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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【12月のある日】


 横に並んだ二人が同じように目を丸くしながらぼんやりしているので、そんな顔で見つめられている破名・クロフォード(はな・くろふぉーど)の方が逆に驚いてしまった。
「クリスマスというのはそんなに重要な行事なのか?」
 名前くらいしか知らないイベントについて神妙な面持ちで質問を返したのは飛鳥 豊美(あすかの・とよみ)ジゼル・パルテノペー(じぜる・ぱるてのぺー)に対してだ。
 今日も定例で破名の運営する孤児院『系譜』へやってきた彼女達は、何時ものように子供達に手作りの差し入れ、魔法や歌で楽しませてくれた。そうして子供達が遊び疲れた昼寝の時間の今、応接室で手引書キリハ・リセンに紅茶を振る舞われていたのだ。
「クリスマスって言うのはね、地球のええと……」
「ある宗教の聖人の降誕を記念する日なんです。この辺りはきっとアレクさんの方が詳しいですね」
 豊美ちゃんにパートナーのアレクサンダル四世・ミロシェヴィッチ(あれくさんだるちぇとゔるてぃ・みろしぇゔぃっち)の名前を出されてジゼルは頷いている。
「特別な日だから、軍も基地も閉めて休暇になるの。お兄ちゃんは『うちは暦法違って1月だから関係無いって』言ってて――その辺良く分からないけど簡単に言うとお祭りなのよね」と、自身も確認する様に聞き直した。
「はいー。由来は兎も角、日本ではそんな感じですねー。
 家族や恋人、仲の良い皆で集まってご馳走を食べたりするんですよ」
「でも一番大事なのはプレゼントよね!」
 来るべき日に期待を滲ませるようなジゼルの大きな瞳に微笑んで頷いて、豊美ちゃんは破名に向き直りクリスマスの説明を続けた。
「――つまり子供達はその日に、プレゼントを貰えるのか……」
 考え込む様に眉を顰めた破名を一瞥して、キリハは紅茶のおかわりを注ぎながら口を開く。
「気になるのなら、こちらでも用意したらどうですか」
「プレゼントを? だがどんなものをあげたらいい? 俺はそういうのには疎いし……大体資金についても考えなければ」
「アレクさんから頂いている寄付があるでしょう。ただでさえ普段から切り詰めているんですから、たまに贅沢をさせてやってもバチは当たらないと思いますよ」
 人ごとのように平然とした顔で言うキリハに破名が言葉を詰まらせていると、豊美ちゃんがにっこり微笑んで「それじゃあ」と助け舟を出してくれる。
「手作りのプレゼントはどうですか?」
「うんうんっ、手作りなら破名の考えた通りのものがあげられるし、お金も抑えられるよね!
 流石豊美ちゃん!」
 ジゼルに素直な賞賛をぶつけられて照れ笑いをしている豊美ちゃんに、破名はぎこちなくも頷いている。近頃は人に甘えるという事に慣れてくれたような彼の態度に安堵して、豊美ちゃんは改めてこの件について考え直してみた。
(手作りのプレゼントというと、やはりお人形や縫いぐるみでしょうかー)
 すると頭の中に一人の少女の姿が浮かび上がる。
 かつて魔法少女体験イベントで仲良くなったクロエ・レイス(くろえ・れいす)。彼女の『親』であるリンス・レイス(りんす・れいす)はヴァイシャリー近辺に工房を持つ人形師だった。
 彼なら良い案を出してくれる――、ひょっとしたら人形の作り方などを聞く事が出来るかも知れない。
「私、いい人を知ってますー。連絡を取ってみますね」
 そんな風に話を終えて暫く、『豊浦宮』へ戻った豊美ちゃんは早速リンスへ電話を掛ける。


*...***...*


「こんにちはー」
「とよみちゃん」
 工房を訪れた豊美ちゃんの姿に、いち早く反応したのはクロエだった。座っていた椅子から立ち上がり、豊美ちゃんの許へと走り寄る。
「おひさしぶりだわ」
「お久しぶりです。お元気ですか?」
「げんきよ! どうしたの?」
 大きな瞳で見上げてくるクロエに、豊美ちゃんはにこりと微笑んだ。
「今日はちょっと相談がありましてー。リンスさんに、なのですが」
「……俺?」
 一拍の間を置いて、リンスが顔を上げる。彼の手元には可愛らしいぬいぐるみがあった。ああいうものをあげたら、きっと子供たちは喜ぶだろう。
「実は――」

 豊美ちゃんの話を聞いて、リンスは「ああ」と声を発した。いいんじゃないかな。そう答えようとしたが、それより早くクロエが言った。
「すてき。とってもすてき」
 言ってすぐ、クロエはぱっと振り返り、リンスのことを上目遣いで見つめた。
「ねぇリンス、おてつだいしましょう?」
 元より手伝うつもりだったし、クロエが乗り気であるなら断る理由なんてなくなる。リンスは小さく顎を引いた。
「もちろん」
 嬉しそうに笑うクロエの頭を撫でていると、豊美ちゃんが微笑んだ。
「引き受けてもらえて良かったですー。ありがとうございます」
「どういたしまして。じゃあ当日よろ――」
 挨拶を交わして話を終えようとした時、工房のドアがノックされた。
「ちわスー」
 ほどなくしてドアから顔を覗かせたのは、紡界 紺侍(つむがい・こんじ)だった。いいところに、とリンスは思う。たくさん作るなら、手伝ってくれる人がいた方がいい。
「あれ、今日はお揃いで」
 豊美ちゃんのことを見て暢気に声をかけている紺侍に、リンスは言った。
「紡界、手先器用だよね」
「は? えェまァ」
「手伝ってほしいことがあるんだけど」
「? オレにできることなら」
「ありがとう。ええとね――」
 こうして、話は順調に進んでいった。