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リアクション
「……なんだか、今でも信じられないな……セレアナとこうして結ばれるなんて……」
華やかなマーメイドラインのウェディングドレスを着たセレンフィリティ・シャーレット(せれんふぃりてぃ・しゃーれっと)は、小さな教会の式場を前にしみじみと呟いた。
「そうね、……けれど、本当に幸せよ」
Aラインのウェディングドレスを着たセレアナ・ミアキス(せれあな・みあきす)は静かに微笑み返した。
これから行うのはセレンフィリティとセレアナの、二人きりの式。
皆を呼ぶのは別の機会にして、今は二人だけで幸せを分かち合いたいと考えたのだ。
式を挙げる前はバタバタと忙しなく、今セレンフィリティが着ているドレスを選ぶのにも時間がかかった。
さっさとAラインのドレスを選んだセレアナは、そんなセレンフィリティを苦笑しながら見つめていた。
一生に一度の大切な日。節目の日。誓いの日。
セレンフィリティとセレアナが、恋人というくくりを越えて、互いに分かつことのできない、新たな二人となる日。
そんな大切な日だからこそ、セレンフィリティには一番似合うドレスを探したいという想いもあった。
最終的に今着ている純白のウェディングドレスに決まってからは、すぐに式を挙げることとなった。
「…………」
いざ、衣装を着て教会の扉の前に立つと、セレンフィリティは珍しく緊張していた。
ちゃんと誓いの言葉が言えるだろうか。指輪交換ができるだろうか。
セレンフィリティは六年前の、セレアナとの出会いを思い出す。
まだセレンフィリティがセレアナを拒絶していた時。初めてセレアナに心を開いた時。
そして、今、セレアナが決して離れることのできない相手になるまで……本当に様々なことがあった。
(これって現実? それとも……夢?)
過去の記憶がちらついて、不安が押し寄せてくる。
そんなセレンフィリティの腕をセレアナは取って、何も言わずにエスコートした。
セレンフィリティの緊張も、不安も、全てセレアナは見通していた。
「大丈夫よ……言ったでしょ? 私があなたを幸せにする、って……」
式場を一歩一歩踏みしめるように歩きながら、セレンフィリティは胸に暖かい気持ちが浮かぶのを感じていた。
今でもセレンフィリティの胸には、過去の記憶が刻み込まれている。それを拭い去ることなんて、できない。
そんなセレンフィリティを、セレアナは受け入れた。そして、傍にいる。
これからも、傍にいてくれる。
(……幸せになっても、いいんだ)
セレンフィリティの目に、熱いものが込み上げてきた。
(幸せになることを、許されたんだ……)
いつの間にか、セレンフィリティの目から大粒の涙がこぼれ落ちていた。
「セレン」
セレアナが、静かにセレンフィリティの名を呼ぶ。
わがままで、大雑把でいい加減で気分屋。本当に手がかかると感じる一方で、自分の気持ちにあれだけ素直に生きられるセレンフィリティに、セレアナは心を惹かれた。
セレアナにとってもセレンフィリティでなければ、一緒に生きられない。
「セレアナ……」
二人は互いを呼び合った。
「良き時も、悪き時も、富める時も、貧しき時も、病める時も、健やかなる時も、共に歩み、他の者に依らず、死が二人を分かつまで、愛を誓い、これを想い、これのみに添うことを、神聖なる婚姻の契約のもとに誓います」
誓いの言葉をセレンフィリティとセレアナは交わす。この幸せが、ずっといつまでも続くように。
セレンフィリティだけでなくセレアナの目からも、涙が零れ落ちていた。
(こんな幸せな涙なら……止まらなくていい)
セレンフィリティとセレアナは、お互いを確かめるように口付けを交わした。
二人を祝福するように、教会の鐘が鳴り響いていた。