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リアクション
第13章 恒例ロリコン談義・もしくはヒーロー談義
ハルカの祖父が再び空京に来る場合、彼の目的は、ハルカを捜すことにあるのではないかと影野 陽太(かげの・ようた)は考えた。
彼はハルカは空京にいると思っているのだろう。
まさか自分を捜して後方を追いかけているとは知らないでいるはずだ。
「これで、ミスドも回ったし、警察にも行ったし、ハルカが最初に泊まってたホテルにも行ったし……」
一応、観光案内所なる場所にも行って見て、一通り、チェックすべきところはしたと思う。
見付けることがあったら連絡が欲しいと、連絡先も伝えてきた。
「あ、このバナナケーキおいしそうだ」
ふと、見かけた店先のケーキを見て、ハルカが喜ぶかな、と思いながら、パウンドケーキとどちらがいいかなと迷いながらも、よし、お土産はこれにしよう、と考えた。
五条 武(ごじょう・たける)は、ハルカの祖父を同乗させ、途中まで乗せていた教導団のジープの生徒らに、ジェイダイトの様子を聞いてみた。
「何か、話してたことはなかったか?
何でもいいんだが……」
大海嘯の後、ジープが無事に回収できたことにほっとした生徒達とはそこで別れたが、もしも飛空艇を補足したら連絡が欲しいと頼んだら、
「ああ、別にそれくらい構わないぜ」
と、あっさり了承された。
「……下手な芝居で脅す必要がなくなってよかったですね」
背後で、ぽつりと、パートナーのイビー・ニューロ(いびー・にゅーろ)が皮肉を言う。
「うるせえ」
全くこいつは皮肉を言うのが趣味になっちまって……と、武は溜め息をついた。
「じいさんとは、世間話みたいなことしか話さなかったけどな。
ヒラニプラの名物は何だとか。ヒラニプラから空京へはどれくらいかかるんだとか、空京から先はどうなっているんだとか」
「女の方は、ひとっことも口きかなかったな……」
「空京? 空京を気にしてたのか」
ヒラニプラが目的地ではないのか。
武は首を傾げた。そうすると、飛空艇に乗り換えたハルカ祖父は、空京に向かったということになるのだろうか?
さて恒例の、”お守りに禁猟区がけ”イベントをと、光臣 翔一朗(みつおみ・しょういちろう)がハルカのところへ行ってみると、高務 野々(たかつかさ・のの)とハルカが向かい合って額を付き合わせ、何かを手に、じっと考え込んでいるところだった。
「あんたら何しちょるんじゃ」
見れば、野々が持っているのは翔一朗がハルカにあげた、今やあまり原型を留めていないあのお守りなのだった。
「いえ、ハルカさん魔法少女が好みだと言ってらしたので」
野々はうーんと困り顔だ。
うーんとハルカも付き合って困っている。
「変身アイテムみたいな感じにアレンジできないか、と思っているのですけど、難しいです……」
お守りをか。
突っ込みたい気分になるが、翔一朗はやめた。
野々はどう見ても本気だからだ。
どうすればいいと思います? と、縋るように見上げられて、
「知るか」
と、取りあえずそのお守りを取り上げた。
”禁猟区”をかけて、ぽいっと戻す。
「好きなようにしたらええわ」
「うっ……至れり尽くせりのスキルを持った私が、ハルカさんの為に変身アイテムひとつ作れないなんて……!」
「ののさんしっかりするです!」
自信喪失する野々を、ハルカが元気付ける。
大袈裟な……と思ったがまあ、これが彼等のスキンシップというかコミュニケーションというか、なのだろう。
つまり、ほっとけ、というやつだ。
「おのれあの老人、一体何を考えておるのじゃ!
こうなったら地の果て、地獄の果てまでも追いかけ、捕まえてやるのじゃ!」
意図的ではないにしろ、というか意図的ではないところがむしろ恐ろしいというか、のらりくらりとこちらの追跡を躱し続けるジェイダイトに対し、御厨 縁(みくりや・えにし)は息巻いた。
「で、具体的にはどうやって?」
と、パートナーのサラス・エクス・マシーナ(さらす・えくす ましーな)に訊ねられ、
「どうやって?」
と、支倉 遥(はせくら・はるか)に振り、
「どうやって?」
と、遥に振られたベアトリクス・シュヴァルツバルト(べあとりくす・しゅう゛ぁるつばると)は、
「ヒラニプラで追いつくしかあるまい」
と真面目に答えて、遥に
「あなたはダメですねえ」
と言われてしまって落ち込んだ。
「それにしても、飛空艇には燃料が無かったという話なのに、おじいちゃんどうやったて飛べるようにしたのでしょう」
さて、これからどうしようという話になって、高潮 津波(たかしお・つなみ)が首を傾げた。
「おじいちゃん、おほしさまになったの?」
飛べるという単語から、発想が一気に飛躍したサラスの手には、瓶詰めの金平糖。ころころと手に出して、もぐもぐと口にする。
「ハルカもどーぞ」
はい、と手のひらにころころと転がせば、ありがとう、とハルカももぐもぐと口にした。
燃料を新たに手に入れたのだろうか。とも津波は考えたが、しかし彼が、教導団のジープから飛空艇に乗り移った過程を考えると、それは変だ。
「ハルカのおじいちゃんは超能力者だったんですね☆」
なんて、軽くボケてみせると、
「おじいちゃん、超能力者じゃないですよ?」
と、ハルカはきょとんとする。
「って言うか、おじいさんが連れている方はとても力持ちなヴァルキリーさんか守護天使さんなのですねえ」
野々がしみじみと言って、視線が野々に集まった。
「……えーと、それどういう意味です?」
嫌な予感がしますねえ訊かない方がいいような気がしますと思いつつも、伊達 藤次郎正宗(だて・とうじろうまさむね)の隣りで、支倉遥は結局訊ねてしまう。
「え? ですから……中に入って持ち上げているんじゃないんですか?
こう、中から天井のですね、重心にあたる場所をですね、持ち上げて飛べば、飛空艇も飛びません?
ちょっと重いでしょうし安定も悪いでしょうから、それでフラフラしてたんじゃないでしょうか……って、えっ!? 皆さんどうして黙っちゃうんですか!?」
「………………いやあ」
ふっ、と、樹月 刀真(きづき・とうま)は疲れたように笑った。
「君のすごいところは、ソレ本気で言ってるところですよね」
「えっ、ええーそんな目で見ないでくださいよ、どうせ頭が悪いのは自覚してます!」
野々は真っ赤になったが、
「でもおじいちゃんが超能力者より現実味があるです!」
とハルカが力説して、
「ねえよ」
と突っ込まれていた。
「……あとは、元々ハルカのおじいさんが、燃料となり得る物を所持していた、という可能性だと思うんですけど」
津波は苦笑した。
しかし何だか、もうその話は後でいいような気がする。
とりあえず、燃料問題より、早く飛空艇に追い付こうという結論で落ち着いた。
目撃情報を辿りながら進めばいいだろう。
「中々追い付けなくて大変ですけど……でも最後まで一緒に頑張りましょうねハルカさん!
ベアも、よろしくお願いしますねっ」
ソア・ウェンボリス(そあ・うぇんぼりす)が、決意も新たにハルカと手を取り合う。
「おう、勿論!」
パートナーの雪国 ベア(ゆきぐに・べあ)と同時に、
「勿論! 俺にまかせとけ☆」
と、ベア・ヘルロット(べあ・へるろっと)がビシィ! と親指を立てた。
「………………………………えええええっと!」
同名別人に反応をされて、ソアは慌てた。
「いえ、違うんです私が呼んだのはっ。
ベア以外の、人様を呼び捨てなんてそんな」
「なーんだあ?
堅っ苦しいこと言ってんなあ。
気にせずこれからは俺のこともベ☆ア☆って呼べよ!」
はっはっは、と朗らかに笑ったベアに、白熊の方が詰め寄った。
「星マークはいらねえ! っていうかてめえなんぞに呼び捨てはいらねえ!」
「近ぇよ、黙ってろ白いの。呼び捨てがダメならおにーちゃんでもいいぜ」
「失せろロリコン!!」
一触即発の言い合いに、ソアはおろおろと2人を見る。
「ベ、ベア落ち着いてっ。
え、えとそうですね、ベアさんを呼び捨てにすると被ってしまいますし、呼び捨てにするよりは、ベアお兄さんて呼ぶ方がいいのかもしれないですね」
「ギャ――――!!! 何言ってんだご主人!
呼ぶなら俺をお兄ちゃんと呼べ! ハルカもだ! 遠慮無く呼べよ! 俺は生意気なガキは嫌いだが、素直で可愛い女の子は大好きだ!」
にこっ。と。天然の微笑みを伴ったソアの爆弾発言に雪国ベアがキレた。
何だかすごい混乱してるみたいねえ、と、周囲はそんな彼等を生温かく見守っている。
「……つまりベアってロリコンだったんですか……?」
「2人ともロリコンよ」
人間の方のパートナー、マナ・ファクトリ(まな・ふぁくとり)が、絶対零度の呟きを漏らした。
ぐるりとベアとベアが左右非対称で振り返る。
「「心外だ!! 自分/俺様はロリコンじゃねえ!!」」
「……美しい同類のハモりをありがとう」
フッ、と、マナが半眼で微笑む。
怖い、とベアは背筋に流れる汗を感じ、顔を逸らすついでにくるりとハルカに向かった。
「な、なーハルカ。ハルカも間違え易いだろ?
俺のことはおにーちゃんて呼んでいいぜー」
「? ハルカ間違えたことないですよ?」
にこにこと2人のケンカを見ていたハルカは、話を振られてきょとんと首を傾げる。
しばし、彼等はハルカを見て、
「……ちなみにハルカ、この馬鹿熊のこと、何て呼んでたっけ?」
パートナーを指差したマナに、
「べあさん」
「……じゃあハルカさん、こっちのベアは?」
ソアが指差した白熊には。
「くまさん」
なるほど…………。
と、一同納得したのだった。
「納得すんな! 俺は認めねえ!!」
「えーとえーと、とりあえずベアもベアお兄さんも……皆で頑張りましょう!」
「無理矢理まとめんなご主人! 俺はベアお兄ちゃんだッ!!」
最後まで、雪国ベアの虚しい悪あがきは続き、
「俺はロリコンじゃなくて『子供好き』なんだああ(特に女の子だけど)」
というベア・ヘルロットの主張は誰にも聞かれることがなかったという。
そして。
「呼び間違える云々ネタなら、君も混ざれば良かったんじゃないですか」
と、遥に言われたベアトリクスは、
「私に、さっきのあれに混ざれというのか」
と、心の底から呆れ返った。
「っていうか、子供は大人になるからいいものなのに」
遥は、ソア達と楽しそうに笑っているハルカが、視線に気付いてこちらを向いたので、こいこい、と手招きしてみる。
ハルカは素直にやって来た。
10年後くらい、だろうか。
胸はあまり大きくなくていい、とか、
いや大きくてもオッケーです、とか、
「? 何突然こちらを見るのか?」
ベアトリクスが不思議そうな顔をする。
「いえ」
その控え目な胸を見てたんですがとは勿論言わない。
さて妄想の続き。
髪はこのままもっと伸ばすと素敵だ、とか、
いやちょっと凝った感じにしても可愛いかも……とか、
妄想しては、うんうんと頷く。
「どうしたですか?」
きょとんと見上げてきたハルカの頭を
「早く大きくなってくださいね」
と、撫でた。
「ハルカ蒼空学園に来ればいいのに……」
「遥……」
何か変なことを考えてる。絶対考えてる。
ベアトリクスは半眼ジト目で遥を見つめる。
ダメだこいつ絶対ヒラニプラに着いても使い物にならない私が断言する。
はあ、と深い溜め息を吐き、ちゃんと私がひっぱって行かねば……と、こちらも決意を新たにするのだった。
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