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お月見の祭り

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お月見の祭り
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 ザカコ・グーメル(ざかこ・ぐーめる)は、アーデルハイト・ワルプルギス(あーでるはいと・わるぷるぎす)を誘って祭りに来ていた。
 今日のアーデルハイトはザカコがプレゼントした、黒地に白兎がワンポイントとして入った浴衣を着ている。
「普段と違う、落ち着いた浴衣姿も凄く似合っていますね。素敵ですよ」
「そうじゃろそうじゃろ。良い柄を選んでくれたの」
 アーデルハイトは自身の着た浴衣を眺め、嬉しそうに笑った。
「今年は竹林でまったりと散策をしてみましょうか。和風の竹林はいつもと違った趣がありますしね」
 ザカコはアーデルハイトと手を繋ぎ、竹林の方へと歩いていった。
「道が狭いですね、躓かない様に気を付けていきましょう」
「うむ。じゃが、そういうところもまた情趣の感じられる散策路じゃの」
 アーデルハイトが躓いて転ばないよう、ザカコはゆっくりと歩調を合わせながら歩いた。そのこともあって、いつもよりも二人は距離が近い。
 ザカコは内心、少しドキドキしながらアーデルハイトを見た。アーデルハイトは足元を少し気にしながらも、竹林の間を抜けていく風を心地良さそうに受けている。
「月も綺麗ですが、アーデルさんも綺麗ですよ」
「そうじゃろそうじゃろ!」
 そう言ってアーデルハイトは、機嫌良さそうにザカコの言葉を受け止めた。

 しばらくの間散策を楽しんだザカコとアーデルハイトは、散策路の途中にある東屋で休息をすることにした。
「お月見と言えばお団子に月見酒ですからね。勿論用意していますよ」
「うむ、ちゃんと分かっておるの」
 満足そうに
「今年も色々と大変な事があったりしましたが、こうしてまた一緒にお月見を出来て良かったです」
 ザカコは、団子を頬張りながら空を見上げた。一年前に見た月と、同じ月。
「去年は初めて月を楽しんだわけじゃが、こうして改めて月を眺めていると、改めて良い風習じゃと感じるの」
 だが、ザカコにとっても、アーデルハイトにとっても、一年前とは見え方が違った。それは、二人の関係が確かに変わってきたからだろう。
「来年もこうしていられたら良いですね」
「来年も美味しい酒と団子を用意して、月を愛でたいものじゃ」
 ふと、ザカコは手元に視線を落とした。そこには、たいむちゃんたちがついた餅がある。去年は、アーデルハイトと一緒に食べることのできなかった、月ウサギの餅。
「そう言えばお餅も貰ってきていますけど……」
 ザカコの手の中にある餅を、アーデルハイトは少しの間眺めた。
「……ひとつ、貰おうかの。半分じゃないぞ、一個じゃぞ」
 そうしてザカコとアーデルハイトは、つきたてのお餅を1個ずつ食べた。半分に割った餅ではなくとも、去年よりも二人の間の距離が縮まったことがザカコには感じられた。
「……アーデルさん」
 餅を食べ終えたザカコはアーデルハイトの名を呼び、そして、ぎゅっと抱き締めた。
「今だけはこうしていさせて下さい……愛しています」
 ザカコの言葉には応えず、アーデルハイトはその腕に黙って体を預けていた。

 ……しばらくの後、アーデルハイトはザカコの背中をぽんぽんっと優しく叩いた。
「こうして一緒に月が見られて、本当に嬉しく思っておるのじゃぞ」
 そう言ってアーデルハイトは、軽くザカコの体を押してそっと身を離した。
「これからも、色々なところを回れるとよいのう」
 ザカコはアーデルハイトの呟きに頷いて、空を見上げた。まだしばらく、二人を包む温かな空気は東屋の近くを漂っている。