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リアクション
4.初夏のデート
「まずは、あれね!」
遠野 歌菜(とおの・かな)は、伴侶の月崎 羽純(つきざき・はすみ)の腕を引っ張って、もう片方の手でアトラクションを指差す。
2人は今日、空京にあるデスティニーランドに訪れていた。
パンフレットを手に、園内を歩き。
真っ先に歌菜が指差したアトラクションは、そう。
「メリーゴーランド☆」
途端、羽純はそっぽを向いた。
「まずはそうだな、絶叫系の順番待ちだな」
「絶叫系はここからじゃ遠いし、今の時間は混んでるよ。だからまずは、ロマンチックにメリーゴーランド☆」
歌菜は羽純の腕を引っ張るが、羽純の口からは「絶対駄目」という言葉が発せられる。
「……いいじゃない〜!」
ぐいぐい、歌菜は羽純の腕を引っ張り続ける。
「白馬に乗った羽純くんが見たいの! 見たいったら見たいの!」
「〜〜〜〜〜〜」
ちらりと羽純はメリーゴーランドに目を向ける。
見るだけで恥ずかしくなってしまう。自分が乗っている姿を思い浮かべるとなおさら。
でも、歌菜はその姿が見たいわけで。
「はーすーみーくーん。乗ろう、いや乗ってお願い!」
子供の様に駄々をこねる歌菜に、羽純は深く息をついて。
「わかった」
しぶしぶ頷いた。
「やった! ありがとう!」
歌菜は笑みを浮かべて、羽純をひっぱりメリーゴーランドへと向かった。
羽純は歌菜の希望で白馬に。
歌菜は馬車に乗って、羽純の方に目を向ける。
「あぁ、やっぱり羽純くんの白馬、似合うよ☆」
メリーゴーランドは女の子のロマンだよね、と思いながら。
うっとり、歌菜は羽純の姿を眺める。
「……」
恥ずかしいのか、羽純は目を逸らす。
「羽純くん」
でも、歌菜が名前を呼ぶと歌菜の方を見てくれて。
「似合ってる」
そう微笑みかけると、「……そうか」と、羽純も微笑した。
その瞬間!
「えいっ!」
歌菜はシャッターチャンスを逃さず、携帯で白馬の王子様☆の姿をぱちりと撮影した。
「コラ! 写真はヤメロ、恥ずかしいだろ!」
まさか撮られるとは思ってなかった羽純が抵抗するが、後の祭りだった。
「楽しかった」
歌菜は携帯電話を手に、嬉しそうに微笑む。
でも、羽純を少しうんざりさせちゃったかなと、歌菜は羽純の表情を窺う。
「次は選ばせてもらうぞ」
怒ってはいないようだ。
「うん、次は羽純くんの希望のところに行くよ!」
「ああ」
今度は羽純が歌菜の腕をひく。
どこに連れて行ってくれるのかなと、歌菜がわくわくしていると。
「ここだな」
羽純が立ち止まったのは、お化け屋敷の前だった。
「え? ここ……?」
歌菜はお化け屋敷がとっても苦手だ。
お化け屋敷は、人を脅かす為に作られたものだから。
怖いに決まってる。とにかく怖いのだ。
本当の幽霊はあんなに怖くはないはずだと、歌菜は思う。
「希望のところに行くって言ってたよな?」
「うう……っ」
羽純は、歌菜のお願いを聞いてくれたのだから。
自分もこれくらいは我慢しなきゃと、拳を握りしめて、歌菜はこくんと頷いた。
入る前から足が震えている。
羽純はそんな歌菜をちらりと見て、心の中で微笑む。
自分の手をぎゅっと握りしめて、小刻みに震える彼女の様子に満足しながら、羽純は足を進めて、お化け屋敷へと入る。
「きゃーーーっ」
血だらけの包丁をった足のないお化けが接近し、歌菜は必死に羽純に抱き着いた。
対して羽純は軽く笑い声をあげた。
歌菜の怖がる姿が、とっても可愛らしくて羽純は大好きだ。
勿論、危険のない場合限定だけれど。
作りもののお化けからなら、いくらでも守ってあげられる。
「うううっ、羽純くーん。あ、いやーーーっ」
近づいたお化けの身体が腐りだす。
歌菜は目を閉じて羽純の体に顔を押し付けた。
「ほら、出口はもうすぐだ」
羽純は歌菜の体に腕を回して、一緒に出口へと歩く。
「あ、はははは……」
お化け屋敷から出た後、歌菜は照れ笑い。
思い切り悲鳴をあげてしまったせいで、他の客を余計に怖がらせてしまったかもしれない。
「怖かった……でも」
嬉しかった。
抱き着いた自分を、羽純は剥がそうとしなかったから。
最後までしっかり抱いて、出口まで行ってくれたから。
歌菜はふふっと1人笑みを浮かべた。
メリーゴーランドとお化け屋敷は、互いに、相手の姿を見て、自分が楽しむ為に選んだアトラクションだった。
互いに、相手が幸せに感じれば、自分も幸せだから。
顔を合せて、2人は微笑み合った。
「次は……ジェットコースター」
「ジェットコースター!」
2人は同時に行って、どちらが手をひくわけでもなく、一緒にジェットコースターへと向かった。
スリルを楽しみ、大きな声をあげてすっきりして。
それから、ショーを楽しんで、お昼を食べて。
空中ブランコに、海賊船に乗り。
イベントの宝探しをしたり。
一日中思い切り楽しんだ後。
夕焼けに染まる園内を、観覧車の中から一緒に眺めて……。
優しい、口づけを交わした。
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