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第11章 クレープの対価

「そろそろお昼ネ〜。何食べようカシラ」
 空京の流行をチェックするために訪れていたキャンディス・ブルーバーグ(きゃんでぃす・ぶるーばーぐ)は、街中を見回して、トレンディなランチを探す。
 ……でも格好が格好なので、高級店には入れてもらえないだろうし、むしろ1人ランチにそんなにお金は使えない。
 というわけで、百合園生が好みそうなものでも購入して、オープンテラスか公園で食べようかなと――クレープ屋に近づいたところ。
「あの顔……見たことある気がするネ」
 不機嫌そうな顔で、1人で飲み物を飲んでいる女性を発見した。
 キャンディスは、すぐにチョコバナナとチキンサラダクレープ、そしてドリンクを購入すると、その女性の所へと歩いて行った。
「コンニチハ、天学のパイロットさんね? これお近づきの印ネ!」
 そして、チョコバナナクレープを、女性に渡した。
「あなたは、ろくりんピックの……」
 顔を上げた女性――天学のサクラ・アーヴィング(さくら・あーう゛ぃんぐ)は、訝しそうな目でキャンディスを見る。
「ソウソウ。ミーはろくりんくんヨ。ヨロシクネ〜」
 言って、キャンディスはサクラの向いに腰かけた。
「あ、ろくりんくんさんですか、あの有名な」
 サクラはほっと息をついた。
「私はサクラ・アーヴィング。山葉 聡(やまは・さとし)のパートナーです。聡さんを迎えに来たのですけれど、電話がつながらなくて。ろくりんくんさん、聡さんを見かけませんでしたか?」
「見なかったネ〜。携帯電話の故障カシラ? ためしにミーの携帯に電話してみる?」
「はい、それではお願いします」
 サクラはキャンディスの電話番号を聞き、電話をかけてみた。
 ……普通につながった。
「繋がりますね。となると、聡さん……で ん げ ん を 切 っ て い る よ う で す ね」
 サクラはにっこり微笑んだ。
「何か電源を切らなければいけないようなことが、聡さんに起きているようですね。ふふ……」
 なんだかゾクリとくる微笑みだった。
 しかしすぐに、彼女は普通の表情に戻る。
「ろくりんくんさんは、今日はお買いものですか?」
 キャンディスにもらったクレープを食べながらサクラが問う。
「ソウネ。流行をチェックして、ろくりんピックの宣伝に組み込もうと思ってネ〜」
「活動熱心なんですね。流行を取り入れれば、より若者達が関心を向けてくれるかもしれませんからね」
「サクラさんも宜しくネ。聡さんにもよろしく伝えておいてネー」
「ええ、お伝えします。あ、このクレープの御代、お支払しますよ」
「いえいえ、イイのヨ〜。気になるのなら、ツーショット写真イイカシラ? ろくりんピックが近づいたら、宣伝活動に使わせてもらうタメヨ〜」
 キャンディスはサクラに近づくと、素早い動作で写真を撮る。
「ふふ、イコン競技もありましたら、面白そうです」
 撮影後、微笑みながらサクラは立ち上がる。
「それでは、私は聡さんを探しに行きます。ありがとうございました。また機会がありましたら、よろしくお願いしますね」
「ヨロシクネ〜」
 サクラは軽く頭を下げると、オープンテラスから道路へと、街の中へと消えていった。
 キャンディスは、サクラとのツーショット写真と、彼女の電話番号をしっかりちゃっかり携帯電話に登録したのだった。