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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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栄光は誰のために~火線の迷図~(第2回/全3回)

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 一方、その頃左翼側でも、黒装束と教導団の生徒たちとの戦闘が展開されていた。ただし、こちらは銃や魔法など遠隔攻撃が可能な生徒が多く居たため、右翼に比べて比較的優位に戦いが進んだ。
 「ここは通さん!」
 範囲魔法や広角射撃で黒装束が牽制されている間に、フリッツ・ヴァンジヤードは槍を横薙ぎに振り回し、バリケードの直前まで来た蛮族たちを屠って行った。
 「次、左手から来るぞ!」
 パートナーのサーデヴァル・ジレスンは、フリッツをヒールで怪我を回復させながら、次に蛮族が近付いてくる方向や手薄になっている方向をバリケードの上から指示する。
 「唯、上ですっ」
 紫光院 唯も、フリッツと同じように、パートナーのメリッサ・ミラーの助けを借りて戦っている。ほとんど相手の姿を認識しないままカルスノウトを振ったが、上から飛び込んで来た黒装束は器用に宙返りをし、唯と距離を置く。メリッサの声がなければ、そのまま攻撃されていただろう。着地したところを、金住 健勝が狙撃した。黒装束は後ろへ飛び退る。
 「そう簡単に抜かせるわけには行かないであります!」
 その背後では、健勝のパートナーの剣の花嫁レジーナ・アラトリウス(れじーな・あらとりうす)が、負傷者を後方へ運んでいた。
 「大丈夫です、すぐに治療します!」
 「レジーナ、バリケードに近い場所は安全とは言い切れないであります。気をつけて!」
 「はいっ」
 健勝の言葉に、レジーナは大きくうなずいた。

 レジーナが負傷者を運んで行った救護所では、クレア・シュミット(くれあ・しゅみっと)とパートナーの守護天使ハンス・ティーレマン(はんす・てぃーれまん)朝霧 垂(あさぎり・しづり)とパートナーの剣の花嫁ライゼ・エンブ(らいぜ・えんぶ)が、ネージュと共に懸命に治療にあたっていた。
 「ここは義勇隊も教導団も関係なしで、良かったぜ」
 火傷した生徒に包帯を巻きながら垂が言った。垂は義勇隊の治療役を志願していたが、教導団の生徒は義勇隊に入れない。しかし、怪我人の治療は教導団も義勇隊も区別なく一か所の救護所でされることになったため、垂はここで怪我人の治療に当たっている。
 「ああ。事実上の懲罰部隊扱いと聞いていたから、もっとひどい扱いをされるんじゃないかと心配していたが、意外と人道的だったな」
 クレアは頷いた。2名ほど、大量の発煙筒を持ち込んだり、勝手に突出して作戦のじゃまになりかけたりした生徒が居て拘束されたが、その他の他校生はほとんどが真面目に戦闘に参加していたせいもあり、今のところ林からも妲己からも、義勇隊の怪我人に対して薬をケチれとか、治療の順番を後回しにしろと言った命令は出ていない。
 「派閥だなんだと騒いでいる連中も居るみたいだけど、そんなこと俺の知ったことじゃ無い、他校生だろうが戦場で共に戦うなら、大切な仲間だもんな」
 垂が何の気なしに言った言葉に、クレアは眉を寄せた。まだ遺跡の中で探索を続けているヴォルフガング・シュミットは、義勇隊の扱いについてどう考えているだろうか? 遠いとは言え一応血のつながりがあるだけに、クレアはそれが気になった。もしもヴォルフガングが義勇隊の隊員たちを捨て石のように考えるなら、自分は……
 (クレア様は義勇隊に対して同情的すぎる。いつか、『白騎士は義勇隊と通じている』などという言いがかりをつけられるようなことにならないといいのですが……)
 ハンスは心配そうに、黙り込んでいるクレアを見る。
 「火炎瓶で火傷をした人や切り傷を負ってる人が多いみたいだけど、命に関わるような大怪我は今のところないみたいで、良かったね」
 そんなクレアとハンスに気付かないライゼは、ネージュと垂と顔を見合わせて微笑んだ。
 「あの、ヒールが使えないくらい疲れたら言ってくださいね? 癒しますから」
 ネージュの言葉に、ライゼとハンスはかぶりを振った。
 「ありがとう。でもまだまだ大丈夫だよ」
 「前回のように、ネージュさんに頼りっぱなしというわけにも行きませんからね。使いどころを考えてヒールしていますよ」
 仲間たちの様子を見て、クレアは大きく息をついた。今はとにかく、自分に出来ることを精一杯やるしかないのだ。
 「クレアさんは、大丈夫ですか?」
 ネージュの大きな瞳が、クレアの顔を覗き込む。
 「私はハンスやライゼのようにヒールを使って治療するわけではないからな。心配してくれてありがとう」
 ネージュに笑いかけ、クレアは治療を再開した。