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リアクション
犬耳カチューシャと尻尾で仮装していた、
天苗 結奈(あまなえ・ゆいな)は、
友人のイングリット・ネルソン(いんぐりっと・ねるそん)にじゃれついていた。
「わんわんっ!」
「きゃ、結奈さん!?」
結奈は、イングリットに、子犬のように飛びついた。
「わんわんわんっ!」
「ちょ、結奈さん、ダメですわっ……」
結奈は勢いに任せて、イングリットを押し倒すと、
顔をぺろぺろとなめようとする。
「いけませんわ、淑女たるもの、そのようなこと……!」
「わんわんっ!」
たしなめようとするイングリットだったが、
結奈は聞いていない。
「ダメですわ、そんなことなさっては。
はしたないですわよ。めっ」
なんとか座って、結奈と視線を合わせて、叱るイングリットだが。
「くぅん?」
うるうるとした瞳で、結奈はイングリットを見つめる。
「そ、そんな悲しそうな顔しないでくださいませ」
イングリットは、結奈の様子に、困った顔であった。
「わんわん!」
「わかりましたわ、一緒に遊べばいいんですのね。
でも、その、わたくしの顔をなめたりはなさらないでくださいね」
「わん!」
結奈はイングリットの周りをぐるぐるとまわって、
うれしそうな笑顔で言った。
「わんわんっ!」
「あ、結奈さん、待ってくださいませ!」
いつもは活発なイングリットだが、
今回ばかりは結奈に振り回されているようであった。
「大変なことになっているな」
犬化した結奈と、イングリットの様子を眺めながら、
衣草 椋(きぬぐさ・りょう)が、
同じ新入生である、遠山 陽菜都(とおやま・ひなつ)に話しかける。
「そうね、パラミタのハロウィンってすごいのね」
陽菜都が、感心したように言った。
「椋も人の事言えないヨ」
一方、アイン・オルタナティブ(あいん・おるたなてぃぶ)が、
パートナーにツッコミを入れる。
「充分、大変なことになってるネ」
アインの言うとおり、
椋も、魔女の仮装のミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)の姿に変身してしまっていた。
「たしかに……元に戻れるのかしら」
「どうなるんだろうなあ。
よもや仮装したらこーなるとは恐るべしってか?」
「私、もし、目の前の人が男の人に変身してしまったら、
殴ってたかもしれない……」
「物騒だな、おい……」
そんな会話をする、陽菜都と椋であったが。
「俺は、実際にはミルザム本人って見たことないんだが」
椋がそう、つぶやいた時であった。
「あ、あれを見るネ!」
アインが、注意を促す。
すると、そこには。
「わおおおおおおおおおおおおおおーーん!」
犬耳姿のシリウス・バイナリスタ(しりうす・ばいなりすた)が、
こちらに向かって走ってきていた。
「あ、あれって!?」
「まさか、本物のミルザム・ツァンダか?
……犬化してる!?」
陽菜都と椋が驚きの声をあげる。
シリウスは、一瞬、魔女の姿のミルザムになっている、椋の方を振り返るが。
「わおおおおおおおおおおおおおおーーーーーーーーーーーーーーーーーん!!」
すぐに、偽物だとわかったらしく。
別の方向に走っていく。
その先には、本物のミルザム・ツァンダ(みるざむ・つぁんだ)の姿があった。
「え、もう一人!?」
「皆、ミルザムさんになってるのかしら!?」
椋と陽菜都たちは、再び驚く。
「わんわんっ」
「ま、待ってください、結奈さん!」
散歩中に他の犬を見つけた犬のようになっている結奈をイングリットが押さえつけている。
「大変だな、あっちも」
「いや、だから、人の事言えないって言ってるヨ」
冷静な椋に、アインが言った。
「そんなこと言っても、こうなったからにはしかたないだろ」
「って、そもそもなんでそんな格好したのヨ」
「ハロウィンだからだろ」
「あはははははは……」
そんな漫才を繰り広げる椋とアインに、陽菜都が苦笑していた。
「ねえ、気を取り直して、パーティーを楽しまない?
ひとまず、実害はないようだし」
「そうだな。料理もお菓子もあるしな」
陽菜都が椋たちに言い、
一行は、パーティーの料理やお菓子、飲み物などを楽しむことにした。
「わんわん!」
「結奈さん、お皿から食べてはいけませんわ……。
しかたないですわ。
はい、あーん」
「わんっ」
イングリットは、結奈にお菓子を食べさせてあげていた。
そのころ、シリウスは、ミルザムへと抱きついていた。
「わおーん!
わんわんわんわん!!」
(ミルザム!!
ミルザム!!
ミルザム!!
オレのご主人様!!)
「シリウスさ……きゃっ!」
シリウスは、ミルザムを押し倒していた。
まるで、大型犬が飼い主に甘えるように。
「きゅーん、きゅーん……」
そして、泣き声のような声を出し、
シリウスがミルザムに抱きつく。
(寂しくて、怖いんだ……ミルザム……一緒にいてほしいんだ……!
離れたくないんだよ……!!)
「シリウスさん……」
ミルザムが、そっとシリウスを引きはがそうとするが、
シリウスはいやいやをして、子犬のような瞳で見つめる。
それは、大切なものを失いたくないという恐怖。
あるいは、幼いころから、孤児として育ち、
孤独への恐怖を感じたり、寂しさから愛情に飢えていた、
シリウスの、心の奥底の叫びかもしれなかった。
「……わかりました。
大丈夫ですよ」
ミルザムは、シリウスに穏やかな笑みを浮かべ、
優しく抱きしめて落ち着かせる。
寂しがって不安になっている子犬を、落ち着かせるかのように。
「シリウスさんは、一人じゃないです」
ミルザムは、優しく言った。
自分にそっくりなシリウスを抱きしめるミルザムの言葉は、
鏡写しになった自分にかけられた言葉だったのかもしれない。
かつて、孤独であったが、
多くの仲間に支えられたミルザムの、心からの言葉。
「くうん……」
シリウスは、ミルザムを見上げると。
「わんっ!」
やがて、笑顔になって、尻尾を振り始めた。
まだ、ミルザムを抱きしめたままだったが。
ミルザムも、それを見て、微笑を返す。
「元気になってよかったです。
パーティー、楽しみましょうね?」
なお、この件について、
元に戻った時に、シリウスに記憶があったかどうかは、本人のみぞ知る。
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