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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア

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終わりなき蒼空、涯てることなきフロンティア
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リアクション


●宇宙船『フロンティア』の出立

 時間がかかったものだ。
 それだけ綿密な計画だったからということもできるが、この際だからぶちまけてしまうと、資金不足で何度も頓挫しそうになり、それでもそのたび立ち上がって、汗と涙で実現した計画だったから、というのが真実に近い。
 だが過程はもういい。
 実現したこと、それをまず祝おうではないか。
 見よ、計画立案から十数年、本当に長い、曲がりくねった道のりを経て、今ようやく葛城 吹雪(かつらぎ・ふぶき)の計画はここまでたどりついたのである!
 ゆえに聞け、吹雪の魂の叫びを。血が滲むような思いを込めたシャウトを!
「ついにこの時がきたであります」
 あの最後の戦いからこれだけの月日をかけ、いま、一隻の宇宙船は建造を終えて、これより処女航海に旅立つのである。
 本日が進水式なのだ。
 進水式であり、同時に、そのまま旅立つ出港式でもある。
 宇宙船は、新たに生まれた世界を探すために建造された船。冒険心に知的好奇心、そしてなにより開拓精神(フロンティア・スピリッツ)の象徴だ。
 ゆえにその名は『フロンティア』号という。
 あの最後の戦いから生まれた世界、関わった者なら誰もが一度は訪れてみたいであろうその地を探し訪れるため、吹雪が陣頭にたち、もてる資金と技術のすべてを集めて、ようやく出港にこぎつけたのでである。
 フロンティアの舳先に立っているのは吹雪だった。
 彼女の手には高級シャンパンのボトルがあった。古式ゆかしき方法にて、これで出航を祝うというのだ。
 吹雪に従うクルーは多数、皆、屹立してこのときを迎えていた。なかには万感の思いに胸が詰まったか、はらはらと落涙している者もある。
 吹雪の両脇には、頼れるパートナーコルセア・レキシントン(こるせあ・れきしんとん)鋼鉄 二十二号(くろがね・にじゅうにごう)の姿があった。
「コールドスリープ、ワープ航法その他もろもろ……よく集まったわねこんな技術」
 ひゅう、と首を縮めてコルセアは言う。
 やってみたいというのは簡単だけど、実現するのは本当に大変だった。吹雪のすさまじい努力に加えて奇跡的な偶然がそろった結果、この船には過剰なまでの最新テクノロジーが搭載されている。
「さて、すべての準備は完了、いつでも出航できるわよ!」
 手元の操作パネルをざっとチェックして、コルセアは会心の笑みを見せた。彼女こそ、この船の舵取り役なのだ。
 かつては常識人代表として、吹雪とそのパートナーたちの破天荒さを抑えるべき役目だったコルセアが、気がつけばその破天荒きわまりない旅の舵取りを行っている……この運命の変貌ぶりに、彼女自身、驚いているかもしれない。
 だが吹雪たちといればそれでいいのだ。それが楽しいのだ。この生き方を選んだことを、コルセアはまったく後悔していない。
 二十二号はその重々しいボディで甲板を踏みしていた。
 彼とて、心は木石ではない。達成感はある。
 だが同時に、彼は哀愁も感じていた。
「しばらく地球ともお別れだな……」
 ふと呟くのだ。
 このとき、二十二号の声に応じたかのように、船が振動をはじめた。
 そうして、ゆっくりと、滑るようにして動き出す。
「出航であります!」
 吹雪はシャンパンのボトルを、宇宙船の全面に叩きつけた。
 ぱっとボトルが砕けた。緑色のガラス片が粉々に散る。
 細片がきらきらと舞う中、
「さて今度は自分で自分のフロンティアを探してみせるであります!」
 吹雪は颯爽と、宇宙船の船室へと降りていく。
 多くの出会いがあった。少なくない別れもあった。その思い出は持っていこう。そして目指すべき大地で、また新しい思い出を作ろう。
「そうね、行きましょう」
 コルセアも続く。
 長い旅になるだろう。二度この星には戻らないかもしれない。だがそれでいい。それでも構わない。
 吹雪の他のパートナーやクルーたちがふたりを追った。
 二十二号は、最後にもう一度だけ、母なる星の大地を振り返った。直接目にするのは、これが最後になるかもしれない。
「…………」
 このとき二十二号は、かつて自分を作り出したあの博士のことを思い出し、数奇な運命によってこの場にいあわせたことに思いを馳せたのだった。
「だが我は……我々は、必ず戻るであろう。そのときまで……いざさらば!」
 かくて宇宙船『フロンティア』は唸りを上げ、宇宙空間目指して飛び出したのである。