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アーリー・サマー・ニルヴァーナ

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アーリー・サマー・ニルヴァーナ

リアクション

1)


水上の町アイールにて。
博季・アシュリング(ひろき・あしゅりんぐ)は、
妻のリンネ・アシュリング(りんね・あしゅりんぐ)にエスコートされ、
この街を訪れた。

アーリー・サマー・ニルヴァーナの企画を聞いて、
「ニルヴァーナに行こう、博季くん!」と、
誘ったのはリンネの方だった。
もちろん、博季に断る理由はない。
リンネがデートの計画を作ってくれると言うので、
それを楽しみにしてきたのだった。

「アイールの町と言えば、ハーブ園だよね!」
アイールハーブ園で、
ハーブに囲まれていると、リラックスした気持ちになってくる。
リンネと博季は、手をつないで、ゆっくりと園内を散策した。

「私の故郷のイギリスでは、
ハーブを使った魔法も盛んなんだよ」
そう言って、胸を張ってみせるリンネを、博季は、優しいまなざしで見つめる。
「そうなんですね。
リンネさんが好きなハーブティーとかありますか?
いくつか買って帰りましょう」
「うん、お家でもお茶できるの楽しみだな!」
2人は、お土産に、ハーブティーを何種類か購入した。

アイールの町を散策した後、
2人は、連れだって、
北の果ての巨大な滝の壁「大瀑布」を訪れた。

「壮大な景色ですね……」
博季とリンネの距離がそっと縮まり、二人は肩を寄せ合う。
夕暮れ時。
滝の水音が、日常のいろいろなことを洗い流してくれるようだった。
そして、周囲の音をかき消して、
2人だけの世界を演出してくれるような。

「ねえ、博季くん」
ふと、リンネが、優しい声音で、夫を呼ぶ。
「5月と言えば、何があるでしょう?」
「5月、ですか?
ゴールデンウィークはもう終わってしまいましたし……。
うーん……」
考え込む博季に、リンネはふっと笑った。
「もう、自分のことだと、ちゃんと覚えてないんだね」
「え?」
「少し早いけど……お誕生日おめでとう、博季くん」
夕日の中、リンネの手には、
蒼いリボンのかけられたハーブの鉢植えがあった。

「これからも、私たちの愛がすくすく育っていくように、
一緒に育てていきたいの。
……ダメかな?」
リンネのサプライズに、
博季は、満面の笑みで答える。
「もちろん、いいですよ。
ありがとうございます、リンネさん」
「よかったあ!」
リンネも、笑顔を浮かべ、博季に抱きついてキスをする。
博季も、リンネを抱き寄せ、2人は、キスを交わす。
ゆっくりと、お互いの愛を確かめるように。

「ねえ、リンネさん、今、僕が、どのくらいうれしいか、
今日、この日を、リンネさんと一緒に過ごせて、どのくらい楽しかったか、わかりますか?」
「うん、私も、博季くんと同じ気持ちだから……。
とっても、とっても、うれしくて、
胸がぎゅっと締め付けられて、でも暖かくて……」
「ええ、そうです。
リンネさんは、人一倍かわいくて、人一倍優しくて、
誰かのために一生懸命になれる、僕の自慢のお嫁さんです」
「やだなあ、そんなに褒められたら照れちゃうよ。
博季くんこそ、世界一、優しくて、世界一、かっこよくて、
世界一、私のことを愛してくれる、
私の自慢の旦那様だよ」
「ふふ、リンネさんたら」
「あはは」
2人は、夕焼けを受けながら、笑った。

「今度は、僕の番ですね。
結婚記念日、楽しみにしてて」
「え、どんなこと考えてるの?」
「ふふ、秘密」
「えー、気になるよ」
「今日とってもうれしかったから、今度は、僕の番。
だから、楽しみにしてて、ね」
博季は、リンネの額にそっと口づけた。

「うん、じゃあ、楽しみにしてるね!」
リンネは、にっこりと笑ってうなずいた。

夕焼けの中、2人は、腕を組んで、ゆっくりと帰路につく。
「ねぇ、リンネさん。
……これから先、僕がおじさんになっても、お爺ちゃんになっても……。
こうやって、ずっと腕を組んで歩ける夫婦でいようね」
「うん、私がおばさんになっても、お婆ちゃんになっても、
ずっとずっと、一緒だよ!」
「うん、ずっと、ずーっと。
二人で一緒に、歩こうね。こうやって、少しずつ。
何があっても。何が変わっても。どんなつらい事があっても」
「もちろん。きっと、これから変わることがあるとしても、
それは、きっと、博季くんのこと、もっと好きになるってことだと思うし。
……だって、今、こんなに好きなんだもの。
きっと、もっともっと、どんどん好きになると思うんだ」
「リンネさん」
博季は、振り向いたリンネにそっと口づけた。
(ずっと、一緒に歩こうね。
こうやって、ずっと。
……ずうっと)