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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第3回/全5回)

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イルミンスールの冒険Part1~聖少女編~(第3回/全5回)

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●もう、同じ過ちは、繰り返さないで

「あれ、こっちだったかな?」
「ミサ、違う、こっちなのだよ」
 ジェルと冒険者との激しい戦いが繰り広げられている最中、愛沢 ミサ(あいざわ・みさ)何れ 水海(いずれ・みずうみ)の案内を受けて、『聖少女』が眠っていたと思しき場所へ向かっていた。
 二人の前方では、ミサが『光精の指輪』から呼び出した人工精霊――ミサはその精霊に『マァノ』と名をつけた――が、薄暗い廊下を照らしている。
(彼女達は結局何だったの? 何故ここで眠っていたの? そもそもここは何? ……分からないことだらけ。だから、少しでもいい、真実が知りたい)
 そんな思いを抱きながらミサが、目的地へ辿り着く。置かれた近代的な設備はどれも動いておらず、ミサや水海が操作しても再び動くことはなかった。
「何か見つかればよいのだが……」
 水海が、自らの指輪からも精霊を呼び出して――名前は『ヒカリ』――、部屋を隈なく調べていく。
(研究所だし、やっぱり資料とかは処理されちゃってるのかな……お願い、どんな小さな手がかりでもいいから――)
 瞬間、爆発の音と衝撃が部屋を襲い、ミサが床に崩れ伏す。
「ミサ、大丈夫!?」
「うん、ちょっとふらついただけ。……ここにもジェルが来るかもしれない、急いで――」
 言いかけたミサは、マァノが照らしていた筒状の装置、その下部の一部が剥がれ落ちそうになっているのに気がつく。手を伸ばしてそれに触れれば、一部が完全に剥がれ落ち、そして中から何かがかたん、と落ちた。
「……何?」
 拾い上げ、ヒカリのもたらす灯りと合わせて照らし出したそれは、手帳のように見えた。劣化や汚れで殆どのページは何が書いてあるのか分からなくなっていたが、内容からそれが、かつてここで『聖少女』に携わっていた研究員の手記であることが把握できた。

 『今日から、この遺跡で発掘されたという、少女の管理を任されることになった。聞けば、古代に栄えた王国が作り出した人工生命体で、同胞を吸収して進化するようだが、目の前の少女がそんなことをするとは思えない。それに、俺は他の研究者たちが、この子をモノ扱いするのが、どうも気に入らない。人工だろうが何だろうが、少女は少女だ。俺はこれからそう接してあげたい』
 
 『今日、少女に名を付けてあげた。『ヴィオラ』、それが彼女の名前だ。思いつきで付けてしまったが、後で調べてみると『小さな幸せ』という意味のようだ。何て彼女にぴったりなんだろう。こんな息苦しい世界の中で、それでも彼女には『小さな幸せ』を手に入れて欲しいと思う』
 
 『今日、新しく二人の少女が運ばれてきた。どうやらこの世界のどこかには、まだ彼女たちと同じ者が眠りについているという。彼女たちもこうして、ここで人の手によって不自由な暮らしを余儀なくされるのだろうか。それは嫌だ』
 
 ページの最後には、これを書いたと思しき人物の名、『スレイブ』と刻まれていた。おそらく研究所内での呼称であろうが、『奴隷』と呼ばれていた彼だからこそ、奴隷のような扱いを受けていた少女には、『小さな、だけどとても大切な幸せ』を得てほしかったのだろうか。
「……これ、あの人は知ってるのかな。知らなかったら、渡して教えてあげないといけないよね」
「そうだな。ではまずここを出て――」
 次の瞬間、先程よりも大きな爆発と衝撃が二人を襲う。崩れ落ちる機材から何とか逃れた二人が部屋の外に出れば、そこには壮絶な光景が広がっていた。

「……俺?」
「……僕?」
 ミサと水海の前に立ち塞がる、数十のミサと水海の姿をしたモノたちが、生気のない瞳を二人へ向ける――。

 同じ頃、別所では湧き出たジェルと冒険者の戦いが続いていた。
「かの者たちに、力を……!」
 雨宮 夏希(あまみや・なつき)の手から発せられた加護の力が、シルバ・フォード(しるば・ふぉーど)マリア・ペドロサ(まりあ・ぺどろさ)を包み込み、敵に立ち向かう力を与える。
「すみません、後はお願いします」
「っしゃあ! 任せとけ夏希、俺たちの姿を勝手に真似するヤツなんざ、ぶっ飛ばしてやるぜ!」
 剣を構えたシルバが、同じく剣を構えた自分と瓜二つのジェルと激しい剣戟を打ち交わす。剣と剣が触れ合うたび火花が散り、金属音が旋律を奏でる。
「加護ありと加護なしの違いは、大きいぜ?」
 何度目かの打ち合いの後、一瞬早くシルバが剣を引き、踏み込みから一直線に剣を繰り出す。振り下ろされた剣はジェルの装備していた鎧をバラバラに砕き、肩口を深く切り裂かれたジェルがうずくまる。
「これで終わりだ!」
 続く一撃で胸に深い傷を受けたジェルは、次の瞬間溶解して地面に染みを作る。
「やるわね! 私も続くわよ!」
 マリアが、自分と同じ姿をしたジェルの突き出すランスを盾で受け止める。衝撃で後方に下がりそうになるのをこらえ、力強い踏み込みから片手でランスを突き出す。衝撃は鎧を貫通して伝わり、ジェルがランスを取り落とす。
「私の姿だからって、手加減はしないわ!」
 ランスを両手に持ち替え、渾身の力で繰り出したランスが、鎧を貫いて致命の一撃を与える。長い足をかけてランスを引き抜くと同時に蹴り飛ばしたマリアの先で、仰向けに倒れた自分と同じ姿をしたモノが、形崩れただの液体と化す。
「……終わったみたいね。夏希、大丈夫?」
「はい、大丈夫です。二人とも、お怪我はありませんか?」
「私は何ともないわ。シルバは?」
「俺も問題ないぜ。……まあ正直、戦い辛い相手だったがな」
 シルバの言葉に、夏希もマリアも頷く。静かになった辺りを見回して、次の行動に移りかけた一行を、爆発の音と衝撃が襲った。

 鏡写しのように瓜二つの、しかし自らと同じ手に刀を持った敵に対して、巫丞 伊月(ふじょう・いつき)が左手に持った刀を隠すように右半身を前に、右手の力を抜いた状態で立つ。
「んふふ〜、ここまでは私と同じなのね。じゃあここから先、剣の技、戦い方まで同じかどうか、試してみようかしら〜」
 どこか、自分の写し身と戦えることを楽しみにするように微笑む伊月の横で、エレノア・レイロード(えれのあ・れいろーど)が手にしたお玉を相手も掲げたお玉と触れ合わせる。
「うむ、これで勝負するとは、話の分かるやつなのです。お玉は聖なる調理器具であり、真剣勝負に用いるための正当な武具なのです。それをちゃんと分かっているとは、やはりエレノアに化けるだけのことはあるのです」
「あらぁ、真剣勝負なんだからぁ、やっぱり刀じゃないのぉ?」
 伊月が振り返り、刀をちらつかせて言う。
「お玉の素晴らしさを理解しない下等生物は黙るです。さっさとやられてしまうがいいです」
 口ではそう言いつつ、振り戻った伊月に気付かれないよう、エレノアが加護の力を伊月に纏わせる。
「そうですか、そのメモとペン……やはり私と同じ姿の者は、私と同じようにメモを取るという至高の行為をわきまえているのですね。……いいでしょう、私、どこまででもお付き合いいたしましょう。さあ、あの戦い勇む様をメモに取り合い、素晴らしき時を共に共有いたしましょう!」
 二人と二人? の様子を、ラシェル・グリーズ(らしぇる・ぐりーず)と同じ姿をしたジェルが、メモとペンを手に見守る。……そう、そこまで似るのだ、このジェルは。
「行きますわよ……!」
「勝負なのです!」
 伊月とエレノアが踏み込み、刀とお玉を振り抜く。相手も同様に刀とお玉で応戦する。真っ当な勝負とそうではない勝負――当の本人はもちろん本気だ――の一部始終が、一心不乱にメモを取る二人によって記録されていく。
「んふふ〜、まあ、十分堪能したかしらね〜。……じゃあ、あっさりと切られちゃいなさい♪」
 言って伊月が、手にしていた刀を投擲槍のように放る。ジェルの方にその動きは予想になかったようで、かろうじて打ち弾くものの大きく体勢を崩す。そこを伊月が見逃すはずもなく、懐に収めていた光り輝く野太刀をすれ違い様に振るい、自らの写し身を二分割する。
「姿は真似できても、この家事に対する情熱は、真似できるはずがないのです!」
 エレノアの振るったお玉が、エレノアに姿を変えたジェルの頭をぽかん、と叩く。
「お嬢とお姉さまの勝利……はぁ、至福の一時でしたわ」
 メモを取り終え、ページをめくって読み返すラシェルの表情は、恍惚に歪んでいた。……ちなみにエレノアとラシェルに姿を変えていたジェルは、伊月の一振りで切り捨て御免の憂き目に合っていた。

(できれば応援に回っていたかったけど、ちょっと厳しいかしら? ん〜だったら、増援になろうかしら? まさか私のニセモノが、自分を強化するなんて思いもしないでしょうし!)
 掌に加護の力を宿らせたリカイン・フェルマータ(りかいん・ふぇるまーた)が、その力を自分にまとわせ、自分と同じ姿をしたジェルへ殴りかかる。咄嗟の反応を見せて直撃は免れるが、肩をやられたらしく片方の腕が力なく垂れ下がっていた。
(なるほど……俺を目にした時の姿をコピーするのですか。容姿はほぼ同じ、生気の感じられない瞳、紡がれない声……)
 橘 恭司(たちばな・きょうじ)が、左目に眼帯をした状態で、何も着けていない自らにそっくりのジェルを観察する。
「ルナ? 敵の数は多いけど、攻撃はしないでいいわよ? 回復だけしていればいいのよ?」
「分かりましたお姉様、です。己との戦いにくたびれた者たちを癒して差し上げる、です。……さあ、その程度でへばってないでニセモノに打ち勝ってくる、です」
 リカインの指示を受けて、天夜見 ルナミネス(あまよみ・るなみねす)が劣勢の仲間へ再び戦うための力を授けていく。
 三人を含む一行は、ほぼ同数のジェルと剣を交わし合い、魔法を撃ち合っていた。癒しの力を行使できないジェル側は、時間が経つにつれその数を減らしていく。途中投入された道具によりジェルの動きが鈍ったことも、冒険者を有利に動かしていた。
「そろそろ観察する部分も無くなったな……んじゃ、掃除しますか」
 呟いて恭司が、踏み込んだ姿勢から伸び上がり、瞬時にジェルとの距離を詰めての掌打を見舞う。それを拳で受け止めたジェルに今度は蹴りを見舞い、ジェルからの蹴りをバックステップで避け、再び距離を詰めて拳と蹴りの連打を与えていく。
「これが最後のパワーブレス! 止めの一撃、行くわよ!」
 掌に宿った加護の力が光り輝き、大いなる力と共にリカインが、手にしたメイスで無数の殴打をくらわせていく。三撃目でメイスを弾き飛ばされたジェルが、その後は無抵抗のまま攻撃を受け続け、最後の一撃で吹き飛ばされたジェルが地面に倒れ、そのまま液体となって地面に吸い込まれていく。
「終わりですね」
 恭司の振り下ろした光り輝く太刀が、ジェルを脳天から真っ二つに等分する。紅い液体とゼラチン質の物体を飛び散らせて、ジェルがやがて溶け出し、地面に染みを作って消えていく。
「一体は片付いたけど……まだいるの? もうブレス切れなんですけど」
 呟いたリカインが、剣を構えた格好のジェルを見据えたその時、すぐ横を風圧をまとった何かが飛び過ぎ、それは目の前のジェルを直撃して昏倒させる。
「あれ、どこにいったですか? やはりこういうことはお姉様にお任せした方がいいですね」
 振り返ったリカインの視界に、何かを投げたような格好のまま、ルナミネスが首を傾げていた。
(……あの子に武器を持たせなくて、ある意味正解かもしれないわね)
 苦笑を浮かべて、リカインがとりあえずの安全を確認し、仲間の冒険者の戦況を確認する。戦況は既に、冒険者に優位に傾いているようであった。

 ジーナ・ユキノシタ(じーな・ゆきのした)の振るったランスが、剣を振りかぶった冒険者の姿をしたジェル、その胴体を貫かんばかりに抉る。穂の先でなおも抵抗を見せるジェルを、ランスに力を込めて押し倒し、首のすぐ下辺りに足を乗せてランスを引き抜く。取り落とした剣を見つめながら、震える手を伸ばしかけたジェルの頭部に、無慈悲に刃が突き立てられ、動きが止まるとそれは液状となって地面に溶け消えていった。
(ただ今は見守るのみ……この戦いの中で何を掴む、ジーナ……)
 ジーナの背後で、時折飛んでくる攻撃を避けつつ、ガイアス・ミスファーン(がいあす・みすふぁーん)が無言を保つ。やはり無言のまま一連の動作を終えたジーナが息を一つついたその瞬間、左方から伸ばされた突きを受けて地面に転がされる。身体を起こしたジーナを覆う影、それを生み出しているのは、槍を狙い澄ませるジーナと同じ姿をしたモノ。
(……私が、私に殺される? ……私が、私を殺す?)
 混濁した意識の中でそう考えかけ、どうでもいいとばかりに頭を垂れたジーナへ、槍の一撃が振り下ろされる――。

 ジーナには、何が起きたのかが理解できなかった。
 ただ、気がついた時には、自分の前に立っていたはずの自分と同じ姿をしたモノが、遥か後方に吹き飛んでいた。

「お怪我はございませんか? もし立てないようでしたら、回復いたしますが」
 その声にジーナが振り向けば、清泉 北都(いずみ・ほくと)クナイ・アヤシ(くない・あやし)の姿があった。
「……いえ、大丈夫です。……あの、助けていただいて、ありがとうございます」
「? 僕たちは何もしてないよぉ。それであの魔物を吹き飛ばしたの、覚えていないの?」
(えっ……? 私が、私を?)
 北都の指摘に、ジーナが困惑した様子で、自分の手にしていたランスを見つめる。
「……ジーナが何を思っていたのかは、我でも完全には分からぬ。それでも我には、ジーナの生への願望があのような結果を引き起こしたように見える」
 ガイアスが歩み寄り、ここで初めて口を開く。
「生物とは結局のところ、生きて何かを掴むか死ぬしか出来ぬ。死なぬ限り生物は、生きて何かを掴もうとするものではないだろうか」
「生きて、何かを掴もうとする……私が……」
 呟くジーナの瞳に、少しずつ意思が宿り、全身に力が込められていく。直後、居合わせた四人を狙うように、四体のジェルがそれぞれ武器を構えて姿を現す。そのうち一体はジーナ、そしてもう一体は北都の姿をしていた。
「ジーナ、魔法の使い手は我に任せよ」
「はい……! 私は、私の相手をします!」
 ガイアスからの作戦を聞いたジーナが、しっかりと頷いて敵に向かっていく。一方で、自らの写し身と対峙した北都は、あくまでのんびりとした口調を保ちつつ、銃を構える。
「向こうは回復できないから、少し強引に押し続ければ倒せるだろうけど。……痛いのは嫌だからねぇ、早めに決着つけるよぉ」
 その背後でクナイが、掌に加護の力を二人分宿らせながら、おそらく抱いているであろう北都の複雑な心中を察して表情を曇らせる。
(私の何倍も、北都にはこの状況は耐え難いもののはず。少しでも北都の苦しみを和らげるためにも、全力で参りましょう)
 加護の力を北都と自らにまとわせたクナイが、向かってきたジェルと武器を交える。その横で北都が素早い動きで相手の懐に潜り込み、デリンジャーの引き金を引いた。

「過去の自分が、それよりも進化した今の自分に勝てるはずがない!」
 高月 芳樹(たかつき・よしき)の振るった剣が、自分の姿をしたジェルの持っていた剣を弾き飛ばす。返す刃で会心の一撃を見舞い、生み出した炎をぶつける芳樹の目の前で、崩れ落ちたジェルが液体の姿に戻って地面に消えていく。
「今ので、この辺りのジェルは全て撃破したようね。次は――」
 魔法を行使し終えたアメリア・ストークス(あめりあ・すとーくす)が芳樹に声をかけたその瞬間、近くで大きな爆発がしたような音と衝撃が響いてくる。
「今の爆発は何だ!? シャール、調べに行くぞ!」
「やれやれ、面倒事に首は突っ込まぬのじゃがのう……」
 姫北 星次郎(ひめきた・せいじろう)が爆発の起きた方角へ駆け出し、シャール・アッシュワース(しゃーる・あっしゅわーす)が渋々とその後を追うのを、芳樹とアメリアが目撃する。
「どうするの?」
「只事ではなさそうだな。俺たちも行くぞ」
 芳樹の言葉にアメリアが頷いて、先行した二人の後を追う。石や瓦礫が散乱した場所から、鉄骨がむき出しになりコンクリートが散乱している場所に移ってすぐのところで、一足先に角を曲がった二人が、何かを見てしまったといった様子を見せて後ずさりするのが見えた。
「一体何が起きている……!?」
 二人に追いついて見た先では、『二人の冒険者の姿をした数十の冒険者』という、書き表すと謎な話であるが、種明かしをすれば、数十のジェルが二人の冒険者の姿を模した、そういった光景が広がっていた。
 四人の接近に気付いた無数のジェルが、その生気のない瞳を向けてくる。数百の瞳に見つめられて、いい思いは決してしないだろう。たとえ外見がなかなかのものだったにせよ。
「敵であるのならば、倒す他あるまい。アメリア、サポートは頼む」
「ええ、分かったわ」
「俺たちも援護する!」
「なんだかよく分からないけど、面倒なことはさっさと終わらせよっ♪」
 アメリア、星次郎にシャールが、魔法の詠唱を開始する。その様子を見咎めたジェルが、素手のまましかし爆発的な加速力で一行へ迫り始める。
「ドラゴンアーツによる肉体強化か……だが、俺にだって!」
 言って芳樹が、爆発的な加速力を行使して、ジェルたちの動きに追随する。空間のあちこちで剣と拳がぶつかり合い、音が四方八方から三次元的なメロディーを生み出す。
「準備完了しました、そちらはどうですか?」
「ボクはいつでもいけるよ〜。最大火力で燃やしてあげるんだ♪」
「よし、カウント開始……三、二、一、……行けぇ!」
 アメリア、星次郎とシャールが同時に、凝縮された炎の弾を撃ち出す。床に跡を残しながら飛び荒んだ炎弾は、ジェルたちの集まる空間の中心で一つにまとまり、膨大な熱量と甚大な破壊力をもたらす。その威力は、空間の中にいたジェルを掃討し、液体すらも残さないほどのものであった。
「! おい、大丈夫か!?」
 残り火がくすぶる空間の中に、倒れ伏す二つの影を認めた芳樹が駆け寄る。声をかけられ、愛沢 ミサがゆっくりと身体を起こした。
「……よかった……これを、護ることができて……」
 年代モノと思しき手帳のようなものを大事に抱えたまま、ミサが再び床に倒れ伏す――。

 自らの写し身との戦いは、冒険者に何をもたらしたのだろうか。
 純粋に戦闘を楽しむもの、過去の自分を思い返すもの、今に生きる意味を見出すもの――。
 
 その答えは、彼ら各々の心の中に、きっとあるのだ。