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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—

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一会→十会 —指先で紡ぐ、聖夜の贈り物—
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【拘りを持つことも大事】


「リンスさんクロエちゃん、久しぶりに会えて嬉しいわ」
「わたしも! ……? ねぇ、ルカおねぇちゃん。いいにおいがするけど、なぁに?」
 抱きしめたクロエに指摘されて、ルカルカ・ルー(るかるか・るー)が流石ね、とお土産に持参したフォンダンショコラの入った包みを見せる。
「どう? 料理の腕もかなりのものになったでしょう」
「手作り? すごいね」
「自分で言うな、自分で」
 上機嫌な所へダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)の手痛いツッコミを食らい、ルカルカが痛そうに頭をさする。
「でも、自信作なの。人形を作りながらみんなで食べましょう」
「そのときはわたし、おちゃをいれるわ!」
 和気あいあいとしながら、中に入ったルカルカとダリルは早速、プレゼント作りを始める――。

「それで、ルーは何を作る予定なの?」
「金団長モデルのと羅参謀長モデルの人形よ。写真は用意してあるから、これを参考に頑張って作りたいの」
 そう言ってルカルカが、教導団の団長を務める金 鋭峰(じん・るいふぉん)羅 英照(ろー・いんざお)の画像データから写真にしたものを置く。その中にはいつ撮ったのだろうと思いたくなるシーンも見えたような気がしたが、まあ、詳しくは触れないでおこう。
「リンスさんにアドバイス貰って、服もなるべく再現したいの。だから拡大鏡も持ってきました!」
 やる気アピールを見せるルカルカに、リンスはまず自分でやってみて、詰まったら言ってくれれば答えるよ、と告げる。
「そうね、その時はお願い。じゃあ、やってみますか!」
 気合いを入れて、ルカルカが作業に取りかかる。
(さて、俺の方はリリアに贈るプレゼントのデザインと仕様書を作ってしまうか)
 ルカルカが制作に勤しんでいるのを横目に、ダリルは端末を開いてプレゼントのデザインを作り上げていく。実際の作業はここでは難しい所もあるため、今日の時点では仕様とデザインをまとめるつもりでいた。あくまでメインは、ルカルカの人形作りである。
(……ふむ、こんな所か。どれ、ルカの方は……)
 一通りの作業を終え、ルカルカの方を覗くと、小物の再現に苦戦しているようだった。時折うーん、うーんと唸りながらも決して助けを求めようとしない所に、ダリルはルカらしいな、と微笑ましく思う。
(まったく。リンスも言ってくれたらアドバイスすると言っていただろうに)
 心に呟いて、ダリルは口を挟む事にした。
「小物、手伝おう」
「えっ、でも……」
 自分でやり遂げたい思いがあるのだろう、ルカルカが渋るような表情を見せる。
「団長の服は装飾品が多い。ルカ一人では今日中は難しいだろう。完成できなかったらリンスの迷惑になるからな」
 ルカルカを説得するつもりでダリルがその言葉を口にすると、ルカルカはふふっ、と吹き出すように笑い、たまたま傍に居たクロエに小声で話しかける。
「クロエちゃん、今のダリルを『ツンデレ』って言うのよ」
「つんでれ? ダリルおにぃちゃん、そうなの?」
「変な事を吹き込むなっ」
 本日二度目のツッコミを食らって、ルカルカが頭をさする。
「バカになったらどうするのっ」
「この程度で馬鹿になる頭してないだろう?」
「ほ、誉められてるのか貶されてるのか分からないわ……」
「安心しろ、誉めている。複数の意味で」
「安心できないわ!」
「……とにかく、作業を進めてしまうぞ。心を込めた、かつちゃんとした贈り物を作るんだろう? なら、時間は無いぞ」
「はーい。じゃあダリル、ここの所はお願いね」
 ルカルカとダリルが作業を分担して、人形の仕上げに取り掛かった――。


*...***...*


 いつものように人形工房をふらりと訪れたら、なにやらひとがたくさんいた。リンスに何があったのかと尋ねると、孤児院の子に贈るプレゼントをみんなで作っているのだと言う。
「人手があれば助かるから、よかったら雷霆も手伝ってくれない?」
 続けて言われたお願いに、雷霆 リナリエッタ(らいてい・りなりえった)は目を輝かせた。
「いいんですか?」
「うん。こういうの、好き?」
「好きです。可愛いものも、作るのも」
「へえ」
「愛のこもったものを贈られると、本当に幸せな気持ちになるじゃないですか。だから私、手作りの物を贈るのも好――って、私ったら何を語って……! すみません!」
 ついつい溢れてしまった気持ちに恥ずかしさを覚え、リナリエッタは頭を下げた。リンスの前だと、なぜか普段よりも素直な言葉が出てきてしまう。毎回そうで、それを恥ずかしいとも思っているのに抑えられない。きっと、リンスが受け入れてくれているからだと思う。
 そんなことを考えていると、ぽつりとリンスが言った。
「俺より向いてそう」
「え?」
「雷霆、いい気持ち持ってるよ。きっと素敵な物が作れる」
「えっ、えっ……。あっ、あの、ありがとうございます。頑張ります……!」
「うん。わからないところは教えるから。詰まったら訊いて」
 はい、としっかり頷いて、リナリエッタは材料の置かれたテーブルへと向き直る。
 何を作るかは迷わなかった。話を聞いた瞬間に、女の子向けの人形にしようと決めていたからだ。
 着せ替えたり、髪の毛の手入れをしたり、おままごとをしたり――毎日遊びたくなるような、そんな可愛いものを作りたい。
 とはいえ、リナリエッタは人形作りに関しては素人だ。わからない箇所も多い。そのたびにリンスを呼び止めた。二度同じところを訊かないようにとメモを取り、熱心に進める。


 リナリエッタが人形作りをしている間、アドラマリア・ジャバウォック(あどらまりあ・じゃばうぉっく)は人形のための衣装作りに励んでいた。
 贈る対象が少年少女ということで、デザインはシンプルなものにしてある。多少元気に遊んでしまっても洗ったりできるように。
 洗濯しても型崩れがしにくいように工夫をし、遊び心として、フェルトの飾りを貼り付けられるようにしておく。飾りも何種類か作った。これで、着せ替えるようにして遊ぶこともできる。
 服に派手さがない分小物類も作ろうか、と考えていると、南西風 こち(やまじ・こち)が服のはぎれを持って行くのが見えた。こちも何かを作るようだ。
 頑張ってくださいね、と心の中で応援し、アドラマリアは自分の作業に戻った。


 アドラマリアの出したはぎれを手にしたこちは、これで何ができるだろうかと考えた。生地はフェルトで、手触りからそれなりのものであることがわかる。
 これで、アドラマリアのように服を作る? それとも、リナリエッタが人形を作っているように、こちもフェルトで人形を?
 難しいだろうと思った。だってこちにはリナリエッタのようなきらきらしたことはできないし、アドラマリアのように素敵な仕立てもできない。
 でも、できることがひとつある。
 それは祝福することだ。
 フェルトを切って、ハートの形や星の形を作り、ほつれないように端っこを縫っていく。
 ひとつひとつに想いを込めた飾りを作り、たくさんできたら立ち上がる。
 きょろきょろと辺りを見回すと、その人はすぐに見つけることができた。
「ラッピングの人」
 呼ばれて紺侍が振り返る。
「オレ?」
「そうです。ラッピングのやり方を、こちに教えて欲しいのです。こちが包みますので」
 リナリエッタの作った人形と、アドラマリアの作った服と。
 こちが気持ちを込めたアップリケを包んで、渡してもらえたら。
「きっと、幸せになれるのです」
 弟妹が笑顔でいられますように。