リアクション
○ ○ ○ ○ 「罠、ない」 河原にて、ラズ・ヴィシャ(らず・う゛ぃしゃ)は女王の加護を使い、周囲を探った後、パートナーの魅世瑠の隣に立った。 「音する。来る――」 途端、バイク音が響き、パラ実生達が表れる。 「良く来たな。この話はおまえ達にとっても決して悪い話じゃねぇはずだ。あたしらは争いに来たんじゃねぇ」 河原にて、大きな石の上に立ち、ポンチョの上から武装した魅世瑠がマイク片手に胸を張る。 「てめぇら四の五の言わず、神楽崎優子様の配下に入れ」 その隣で、フローレンス・モントゴメリー(ふろーれんす・もんとごめりー)が同じような姿勢で、パラ実生に指を向けた。 「はあ?」 「つーか、男もいるし」 「10人の百合園生じゃねぇのかよ!」 「バカバカしい、戻るぞ」 「待ってください〜」 戻ろうとするパラ実生に、柔らかな声がかけられる。ミヒャエル・ゲルデラー博士(みひゃえる・げるでらー)が用意したマイクを魅世瑠から受け取って、女性が語り出す。 「私はキャラ・宋といいますぅ。十傑集の1人、E級四天王ですぅ」 ポンチョにトラ毛皮、悪びれた格好の皇甫 伽羅(こうほ・きゃら)だ。 十傑集などというものは特に存在しないが、魅世瑠にあわせておくことにする。 「優子様の下につけば、男子は百合園の美少女の皆さんと仲良くする機会ができる可能性がありますしぃ、女子は働き次第ではあの可愛いもふもふなゆるスターの子供を分けてもらえるかもしれませんよぉ」 伽羅の後には、サファリスーツにトラの毛皮を纏ったうんちょう タン(うんちょう・たん)が、適者生存を使い、威圧感を漂わせて立っている。 またその隣にはうんちょうと同じ格好の皇甫 嵩(こうほ・すう)の姿もある。 笑みを浮かべ優しい口調で語りかける伽羅と、左右に控える威厳のある人物のギャップに、パラ実生達はなんともいえない表情をする。 「えっと、てめぇら、ちゃんとキャラ姐さんの話聞けよ」 そして、少し離れた位置に、フレイムジャンパーを着たチンピラ風の男――アクィラ・グラッツィアーニ(あくぃら・ぐらっつぃあーに)の姿もあった。 更に伽羅達の後方では、ミヒャエルがエレキギターでゆっくりと音を紡ぎ出し、和やかな雰囲気を演出している。 「優子様がリーダーならあの喫茶店の店長さん達にも簡単にご理解いただけるはずですからぁ〜、これまで以上に美味しい料理を戴くことができますよぅ。百合園生さん達も、調理実習や給仕のお勉強に来てくださるはずですぅ」 「けど、百合園女の下につくのって男としてどうよ」 「俺等はリーダーの強さに惹かれてんだよ!」 「性別ではなく、その人物の魅力という面では、君達のリーダーが神楽崎優子四天王に勝ることはありますまい」 ミヒャエルが指を止めて、皆の方へと近付く。 「夏に、空京で人身売買を行なっていた組織の拠点が潰されたことはどなたかご存知かな? 指揮を採っていたのは、なにを隠そう神楽崎四天王その人であった。空京で一声かけただけで、75人ほどの契約者が集まり、その凄まじい采配によって、完全武装の要塞同然の屋敷を陥落させた。更にあのお方は追撃までを命じられた。1人たりとも逃がすことのないように、と。つまり、全 て 殺 せ と」 オールバックの髪型に、険しい顔つきで誇張された台詞に、パラ実生達がごくりと唾を飲み込む。彼等は所詮小悪党だ。 「……ええ、神楽崎四天王は弱者を甚振る行為を決して許しません。そして、弱者には慈愛深く、憐れみ深いお方」 サファリスーツにトラの毛皮。伝法なウィザードの出で立ちでアマーリエ・ホーエンハイム(あまーりえ・ほーえんはいむ)が説く。 「さて、この中でD・E級四天王の資格を持つ者に、挙手戴こう」 ミヒャエルが言うと、ほぼ全員が手を上げる。パラ実生達の足が後へと下がる。 「うっ……あっ」 ロドリーゴ・ボルジア(ろどりーご・ぼるじあ)が、1人の少年の腕を引いて、前に出る。 「神楽崎優子四天王は、百合園女学院の白百合団の副団長でもあり、現場指揮を担当しています。その白百合団の恐ろしさは……とても言葉で語りつくせるものではありません」 「わ、悪い……お、思い出したくねぇ……頼む、帰る」 ガクガクと震えている少年はブラヌ・ラスダー。白百合団のミルミ・ルリマーレンの別荘を占拠していた不良グループのメンバーだ。訳あって、教導団への入団を希望したが、学費の問題と学力の問題で入団できずにいた。 「我とて同じ。あの日の恐怖は一生忘れることはないだろう」 がしっとブラヌの腕を掴みながら、ロドリーゴはどこか遠い目をした。ま、ロドリーゴの場合、身内にボッコボコにされたのだが。そしてブラヌの場合、ボッコボコにされたわけでも、殺されそうになったわけでもないのだが。死にかけたかもしれないけど。 ブラヌの必死な様子と、ロドリーゴの悲壮な目に、パラ実生達は動揺を示していく。 更に、ミヒャエルが恐れの歌で恐怖心を掻きたてていく。 「っと、あっちも突入するらしいよ。今にも逃げ出しそうだけど、引き止めておかないとな」 パートナーからメールで連絡を受けたアクィラが、魅世瑠に耳打ちする。 魅世瑠はこくりと頷いて、声を発する。 「だが、優子様は話の判る方だぜ? カタギからカッパぐのはお嫌いだけどな、筋モンからむしるのは全然OKだぜ? 優子団に入ればヒャッハーした上にカタギから感謝されるんだよ!」 「多少の言いつけを守りゃあ、仕事の心配もいらねぇ、学びたきゃ、分校で学べる。女がほしけりゃ団に沢山いるってわけさ。いいことずくめだろ?」 魅世瑠とフローレンスがそう言うが、パラ実生達はすっかり恐れてしまったようで全員逃げ腰になっていた。 「あのまま喫茶店に篭っていたら、火攻めに遭って全滅でしたね」 アルダトがくすくすと笑い、追い討ちをかける。 途端、わっと一斉にパラ実生達が背を見せて駆け出す。 「逃がさ、ない……!」 「待つでござる」 ラズとうんちょうが野生の蹂躙を使い、パラ実生達を襲わせる。 「『宋家一門』の威力を見せつけてくれましょうぞ」 『皇甫義真ここにあり!』と名乗れぬことを無念に思いながらも、嵩が白馬を狩り、獣に襲われたパラ実生の元まで駆け、盾を使ってパラ実生達を打ち倒していく。 「斬る必要はござりませんな」 「そんなに怖がらなくても大丈夫ですぅ〜」 「う、ぐ……」 「わ、わかった。わかった、考えてみるからよ……」 にこにこと優しい声で伽羅が近付いていき、四天王の称号を持つ者達で震える8人のパラ実生を取り囲むのだった。 「さて、こっちの状況を伝えておくか。向こうは面白いことになりそうだけど……」 離れた位置に下がっていた伝達役のアクィラは、作戦がほぼ成功したことをメールでパートナーに伝えるのだった。 喫茶店組に合流したくもあるが、今回は伽羅のパシリ――ではなく、情報の伝達に専念することにする。 ○ ○ ○ ○ 「農家の人達を逃がした人がいるみたい。行こう!」 歩は裏口の方へと走る。 「ミルミちゃん、行く?」 「行くっ!」 ミルミの返事を受けアルコリアはミルミを抱き上げて走り、パートナーのシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)とランゴバルト・レーム(らんごばると・れーむ)もその後に続く。 「私は……四天王倒す必要があると思うからっ」 蒼空学園の小鳥遊 美羽(たかなし・みわ)は、隠れ身を使い店内に駆け込んでいく。 美羽は仲良くなった妖精達に美味しい野菜や果物を沢山食べさせてあげたいという気持ちで、農家との交渉に協力することにしたのだけれど、状況を見て四天王を倒す決意を固めていた。パートナーのベアトリーチェ・アイブリンガー(べあとりーちぇ・あいぶりんがー)には、妖精達の面倒を見てもらっている。 喫茶店の前には何故か椀を落として悶絶しているパラ実生がいるが、表へ出た殆どのパラ実生は河原の方へと向かっていった。 残っているのは店内に10人ほど。潜入しているメンバーもいるようだ。 「なんだ? こっちから店の奴等逃げ――」 裏口から顔を出し、仲間に報告をしようとした男に、アルコリアのパートナーシーマ・スプレイグ(しーま・すぷれいぐ)がブースターで加速し、突っ込み、メモリープロジェクターを発動する。 「こ、この!」 映し出され姿に、男が剣を振り下ろす。剣は幻影を斬り、男が体勢を崩す。 「重装備のボクより段違いに……遅いっ!」 シーマが加速を乗せた回し蹴りを男に叩き込んだ。 男の体は喫茶店の外に転がる。 バタンとドアを閉めた後、シーマもアルコリア達の後を追う。 |
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