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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)

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狙われた乙女~別荘編~(第3回/全3回)
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リアクション


○    ○    ○    ○


「あー、びっくりした死ぬかと思った」
 教導団のルカルカ・ルー(るかるか・るー)は、むくりと立ち上がった。
 瓦礫に埋もれていた彼女だが、ヒールをかけて瓦礫の中から這い出て、再びヒールをかけて完全に傷を治した。
「酷い目に遭ったな」
 一緒に埋まっていたダリル・ガイザック(だりる・がいざっく)も、自身にヒールをかけて、服の埃を払った。
「ルカルカ殿……!」
「こっちこっちー!」
 自分の名を呼ぶ声に、ルカルカは両手をぶんぶんと振って、場所を知らせる。
「やはり、無事であったか。ルカルカ殿だしな、心配はしていなかったが」
 駆けつけたのは、薔薇学に所属する親友藍澤 黎(あいざわ・れい)だった。黎の後ろから、パートナーのフィルラント・アッシュワース(ふぃるらんと・あっしゅ)エディラント・アッシュワース(えでぃらんと・あっしゅわーす)ヴァルフレード・イズルノシア(う゛ぁるふれーど・いずるのしあ)も荷物を持って現れる。
「おーい、見に……いや、助けに来たぞ! 無事でよかった。嵌ってる姿が見れず、ちと残念だがっ」
 楽しげに近付いてきたのは、薔薇学のエース・ラグランツ(えーす・らぐらんつ)と、パートナーのクマラ カールッティケーヤ(くまら・かーるってぃけーや)だ。こちらも、ルカルカがこの程度のことでくたばるとは思っておらず、十分に準備を進め、必要と思われる道具を揃えての登場だ。
「うん、一応礼を言っておくわね。来てくれてありがと」
 ルカルカは身体を伸ばしながら友人達に礼を言った後、周囲を見回す。
「毒ガスが充満していると聞いたが、確かに臭いますな」
 黎も険しい目で周囲に目を向ける。
「地下に避難した奴等がヤバイんじゃないか?」
 エースの言葉に、ルカルカが頷く。
「そうね、声聞いて、地下に向かってる途中で崩れちゃったんだよなー。多分このあたりに入り口があると思う。とりあえず足場つくろっか」
「皆、下がっていろ」
 構えるルカルカを見て、ダリルが皆を下がらせ、周りに被災者がいないことを確認すると、ルカルカに頷いてみせる。
「はっ!」
 ルカルカは、ヒロイックアサルト「疾風」を発動し、素早く蹴りを周囲に連続で放ち、瓦礫を破壊し飛ばして、周辺を広く安定した足場へと変えた。
「我ながら結構凶悪な戦闘能力ね。こんな所とても彼には見せられないわ。ダリル今見た事、黙っててネ☆」
 服の埃を払う彼女に、
「ああ口外しないさ」
 と、ダリルは肩をすくめる。知られたくない相手がいるらしい。
「入り口が分かれば……」
 黎は手近な瓦礫を退かしてはみるが、どこが地下への入り口なのかはわからなかった。
「……いた」
 パートナーのヴァルフレードが小さく声を上げた。小柄な身体で瓦礫を掻き分けて進んだ先に意識を失った若い男の姿があった。
「がんばって! 助けに着たんだよっ」
 すぐに、エディラントが駆けつけて、瓦礫の中の人を引っ張り出す。
「精神力は毒消しの為に温存しておかなならんで、怪我人はテントに運んでな」
 フィルラントは塩素系の匂いを辿り、瓦礫に埋もれた地下を探していく。
「それじゃ、掘るか」
 一旦離れていたエースは、作業着姿にヘルメット、足には安全靴を履き、頭にライトをつけて、準備万端だった。
 集落で借りてきたクワやツルハシを仲間に配って回り、地下の探索と、掘りが開始される。

「素敵な状況になっていますね。人も大量に埋まっているようで……。適当に戴きましょうか」
 パラ実の藤原 優梨子(ふじわら・ゆりこ)は、男女年齢負傷具合関係なく、真っ先に目についた人物を瓦礫の中から引っ張り出す。
「結構いるんですね。仕方ありません」
 優梨子はスパイクバイクに、発掘した負傷者達をロープで括りつけていく。
「それでは、救護用テントに向かいますよー♪」
 バイクを走らせて、負傷者を引き摺りながらテントへと向かっていく。
「こんにちはてきとー災害救助隊ですよ。おお、可愛らしいお嬢さんだ」
 蒼空学園の東條 カガチ(とうじょう・かがち)は、瓦礫を持ち上げ、その下に水商売風の女性を発見した。アタリのようだ。
「酷い怪我してるね、可哀想に。なぎさん、ヒールお願い」
「はーいてきとー災害救助隊看護隊員ですよ! あんまり精神力ないから、1回だけねー」
 呼ばれて近付いた柳尾 なぎこ(やなお・なぎこ)が、苦しげなその女性にヒールをかけた。
 その間に、カガチは瓦礫を可燃物と不燃物に分けて運んでいく。
「っと、こんな所にも手が……よっと」
 カガチは木材の下に手を発見し、木材を持ち上げて退かす。現れたのは男だ。
「まあ助けてやってもいいけど、救助費用100万Gデース」
 手を差し出すと、不良はゲホゲホと咳き込みながら、そんな金ねぇと悲壮な声を出し、カガチに手を伸ばしてきた。
「百合園のお嬢様方が肩代わりしてもいいんだよー」
 男を救い出して、ちらりと見た先には、マスクをして作業に勤しむ白百合団の小夜子の姿がある。
「どうか人命優先にお願いします。報酬は雇い主のミルミさんがお支払いになると思いますが、いくらなんでも100万は無理だと思います……」
「おおっ、ま、いいか」
 困り気味の小夜子の可愛らしい声にカガチはきゅん☆としてしまい、とりあえずこの1人分の報酬は受け取ったことにして、男を引っ張りだし塀の外に設置されたテントまで運んであげることにする。
「ざ、けんな……っ」
 しかし怪我をしながらも、少年は素直になれないお年頃らしい。
「ああ、救助中に変に暴れたりしたら手に持った瓦礫落としちゃうかも。だってびっくりするじゃないー」
 棒読みでカガチは言い、引っ張り出した少年をアチラの方向へ向かせる。
「それともああなりたい? ああなりたい? 止めないけど? それとも俺に命乞いする? 何か奢ってくれる?」
 少年に見せたのは地獄のドーナッツ。巨大な円と化している。
「か、勘弁して下さい。俺の小遣いじゃ空京のミスドのドーナツくらいで限界です」
「結構結構」
 青ざめて素直になり必死にしがみついてきた少年を背負って、カガチはテントの方へと運んでいく。
「あ、あんたはいいよいいよ、大変だったね」
 なぎこの治療を受けたパラ実の女性には優しく声をかけて、手を振っておく。しかし、パラ実女性はぷいっと顔を背ける。
「怪我完全に治っていませんから、手当てを受けて下さいね」
 作業服姿のカガチのパートナーエヴァ・ボイナ・フィサリス(えば・ぼいなふぃさりす)は、パラ実の女性をテントの方へ誘導する。
「肩、貸しましょうか」
「いらねぇよ……メス豚共め……ッ。偽善者ぶりやがって、腐った下種共が、反吐が出そうだッ」
「……何をお怒りなのかはわかりませんが、看護用スペースにはお優しい方が沢山いますので、ゆっくり休まれて下さいね」
 そういうエヴァはついついランスを構えている。怪我人とはいえ、被害者とはいえ、こちらはボランティアで助けてあげているのに、その言い草。軽くでも手を出されていたら、さっくり殺ってしまっていたかもしれない。
「それとも反対側に行かれますか?」
 エヴァが指し示した先には、そうドーナッツがある。あの芸術作品が!
「……い、いや……」
 その女性もソレを目にした途端、即座に大人しくなり、エヴァの肩を借りてテントへと向かうのだった。
「ゴキブリさんも、ねずみさんも、今たすけますよー」
 なぎこは固まっているゴキブリを発見して瓦礫を退かす。
「きゃっ……汚物は消毒です!」
 現れた黒き悪魔の塊を見て、瞬時に小夜子が消毒液を撒き散らす。
「うん、けがしたらしょうどくだよねー! ゴキブリさん、しみましたかー。テントでちゃんとちりょうしてもらた方がいいですよー。でも、お礼のたいやきは、なぎさんのだから食べたらダメなんだよ〜っ!」
 動かなくなったゴキブリや、瓦礫の下にもぐりこんだゴキブリを見ながら、なぎこは純粋に微笑みながら作業を続けるのだった。
「しかし、これほどまでいるとは……」
 蒼空学園の佐々木 真彦(ささき・まさひこ)が、事態の深刻さに突如服を脱ぎ始めた。
「え、えっ? 何を突然……」
 消毒液を手に驚く小夜子に、「服が汚れますから」と真顔で答えた。
「身体が汚れたり、怪我をしないためにも来ていた方がいいんじゃ……」
 小夜子は一応止めはしたが、真彦はビルダーパンツ1枚のみの姿になり筋肉隆々の身体を惜しみもなく晒すのだった。
「ようし、俺も頑張るぞ」
 加勢に現れたマーク・ヴァーリイ(まーく・う゛ぁーりい)も、ぱっと服を脱ぎ、上半身裸になる。
「ふん」
「ふむっ」
「ふぬっ」
「ぐむむっ」
 真彦とマークは筋肉語で会話をしながら、連携して大きな瓦礫を塀の外へと運んでゆく。
「これはガスマスクがないと危ないわね」
 真彦のもう1人のパートナー、ドラゴニュートの関口 文乃(せきぐち・ふみの)は半裸にならなかった。外見は14歳くらいの男だが、文乃はこれでも若き乙女なのだ。
 ガスマスクは用意できないが、1人粉塵用マスクを着用し、瓦礫の除去作業――もとい、現場の消毒作業に精を尽くしていた。
「ふおっ」
「ふんふふん」
 真彦とマークが一緒に持ち上げた柱の下から黒い塊がガサゴソと動き回る。
「熱での殺菌は基本中の基本なの!!」
「汚物は消毒です!」
 文乃の火術と、小夜子の消毒液噴射が重なり、ぼわっと炎が上がる。
「あちっ」
 マークの服――というか大事な部分を覆うパンツに火が点き、慌ててマークは柱を放し、自らの下半身を叩く。
「んむっ」
 ここで柱を落としては、近くに埋もれているかもしれない生存者を傷つけてしまうかもしれない。真彦は顔を真っ赤にしながら、重い柱を筋肉をぴくぴくさせながら1人で持ち上げるのだった。
「……けが人がいるらしいので、変な技を使わないように気をつけましょう」
「変な技なんて使ってないわ! 火術を使っただけ、火術を使っただけよ、消えなさーい!」
 真彦の忠告なんてなんのその。文乃は逃げ惑うゴキブリ達に炎を放ち捲くる。
 小夜子が振りまいた消毒液に引火して炎が燃え広がっていく。
「止めろ! 被害者のパンツも燃えちまうだろ!」
 マークが背後から文乃を羽交い絞めにする。
「寧ろ、汚れたパンツにも消毒殺菌が必要よね!」
 羽交い絞めにされても尚、文乃は火術を発動するのだった。
「いえ、この際パンツはどうでもいいのですが、被害者を増やさないで下さい」
 柱をどうにか放り投げた真彦も身を挺して文乃の火術を止めようと必死だ。
「どうでもよくないわ、そう、そのビルダーパンツも殺菌を――!」
「冬山、ぼーとしてないで。こちらです」
「は、はい」
 パートナーのエノン・アイゼン(えのん・あいぜん)の声に、なんだか圧倒されていた小夜子は我にかえる。
「酷い怪我をしているようです。すぐ治療を」
 取り除いた瓦礫の中から、エノンは少年を1人引っ張り出した。
「はい」
 小夜子はヒールで少年を癒す。そう、怪我人の救助と治療に専念せねば!
「……自制心だ俺、しっかりしろ俺。今、成すべきことを成すんだ俺……!」
 大きな声で独り言を言いながら、イルミンスールの姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)も、そちらから目を逸らして救助活動を勤しんでいた。パンツの問題ではなく、瓦礫の下にいた黒い生物的問題だ。
 害虫駆除に訪れた星次郎だったが、思うように進まぬ苛立ちと、仲間達に流されて結果的に屋敷の倒壊に力を貸してしまっていた。
 ここで救助活動しなかったら、流石に人としてマズいだろうと、そう考え、唱え続けながら救助活動を続けている。
「どうすればこのような状況になるのだ……? いや、救助が先だな」
 合流した姫北 昴(ひめきた・すばる)は、あまりの状況に困惑していた。
 倒壊した別荘もそうだが。
 なんか、巨大なメカダゴーン(めか・だごーん)とかエーテン(えー・てん)という名の物体が埋まっていたり、混ざり合った異臭が漂っていたり、近くでおぞましいドーナツが製造されていたり。
 理解の域を超える地獄絵図だった。
 あまり深くは考えないようにし、星次郎とともに救助活動に専念することにする。
「よかった、息がある。おい、大丈夫か。直ぐに助けてやるからな!」
 星次郎は無残な姿で倒れている不良に手を伸ばし、その付近の瓦礫を昴と一緒に退けていく。
「……っ……」
「おい」
 しかし、不良を引き摺り出した途端、その下から黒いアレが逃げさる姿を目撃してしまう。
 瞬時に不良を投げ出して、火術を放つ。しかし、素早いアレは星次郎をあざ笑うかのように、瓦礫の下を巧みな体捌きで、移動していく。
「ぎゃっ」
「おちつけ、星次郎」
 投げ出された不良と昴の声で、辛うじて星次郎は正気を取り戻す。
「大丈夫だ、俺は落ち着いている。冷静だ。自制心だ。しっかりしている。コレはアレにやられた被害者だ。救助だ救助だ。人命第一だ……」
 目を見開いているも、焦点が定まらぬ目で不良に手を伸ばして、星次郎は不良を抱え上げる。
「テントに向かうぞ。足元に気をつけろ。しかし足元は見んでいいからな」
 どれだけ理性を保っていられることかと、少し不安になりながらも、昴は手を貸して一緒に不良をテントへと運ぶのだった。