、言い回しを曖昧にしていただけなの!」
 亜璃珠は必死に一人で誰かに言い訳をしている。
「崩城さんは、神楽崎先輩とこのような特別訓練、やっていたのですか?」
「……優子さんとはやってないけど。似たようなメニューは貰ったことがありますの」
 とにかくその時の成果を見せつける良い機会だと、亜璃珠は一人気合を入れる。
「セット数はおいておいて。トレーニング自体はさして困難なものではないわね。筋トレは鍛えた一般人でも普通にやる程度のものだし。段差が邪魔になるだけで縄跳びやらもそれほど苦にはならないかもね」
「そうですか。それなら崩城さん、パラ実の皆さんにお手本をお願いします。でも……バンジージャンプも大丈夫ですか?」
「ん? パンジージャンプは一番体を使わないと思うけど」
「あ、大丈夫ならいいんですっ。頑張ってください」
「ええ」
 瑠奈はどうもその他のメニューより、バンジージャンプに戸惑いを覚えているようだ。
(なんで躊躇するのかしら? 服が乱れるから? それともまさかねえ……ふーん?)
 亜璃珠は団員達と相談をしている瑠奈を楽しげに眺める。
 抱き抱えて一緒に跳んだら……面白いモノが見られるかもしれない。
 そんなことを考えながら。
「お嬢様の訓練なんざ、あたしらには楽勝だね」
「ヒャッハー! とっととやって、お茶の時間にしようぜェ! 百合女は1日の半分はティータイムなんだろ〜」
 訓練には様々な格好のパラ実女子も男子も集まっていた。
「……なるほど」
 樹月 刀真(きづき・とうま)が、亜璃珠の手からメニューをとって、内容を確認しパラ実男子に目を向ける。
「これ百合園女学院用のメニューなんだから女性用だろう? 野郎は1.5倍の15セットじゃないと釣り合わないな」
 ぴらりとメニューをパラ実生に見せる。
「……アンタ達だってそう思うだろう?」
 威圧感を与えながらそう言うと。
「う……よし。それでもいいぞ」
「楽勝だぜ、ヒャッハー!」
「早く終わらせてティータイムだぜェ! ヒャッハー!!」
 男子達はしり込みも、引きもせず、歓声をあげていく。
「威勢いいのね。どこまで続くかしら? さあ、始めますわよ」
 亜璃珠が上着を脱いで、まずは腹筋から始める。
 刀真も、肉体の完成や金剛力といった力を以て、素早く淡々とこなし始める。
「1、2、3、100!」
「1、5、10、100!」
 ……その間に、パラ実生男子がものすごい速度で終わらせる。
「あ、あの……4回しかやってないですよね?」
 瑠奈が控えめに声をかけると。
「3の次は、100だ!」
「10の次が100だろ」
「いや、5の先は無限だから、いくつでもいいんだぜェ!」
「ええと……」
 パラ実生はまともに数字が数えられないのである。
 なので、100回はいとも簡単にこなせるし、1、5倍はなんのことだか分からない。さっぱり分からない!
「そんじゃ、種もみの塔往復してやるぜ!」
「行くぜ、縄跳び! ヒャッハー!」
 そして、スパイクバイクに乗って、縄を振りまわして階段に打ち付けながら、屋上へと向かっていく。
 ……。
「ううっ、99……100っ!」
 そんな中、先に始めていた1人の百合園生が、腕立て100回を終えて、ぺたんと床に体をつけた。
「はあ……はあ……っ。こんな、訓練メニューがあるなんて……神楽崎先輩はいつもこんなメニューをこなしてるから強いんだね」
 少し休んだ後、その百合園生――白百合団副団長補佐のレキ・フォートアウフ(れき・ふぉーとあうふ)は、今度は背筋を始める。
「白百合団員としてやらなくちゃ……やってみせるよ!」
 副団長補佐として、逃げるわけにはいかない。
 1セット目ではない。
 レキは誰よりも早く訪れて、誰よりも早く訓練を始めたため、既に9セットを終えていた。
「13、14、15、16……本気で訓練メニューだと思っておるのだな」
 数を数えてあげながら、ミア・マハ(みあ・まは)は苦笑する。
「1、2、3、5、9、4……」
「1、2、3、3、3、100」
 レキの周りには、パラ実の男子生徒も集まっていた。
 ゆっくり一緒に筋トレをしている。
 カウントが間違っているのは、数えられないからか。それとも……。
「うおおおう、ろく。うあはははは、はち。ぐへへへへ、きゅう」
「ふゃー、はち。ひゅぅー、ううう」
「床になりてぇ」
 背筋をするレキに夢中だからか。
 着ているTシャツとスパッツは汗でぬれて体にくっつき、レキの豊満な肢体がくっきりと表れている。胸が床に触れて、そしてまた弾けて、床に落ちて。
「ごごごごー。ややややー、ふへへへへほー」
 同じように上下してパラ実生は彼女の胸を追っている。
「お主ら、どこを見ておるのじゃ?」
 ペシーンと、ミアがパラ実生の頭を叩いて行く。
「おっぱい!」
「ましゅまろ!」
「にくまん!」
 パラ実生達はそう答えて、レキを見続ける。
「ったく……まあ、よかろう。一応やる気が出ているようじゃしの」
 レキと一緒にちゃんと?こなしているのだ、彼らは背筋を。
「くぅうう、頑張りましょう。ホント……ハード、ですね」
 蒼空学園の御神楽 舞花(みかぐら・まいか)も、体操服姿で、訓練に参加していた。
 歴戦の生存術、野外活動、生存戦略などのスキルを駆使して、どうにか訓練についていっている。
「うん、いつも結構ハードだけど……っ、ここまでのは、ボクも初めてだよ。一緒に、頑張ろうね」
 背筋をしながら、レキは舞花に笑みを見せる。
「はい。皆さんと一緒に、全てこなせるよう、頑張ります……っ」
 舞花も笑顔で答えて、背筋を続けていく。
「頑張ってるな! よぉーし、俺が手伝ってやるぜぇ!」
「足持ってやるぜ!」
「俺は起こしてやるぜ〜! ヒャッハー」
 パラ実男子が、レキは舞花に近づいて足や体を触りだす。
「こりゃ! さぼっとるヤツはこうだぞ」
 ミアは体当たりでパラ実男子を舞花から離すと、稲妻の札を使って雷を落とす。
「ふぎゃー」
「ぎゃあああ」
「ぐふぅ……」
 一度は倒れたパラ実生だが。
「お、俺らはもう先は長くない」
「だから……っ、せめてキミの下敷きに」
「おれの手の平を涙とパイの受け皿にしてくれぇ」
 這いつくばってレキや舞花に近づいてくる。
「根性あるじゃないか。感心していいのやら。……女子に触れることは許さんぞ。一緒に訓練するだけなら、まあ、近づくことは阻みはせんがな」
 ふうと息をつき、ミアはハリセンを手に見守る。

「オアシスを何とかするために頑張ってるんですよね!? 百合園生の皆さんにパラ実生の皆さんの漢気を見せて、種もみ女学院を認めてもらえるよう、頑張ってください! ひゃっはーファイトですよ!」
 遠野 歌菜(とおの・かな)は挫けそうになっているパラ実生にリリカルソングを歌い、メイドヘブンで応援していく。
「う、うおー。びんびんだぜ!」
「疲れが吹っ飛ぶ〜。かなちゃんサンキュ☆」
 歌菜の周りには、パラ実の男子生徒が十人ほど集まっていた。
「一緒にゴールを目指しましょう♪」
 歌菜はオアシスのことを考えている彼らが、百合園に認めてもらえるよう協力しているのだ。
「しっかし、毎日こんな訓練してたら、授業中眠くなって女の子と仲良くなれないじゃないか」
「ただ拉致るだけじゃ持参金ついてこないからな」
「ただ拉致るだけなら、百合園生じゃなくてもいいんだよな。……可愛ければ」
「そうそう。優しければ」
「俺は元気な子がいい」
 パラ実生男子の視線が歌菜に集まる。
「さ、続きやりますよー。次はスクワットです」
 歌菜はスクワットを始める。
「さぁ、GO!GO!
 いち・に!
 いち・に!」
 歌菜に従って、パラ実男子達もスクワットを始める。
「いち、に」
「いち、にー」
 2までならだれもが数えられるようだ。
「イルミンの魔法少女……いいなぁ」
「百合園生より可愛いかも?」
 厳しい百合園生より、可愛く親身になってくれる歌菜に彼らは惹かれつつあった。
 視線が歌菜の顔だったり、綺麗な足だったり、胸元に集まっている。
 歌菜は気にせず、彼らを指揮する。
「声が小さいですよ〜☆
 さぁ、いち・に!!」
「いっちに、いっちに、歌菜ちゃん、もっと激しく! スクワットはこうやるんだぜー」
 パラ実生が大げさに上下し、足を振り上げる。チアダンスのように。
「え? そうでしたっけ」
「歌菜、信じるな」
 真似をしようとした歌菜を、パートナーであり伴侶の月崎 羽純(つきざき・はすみ)が止める。
「どうみても、お前のスカートの中を見たいだけだ」
「え……ええっ!? だ、駄目ですよ。そんなことを考えていたら! 真面目に特訓しないと、百合園の皆さんに嫌がられてしまいますよー!」
「へーい」
「そんじゃ、真面目にやったら、ご褒美弾んでくれよぉ」
「歌菜ちゃんだけ、オアシスの下宿先にご招待〜だ」
 そうパラ実生が言うと、羽純は特に感情を表さず歌菜を見る。
「ふーん。ご褒美の約束してやるのか?」
「え、ええっと……冷たいジュースくらい奢れますよ。羽純君の見ているところで。オアシスも、羽純君といっしょじゃないといけないです……」
「んじゃ、それでもいいぜ」
「カップルで移住してきて、子供沢山生んで活性化に協力してくれるんならそれでもー」
「よし、ご褒美はオアシスへの引っ越しと、種もみ女学院への転入だヒャッハー!」
「そ、それはちょっと……は、羽純君」
 困り顔で歌菜が羽純を見る。
「どうした、やめたくなったか? やめてもいいぞ。そろそろ……心配だしな」
 歌菜を案じて、羽純は言った。
「ううん、やり遂げます。ちょっと困ったことも仰いますけれど、皆さん本当にオアシスのことを考えてるみたいですから」
 彼らと共に立派にやり遂げて、百合園生に認めてもらうんだと、歌菜は変わらず頑張り続ける。
 本当は疲れていて体はとてもつらい状態だけれど。
 自分が辛い顔をしたら、皆も辛い顔になるだろうから。
(乙女は、顔で笑って心で泣くもの、なのですっ)
 歌菜は笑顔でパラ実生を指揮し続ける。